3月のライオン 6 (ジェッツコミックス) Kindle版
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プロ棋士の世界を描いた物語ですが、テーマとなっているのは、さまざまな宿命を背負って生きる、孤独な魂の持ち主たちの姿ではないかと思います。
主人公の少年、桐山零は、なんとなく羽生善治を思わせる容貌と、天才的な将棋の気質を持つ、孤独な生い立ちの少年です。
零の両親はすでに亡く、プロ棋士の養子となって育ちますが、養父の実の子どもたちとは比べものにならないほど才能があったために、家庭崩壊の原因となってしまいます。
恩義ある養父の家庭を傷つけたことは、大きな負い目となって、零を苦しめつづけ、強い自己否定の要因となっていきます。
そんな孤独な零を見いだして、「心友」「ライバル」を自ら名乗って出たのが、六巻目の表紙になっている少年、二海堂晴信です。
二海堂は、身体がとても弱く、常に保護され、手厚く守られながら、将棋の世界に生きていましたが、この六巻では、とうとう対局の会場で倒れ、入院となってしまいます。
将棋の世界に詳しい方であれば、彼のまんまるな容貌から、すぐに連想される病名があるのではないかと思います。
■ネフローゼ症候群
かつて、この病気と戦い続けた、村山聖という天才棋士が、実在していました。
五歳でネフローゼ症候群を発症し、長い入院生活のなかで将棋を学び、17歳でプロに。
そして、1998年8月、29歳で、膀胱癌のために亡くなっています。
私は将棋にはまったく詳しくないのですが、村山聖九段が亡くなった1998年に、彼についての情報を、これでもかというほど、見ることになります。
なぜかというと、1998年の7月、つまり村山九段が亡くなる1ヶ月前に、私の長女が、ネフローゼ症候群を発症したからです。
当時、長女の病気についての情報を集めるために、インターネットをはじめたのですが、「ネフローゼ症候群」で検索すると、村山聖さんの名前が必ず出てきました。
ネットで伝え聞く、その壮絶な人生は、同じ病気の子どもを持つ親の心に、楔のように突き刺さり、焼きつき離れませんでした。
ネフローゼ症候群では、対症療法として、ステロイドの大量投与が行われます。
ステロイドは非常に副作用の強い薬で、投与期間が長引くと、容貌が激変します。
村山聖さんや、「3月のライオン」の二海堂の、あの特徴的な丸くずんぐりした、独特の顔立ちは、ステロイドの副作用によるものだと思われます。
村山九段にイメージの重なる、二海堂少年は、いつ発症するかわからない難病を背負いながら、プロ棋士としての過酷な人生を歩んでいます。
身体の限界と、棋士としての限界を常に意識しなくてはならない生活なのに、「心友」である零の孤独を思い、ともに育っていくことを願う様子に、人としての器量の計り知れない大きさを感じさせます。
架空のキャラクターではありますが、長生きしてほしいと、心から思います。
「物語の中の病気」索引
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