2016年9月9日金曜日

小説 言の葉の庭 (味覚障害)


新海 誠 「小説 言の葉の庭 」(角川文庫)   





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《本文より》
「良くなってきたんだな、味覚障害」と受話器から男の声が応える。 
みかく、しょうがい? と、クエスチョンマーク付きで彼は言った。 
心配そうな口調とは裏腹に、病名に未だに彼が感じているであろう胡散臭さが、電話越しであってもとても素直に言葉に滲んでいる。かつて私は、この人のこういう素直さをこそいとおしいと感じていたのにとちらりと思う。




劇場版アニメが有名ですが、私はそちらは未見。
小説を、AmazonのKindle版で読みました。

味覚障害になってしまったのは、ヒロインの雪野 百香里。

彼女は、幼いころから、飛び抜けて美しい容姿のために、周囲に自然と壁ができてしまうような女性でした。もともと非常に感受性が鋭敏だったこともあって、外の世界では、なかなか心を通わせる相手を見つけることも難しく、常に孤立した状況に置かれています。

居場所のなさに苦しみながらも、百香里は、子どものころからの夢だった教師の仕事に打ち込み、教える才能を発揮して、生徒達の信頼を集めていました。


けれども、一人の生徒が悪意から引き起こした授業崩壊や、理不尽なバッシングによって、精神的に追い込まれ、次第に出勤が難しくなっていきます。百香里の味覚障害が発症したのも、その苦しみの最中でした。


引用した部分に出てくる「男」は、百香里がかつて付き合っていた同僚の教師でしたが、百香里が、一人の力ではとても対処しきれない、理不尽なモラルハラスメントを受け続けていることを知りながら、教師として本人が対処すべきものと決めつけて、孤独や苦しさを全く理解しようとしませんでした。百香里が悩んでいた味覚障害について話を聞いても、胡散臭いとしか思わないような人物ですので、まあ頼りにはなりません。百香里も、どうしてこれほど自分に合わない男と付き合おうと思ったのかと、お話を読みながら不思議でなりませんでしたが、それぐらい、他人との心の通じ合う可能性に、絶望していたということなのかもしれません。

百香里の味覚障害は、恋の相手としては年が離れすぎている孝雄と出会い、かけがえのない心の通じ合いを経験してから、次第に回復していきます。




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味覚障害は、加齢やミネラルの不足で起きるという知識がありましたが、今回この作品を読んで、改めてネットで少し調べてみました。


主な原因として、やはり食事の偏りなどによる亜鉛の不足を挙げているサイトが多いですが、心因性で起きる場合もあるそうで、若い人の場合は、鬱病などが原因になっている場合もあるとのこと。もっと他の病気が隠れていることもあるそうなので、気がついたら早めに耳鼻科で調べてもらうのがよさそうです。




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百香里と孝雄の関係がどうなっていくのか、物語のなかでは明確にされませんが、深い理解者であり、料理上手でもある孝雄と共に暮らすことができるようになれば、百香里はもう味覚障害に苦しむことはなさそうに思います。












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