Kindleの無料本(主に青空文庫系)で見つけたコナン・ドイルの短編が面白くて、いろいろダウンロードして読んでいます。
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この青空文庫版は、1930年(昭和五年)に平凡社から出た「世界探偵小説全集 第三巻 シャーロック・ホームズの記憶」を底本にしているそうです。
青空文庫化されるときに、旧字・旧かなを現代表記に改めたり、「恰も→あたかも」のように、現在は使われない漢字表記をひらがなにしたりする変更が行われ、底本の表記からだいぶ変更されているようなのですが、ところどころに、変更の手をすり抜けたらしい、古めかしい表記が残っていました。
その一つが、「顚癇病」です。
ただ、この物語には、てんかんの患者は登場しません。
てんかんの患者らしい様子で登場した人物は、仮病をつかっていただけでした。
亜硝酸アミルは、狭心症などの心臓疾患に使われる薬剤だそうですが、「入院患者」が書かれた時代には、てんかんの患者に試されるようなことも、もしかするとあったのかもしれません。
引用文中の患者は、医者が亜硝酸アミルを持ってくる前に、病院から逃げ出してしまいます。
もしも治療されていたら、どうなっていたことか……。
この漢字表記には、ルビがついていなかったのですが、漢字の構成要素や前後の文脈から、「てんかんびょう」と読むことは想像がつきます。
この病名は、現代では「てんかん」とひらがな表記されるのが通例ですが、漢字表記される場合は、「癲癇」とされることが多いはずで、やまいだれのつかない「顚」の漢字が使われる日本語の用例は、google検索をしてみても、一例もありませんでした。
(※ネット上の青空文庫では、「顚」ではなく「顛」が使われていました。そして「癲癇」の表記で青空文庫を全文検索してみると、たくさんの用例が見つかります。)
おそらくは、底本となった平凡社版が、「顚癇病」の表記を採用していたのだと想像されますが、同時代に出版されている正宗白鳥の「吉日」(昭和3年)では「癲癇」の表記のようです。
ただ、この物語には、てんかんの患者は登場しません。
てんかんの患者らしい様子で登場した人物は、仮病をつかっていただけでした。
患者にはあまり高い教養はないらしく、時々その答弁は曖昧に分かりにくくなりましたが、私はそれを彼が私たちの国の言葉にまだ不馴れだからだ、と云うような様子を装ってやりました。けれどもそのうちに突然に、彼は私の問いに答えるのをやめましたので、私は驚いて彼を見ていますと、彼はやがて椅子から立ち上がって、全く無表情な硬わばった顔をして、私をまじまじと見詰めるのでした。----云わずと知れた、彼は例の神秘的な精神錯乱の発作に捕らわれたのです。
実際の話、私がその患者を見て、まず一番最初に感じたのは同情とそれから恐れとでした。が、その次に感じたのは、たしかに学問的な満足だったことを白状します。----私はその患者の脈の状態や性質やを詳しく書きとめ、それから彼のからだの筋肉の剛直性をためしてみたり、またその感受性や反応の度合いをしらべてみたりしました。
が、これらの諸点の診察では、私がかつて取扱った患者と、特別に違った所は何もありませんでした。そこで私はこうした場合に、患者に亜硝酸アミルを吸入させて、よい結果を得ることを思い出しましたので、この時こそ、その効果をためしてみるのによい時だと考えつきました。
(コナン・ドイル 「入院患者」より引用)
亜硝酸アミルは、狭心症などの心臓疾患に使われる薬剤だそうですが、「入院患者」が書かれた時代には、てんかんの患者に試されるようなことも、もしかするとあったのかもしれません。
引用文中の患者は、医者が亜硝酸アミルを持ってくる前に、病院から逃げ出してしまいます。
もしも治療されていたら、どうなっていたことか……。
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