2016年12月31日土曜日

椎名軽穂 「君に届け 5」 (風邪)



椎名軽穂 
「君に届け 5」  リマスター版  (マーガレットコミックスDIGITAL) 
Kindle版

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もう、ほんとうに大好きです、この作品。

五巻目は、くるみ(梅)と爽子の関係が大きく進展する、見どころの多いお話でした。

風早への思いを成就させたい一心で、他人を利用して爽子を陥れる行為をも厭わなかったくるみが、本来の一途でまっすぐな性格を取り戻していきます。

精神的な危機やつらさを乗り越えて、勢いよく成長していく十代の子どもたちの姿ほど、好ましいものはないと思います(年寄りの意見)。


リアルな十代は、もっとカオスですし、こんなふうにすっきりとは行かないことも多いわけですが、それても、こういう物語が存在することで、成長する勇気を持てる若い読者は、きっといるのじゃないかと思います。

成長して、変わっていくためには、自分自身が勇気を出して、明確な意志を持つ必要があります。周囲の期待に背中を押されて、世の中にあらかじめ敷かれているレールの上を走りながらがんばるだけでは、到底、見つからない勇気なんですけど、そういうことを教えてくれる親や学校は、なかなかいません。


その、なかなかいない役割を一身に背負っているのが、爽子や風早の担任である、荒井一市、通称「ピン」なのですが・・・・


序盤、ほんとにこの人、カッコ悪いですねえ。(´・ω・`)


この五巻目では、だらしない、ダメな大人の姿を、余すところなく見せてくれます。




■風邪


レンタルショップでエロビデオを借りていたピン先生は、ホラーDVDを借りに来た爽子と遭遇。

爽子はその場で、鼻声のピン先生が風邪気味であることを見抜き、早めの手当を勧めますが、ピン先生のほうは、エロビデオと霊障を見抜かれたと思い込み、パニックに。

翌日、ピン先生は案の定風邪をこじらせ、ひどい寒気と高熱に襲われますが、本人は霊に取り憑かれていると思い込んでいるため、霊能力があると言われている(本当はそんなものはない)爽子を自宅に呼び寄せようとします。


呼ばれてやってきた、爽子、風早、やのちん、ちづ、龍の5人は、汚部屋のなかで震えているピン先生を発見。爽子の指示で、みんなで手当をし、部屋まで片付けてあげて、寝かしつけてあげて・・・・けなげな生徒たちです。


ひと眠りしたピン先生は、あっという間に風邪症状を駆逐。

けれども、もともと霊感の高いピン先生に取り憑いた霊障(?)は、そのまま部屋に残っていて、ありもしないノックの音が聞こえたりしています。


俺様で無神経そうなピン先生ですが、実は人の気持ちをよく理解し、進む道を迷いなく勧めることもできる、とてもいい先生です。自分に直接関わらないことに関しては、人間関係への洞察力も、かなりのもの。カンも相当いい人のようです。

霊感が高いのも、それに関係しているのかもしれません。

いい先生なのに、なかなか「素敵」な先生に見えないのは、気の毒ではあります。髪型が悪いかも……なんであんなスーパーサイヤ人みたいに、毛を全部上に立ててるんでしょうね。


(´・ω・`)










いまごろ気づいたんですけど、「君に届け」のKindle版は、紙のコミックより、21円安いんですね。




2016年12月30日金曜日

ながさわ さとる , オリヴィア ・ゲイツ 「千一夜におぼれて」 (子宮内膜症)


ながさわ さとる , オリヴィア ・ゲイツ  
千一夜におぼれて ジュダールの王冠 (ハーレクインコミックス)
  Kindle版
 出版社: ハーレクイン       
               





仕事で知り合ったアラブのファルーク王子に期間限定の恋人になるよう求められヒロインのカルメンは、交際中に想定外の妊娠をしてしまい、王子に疎まれることを恐れ、別れてしまいます。


もともと重い子宮内膜症を患っていたカルメンにとって、子どもを授かったことは、奇跡のような喜ばしい出来事でした・。

けれども、アメリカ人女性であるカルメンにしてみれば、国籍も身分も違いすぎる王子に妊娠を打ち明けたところで、結婚はもちろん、子どもの扱いがどうなるかも分ったものではありません。

悩んだ挙げ句、カルメンは王子を捨てて、シングルマザーの道を選ぶことに。


ところがそこに、王子の政敵による陰謀が絡んできてしまいます。もともとカルメンにベタ惚れだったファルーク王子は、政敵の嘘にまんまと騙され、カルメンが金の亡者で敵のスパイだと信じ込んで、大激怒。


しかしこの王子、カルメンに心底惚れていたのなら、なんで期間限定の恋人になんかしたのか。そのあたりの事情は、原作小説を読めば明らかになるのかもしれませんが、漫画版ではよくわからないので、王子の大きな減点要素になっています。身勝手な上に単細胞とか、ろくでもありません,ね。(´・ω・`)




