さよならタマちゃん (イブニングコミックス) Kindle版
武田一義 (著)

漫画家になることを目指して、アシスタントをしていた主人公を襲った病気は、精巣のがんでした。
手術。
抗がん剤治療と、副作用。
夫婦の絆。
がんの闘病をする患者さんたちとの出会い。
仕事への思い。
がんとともにある個人の暮らしのことを、丁寧に、細やかに描かれた作品。
闘病ものの作品は、一度だけ読んで終わることが多いのですが、この作品は、なぜか時折、読み返したくなります。
入院治療のために、主人公が、アシスタントの職を辞すことを決意する場面があります。
すると雇い主の漫画家さんに伝えると、その漫画家さんが、職場の仲間をみんな引き連れて病室にやってきて、こう言うのです。
「迷惑かけたくない気持ちも分かりますけど、病気なんだから それはあきらめませんか」
これ、すごい言葉だと思います。
大切にしている仲間から、こういう言葉をおくられたら、どんな病状であれ、厳しい状況であれ、真剣に生きることに向き合うしかなくなりますし、そうする勇気もわくのではないかと思うのです。
なによりも、そういう仲間とつながってきていた、この主人公が、すごいなと思いました。
最近、世の中では、障害者や難病者を「迷惑な存在」として非難するような、声高な主張が増えてきているようです。
つい最近も、人工透析の患者さんたちをバッシングする発言をした元アナウンサーの人が、仕事を干されるに至り謝罪をする、といった騒ぎがあったばかりです。
(長谷川豊氏のブログの謝罪記事→ この度の騒動で嫌な思いをされた全ての方に心よりお詫び申し上げます。)
生身の人間なのだから、誰もがいつかは体を壊すことがありますし、それが大変な治療をしなくては命の助からないものである可能性も、常にあります。
予算が足りないといわれる、社会福祉のひずみを何とかするために、社会的負担の大きい病人や障害者を切り捨てようという発想ではなく、なんとかしてともに生きようとする発想で、物事を変えていくことはできないかなと、切実に思います。
切り捨てられることが約束されたような社会では、がんばることは難しいです。
けれども、そこがかけがえのない居場所であると思えるような社会であるなら、重い病気や障害のある人生にも、もっと違った風景が見えてくるのではないかと思います。
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