2018年3月28日水曜日

小説「君色ドラマチック」(先天色覚異常)


真彩-mahya- (著) 「君色ドラマチック」  
スターツ出版   


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色覚異常を持つ女性が、アパレルメーカーでパタンナー(デザイン画をもとに型紙を作る仕事をする人)として働くうちに、恋愛と職業人としての自立の問題に直面する物語です。

主人公の杉原慧は、自分の仕事にとって大きなハンディとなる、色覚の問題を抱えています。


そう、私は生まれつき色覚に異常がある。赤い色を感じる錐体が欠けていて、青はかろうじてわかるけれど、あとはピンクなのか黄色なのか、赤なのか緑なのか、さっぱりわからない。色の濃淡はわかるけれど、色味がわからないのだ。だから、肉が生の状態の赤色から、火が通ってピンクから茶色っぽくなっていくのもわからない。 (「君色ドラマチック」から引用)

感覚のテストがない推薦入試で入学した、専門学校の服飾学科。なんとかかんとか二年に進級した私に、最大の試練が訪れた。卒業制作だ。平均四人ほどでチームを組み、デザインから縫製まで、すべてをこなして一着の作品を作る。
……のだけど、私と組んでくれる人は誰もいなかった。学校に通ううち、友達もできたはずだったんだけど……気づけばみんなさっさとグループを作っていて、私はつまはじきにされていた。しょうがないか。色がわからない私を入れたら、気を遣うし、戦力として微妙だしね。服を作ることにすべての情熱と命を懸けているような同級生たちに、私の存在は邪魔だったんだろう。
(「君色ドラマチック」から引用)



それでも慧は、色覚に左右されないパターンの技術を懸命に磨いて、才能を開花させていました。

就職でも苦戦しますが、専門学校の卒業制作でチームを組んだ結城のツテで、アパレルメーカーに採用され、事実上、結城専属のパタンナーとして働くようになります。

デザイナーとしての才能豊かな結城は、慧の恋人でもあるのですが、とても女性にモテる男性なので、職場の女性たちとのいざこざを避けるために、二人の関係は秘密にされています。

恋人としての結城との関係は淡泊で、二人でいても仕事の話ばかりしている日々ですが、慧はそれで充実していましたし、ずっとそんな日が続くと思っていたのですが…

あるとき、結城のほうから、同じ会社に所属する、櫻井というデザイナーと組むようにと勧められます。とまどいながらも櫻井の仕事を受けた慧は、結城が秘密裏に、別の女性パタンナーと仕事をしていることを知り、ショックを受けます。


一方、櫻井は、慧のパタンナーとしての能力の高さを知ると、自分の独立に合わせて慧を会社から引き抜こうとしてきます。

その際に櫻井は、慧が結城に依存した状態であることを指摘し、そままでは慧の未来は暗いと言い切ります。


さらに、結城が慧に黙って仕事を依頼していたバタンナーの、森という女性が、わざわざ慧を呼び出して、色覚異常のパタンナーがデザイナーを利することはないという暴言を吐きながら、独立したがっている結城の足を引っ張るのをやめるようにと忠告しにきます。

「色弱のあなたに、これから結城さんがステップアップしていくサポートが、じゅうぶんにできますか? いくらパターンを作るのが上手でも、それだけじゃ」


猛然とマウンティングしてくる森嬢の意図は、慧を蹴落として、仕事面でも恋愛面でも自分が結城のそばに立とうとするものだったのかもしれませんが、依存関係への負い目があった慧にとっては、結城との決別に踏み出すのに十分なきっかけとなりました。


慧は、会社から独立する櫻井の引き抜きに応じることを決めて、結城には一切相談せずに、退職届を提出しますが……




詳細は省略しますが、多少の修羅場を経て、結局、結城と慧は、相互依存の狭い世界にとらわれているのではなく、一緒にいることで豊かな色を創造していくことのできる生産的な関係である、ということでハッピーエンドとなります。



先天色覚異常


日本眼科学会のホームページの「先天色覚異常」のページに、わかりやすい説明があります。

http://www.nichigan.or.jp/public/disease/hoka_senten.jsp


小学校で義務づけられていた色覚検査が2003年度から廃止されていること、ごく一部の職業をのぞいて、就業時に色覚について問われるケースがほとんどなくなっていることなど、広く知られるべきだろうと思いました。

このページの最後の「ご両親へ」という文章を引用します。

 我が子が生涯幸せであれと願い、子孫にわずかな弱点も伝えまいとするのは人間の本能です。しかし、人間にはさまざまな能力と数々の短所があります。また、遺伝が関与する疾患や障害は数多く、誰しも何らかの遺伝子異常を持っているものです。
 色覚異常は場合により多少問題を生じることがあっても人生を脅かすほどではなく、他の能力や遺伝的障害に比べ損失はわずかです。また、遺伝というものは誰のせいでもありません。
 一部に残る色覚異常を嫌う風習は知識の不足によるところが大きく、色覚異常の遺伝をめぐる問題は、社会全体が色覚異常の色の見え方を正しく理解すればほぼ解決します。社会のつまらない誤解に悩むことのない、もっと楽しむことができる世の中にしたいものです。



この文章は、先天性の色覚異常に対する差別意識が、他の多くの障害や慢性疾患に対する差別同様、まだ社会のなかに残存していることを憂え、そのようなことがなくなるようにと願ってために書かれたものだと思われます。



先天色覚異常、いじめ・差別を受けるなら…教育の敗北 (YOMIURI ONLINE)
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20160415-OYTET50017/

こちらの記事では、作曲家の團伊玖磨氏が先天色覚異常であり、そのために教育の場での差別に憤ってきたことが書かれ、

 色覚異常者は、色覚正常者とは少しだけ異なった特性を持った色感覚を持っているという考え方を学び、周囲の少しの配慮、思いやりをそこに導入させることこそ、学校教育の重要課題なのではないでしょうか。

と結ばれています。ほんとうに、その通りだと思います。

なお、記事の執筆者は、井上眼科医院名誉院長の若倉雅登氏。専門は、神経眼科、心療眼科、とのこと。上の記事を含む、「心療眼科医・若倉雅登のひとりごと」というコラムのシリーズをネットで読むことができます。




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