2018年2月16日金曜日

「猫の国語辞典」(ハンセン病)


佛渕健悟・木暮正子編「猫の国語辞典」小学館


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動物を詠んだ短歌や俳句がすきなので、本書を取り寄せて眺めていたら、句歌の下に「ハ」という記号のついたものがいくつもあるのに気づきました。


巻頭の凡例を見ると、「ハ」は「ハンセン病文学全集」を出典とする作品ということでした。


以下に、「ハ」のマークのついた句歌を、抜き出してみました。
(一通り確認しましたが、抜けがあるかもしれません)


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肌柔き仔猫を日日に愛しめり盲ひゆく今の独り静けく 辻瀬則世


犬猫の夜見ゆる眼を涙してうらやむ共を慰めがたき   鈴木数吉


垣ばら(薔薇)の真赤に咲ける花の下身籠る猫の腹が土をする  笠居誠一


わが座れば、なき足の上の衣のうへに来てさみしく猫は眼をつぶるなる  尾山篤二郎


陽炎や障子に映る親子猫  近藤緑春


猫去りて矢と降り来たる寒雀   辻長風


玄関を出る恋猫を見とどけぬ   辻長風                  


鈴つけし猫従いてくる萩の道   水野民子


猫の子の鼻に消えたり石鹸玉(しゃぼんだま)    一松


日向なる猫丸々と牡丹の芽       小見思案


猫の子に飯を冷やしてあたえけり  中野三王子


猫抱いて胸を病む娘や秋の風   栗原春月


芭蕉忌の猫抱いてゐる盲かな   藤本銭荷 
(ハンセン病で視力を失った自身のこと)


野良猫も生きねばならぬ軒に居る    伊藤松洞


毛がぬけて嫌われてをり孕み猫   早川兎月


盲人の膝に眠れる子猫かな   太田あさし 
(盲人=ハンセン病で視力を失った自身)


春近き日向に丸き仔猫かな  武田牧泉


夫婦猫夜なべの姿の傍らに   中野きんし





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一つ一つの短歌や俳句のなかの、猫に向けられる思いや視線の背景に、詠まれた方々の深刻な病状や、重苦しい境遇があるのが感じられます。


視力を失って、抱いた猫の体のぬくもりを静かに感じている方々。

夫婦の猫や、恋する猫、妊娠した猫を詠んでいる方々は、療育園の方針で、結婚や出産を禁じられていたのかもしれません。

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「ハンセン病文学全集」のプレスリリースと、ネットパンフレットを掲載しているサイトがありました。


プレスリリース
https://www.atpress.ne.jp/news/483

ネットパンフレット
http://www.libro-koseisha.co.jp/TOP-zenshu-pan/PANHU-MAIN.html


詩歌の巻は、昨年(2017年)亡くなった大岡信氏が責任編集者となっています。

全十巻は第一期というのだから、二期以降も刊行されるのでしょう。


「猫の国語辞典」の「ハ」の作品に気づかなければ、こうした全集があることも知らないままでした。


差別と隔離が産んだ文学というふうに捉えるならば、本来なら、あってはならない作品集であると言えます。

けれども、現実にそれは起きてしまったのであって、そこで生きてきた方々が残した作品が埋もれて消えてしまうことも、あってはならないことだと思います。







ハンセン病



日本では、いまではとてもまれな病気になっているけれど、全世界では25万人ほどの患者が登録されているといいます。

歴史的に差別の原因となってきた疾患ですが、現在では適切な治療を受ければ、重い後遺症を残さず、感染源となることもない病気であることは、広く知られるべきだと思います。

ウィキペディア 日本のハンセン病問題










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