2019年1月14日月曜日

読書メモ…歯痛・抗菌剤


自殺した太宰治の追悼、というよりも、力の限りドヤしつけているようにも思える「不良少年とキリスト」は、坂口安吾のひどい歯痛の話から始まります。


 もう十日、歯がいたい。右頬に氷をのせ、ズルフォン剤をのんで、ねている。ねていたくないのだが、氷をのせると、ねる以外に仕方がない。ねて本を読む。太宰の本をあらかた読みかえした。
 ズルフォン剤を三箱カラにしたが、痛みがとまらない。是非なく、医者へ行った。一向にハカバカしく行かない。
「ハア、たいへん、よろしい。私の申上げることも、ズルフォン剤をのんで、氷嚢をあてる、それだけです。それが何より、よろしい」
 こっちは、それだけでは、よろしくないのである。
「今に、治るだろうと思います」
 この若い医者は、完璧な言葉を用いる。今に、治るだろうと思います、か。医学は主観的認識の問題であるか、薬物の客観的効果の問題であるか。ともかく、こっちは、歯が痛いのだよ。
 原子バクダンで百万人一瞬にたゝきつぶしたって、たった一人の歯の痛みがとまらなきゃ、なにが文明だい。バカヤロー。 
(青空文庫版「不良少年とキリスト」冒頭より) Amazonで見る



ものすごく、痛そうです(T_T)。


ここで気になるのは「ズルフォン剤」という、耳慣れない(目にも慣れない)薬剤。

どんなものだろうと思ってネット検索すると、現在では「サルファ剤」と言われる、抗菌剤のことだと分かりました。この薬剤の発見者であるドイツ人医師、ゲルハルト・ドーマクは、これによりノーベル医学賞を受賞したとのこと。


日本には昭和初期から輸入され、国内生産もされていたようです。  

太宰治が亡くなった昭和23年(1948年)の夏に、坂口安吾が何箱も買い込んで服用していたという「ズルフォン剤」のパッケージなどの写真資料がないかと思って検索してみましたが、見当たりませんでした。


昭和の日常生活については、近世以前よりもはるかにたくさん資料があるようでいて、こういう細かなところから、容赦なく分からなくなっていくように思います。





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