ファルーク王子を捨てたカルメンは、一人っきりで帝王切開を乗り越えて、娘のメナを出産しますが、産後に子宮内膜症が悪化してしまい、子宮を摘出しています。


つらい思いを克服して、働きながら育児をしていたカルメンのもとに、ややこしい王家の事情を背負い込んだファルーク王子が、カルメンの本心を誤解したまま激怒状態で乗り込んできて、自分の娘を一目みた途端、溺愛親バカオヤジに変貌し、カルメンとメナを脅して強引に自国に連れ去りそのまま結婚。


王家の事情というのは、次期国王として、男の世継ぎを作るべしという義務を課せられていることと、王位を狙う政敵が陰謀を用意して待っていたことですが、王子はそれらを一蹴し、皇太子の地位を捨て去り家庭を取ります。


王子は、一気に男前レベルをアップして、ハッピーエンド。



それにしても、このジャンルに出てくる、権力と財力と美を併せ持った「アラブの王子様」たちは、まるっきり夢の世界の存在かと思ったら、現実世界にモデルと思われる方々が存在していることを、最近知りました。


「アラブ 王子」などで画像検索してみると、恐ろしく顔立ちの整った王家の方々の写真がたくさんでてきて、驚きます。ドバイの王家とか、写真だけ見ていると、まるでハーレクインを映像化したかのようで、世界的にも大きな話題になっているとか。


異文化に所属する彼らとのロマンスを思い描くこと、架空の物語を次々と生み出して空想することが、アメリカの女性達の楽しみになっているのでしょうか。


次期アメリカ大統領のトランプさんは、イスラム教徒を嫌う発言をして、アラブ諸国の反発を受けたりしているのを見ると、なんだか日本の韓流・嫌韓みたいな構図があるように、見えないこともありません。





あ、でも、ハーレクイン社の本社って、アメリカじゃなくて、カナダにあるんだそうですね。ずっとアメリカのものだとばかり思っていました(いろいろ無知でした)。




■子宮内膜症



物語としては、爽やかな終わり方でしたけれども、カルメンの子宮内膜症の経過や予後がはっきり分からず、気になるところです。

まだ若いうちに、子宮、卵巣を全摘した場合、内膜症は完治となったとしても、その後のホルモンバランスの以上などで、つらい症状もあるのではないかと思うのです。

政争の多い異国の王家に嫁いで、夫は皇太子を降りたとはいえ、ストレスの多い生活であることは間違いないでしょう。夢物語のハーレクインで、そこまで心配する必要はないのでしょうけれども、病気を意識しながら作品を読んでいるので、どうしても気になりました。




      

2016年12月29日木曜日

小西 明日翔 「春の呪い 2」  (ガン…詳細不明)


小西 明日翔 「春の呪い  2 」 (ZERO-SUMコミックス)
Amazon Kindle版




















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お話は、この二巻目で完結です。

未来の風通しが良くなり、希望の持てるラストでしたが、この先、夏美と冬吾に降りかかってくる苦労は、並大抵ではないだろうなと予想できるので、読後感は、すっきり爽やかではありません。



二人は、自分たちを縛り付けていた家を切り捨てる決意をしましたが、亡くなった春の思いは、そのまま受け止めて先に進むことにしたようです。


夏美がみつけた、生前の春のSNS(たぶんTwitter)の書き込みには、残された者達にとって、呪いそのものともとれる文言でした。



春は、かなり早い時期に、自分の婚約者の冬吾が、姉の夏美に心を寄せていることや、自分が姉ほどには冬吾に愛されていないことを、見抜いていました。


SNSには、姉への嫉妬と、冬吾に対する強烈な執着心や独占欲がありのままに綴られていて、とどめには、姉を地獄に道連れにしてでも、冬吾と引き離したいと書かれています。


それを読んだ夏美は、唯一無二の恋人のように愛していた妹に、すでにフラれてしまっていたことと、憎悪の的になっていることを知って、深く動揺します。


けれども、何も言わずに亡くなった春の本心と向き合ったことが、夏美が春への依存を断ち切り、一人で前に踏み出す切っ掛けにもなったのだと思います。


そう考えると、春の恋心という呪いは、解呪の呪文と表裏一体のものであったとも言えるかもしれません。


それにしても、夏美にしろ冬吾しろ、春よりも、それぞれの家庭の問題のほうが、よほど深刻な呪いのようになっていますが、そっちは大丈夫なのか。

冬吾の母親は、肉親というよりも、まるで家の体面とか名誉とか利益とかを守るために家庭に搭載されたAIみたいで、人間らしい愛情の気配が全く見えず、かなり気持ち悪い女性です。


息子の自由意志を認めない。
息子が自分と違う意見を持つことを一切許さない。
息子の気持ちを考えず、無視する。
息子に自分とは違う独自の人生があるということを認めない。



社会的にはまともなのかもしれませんが、家庭のなかでは、立派な毒親の一種だろうと思います。


こんな人に、幼少期から徹底的にコントロールされて育てられたら、自由意志とか人生の目的など、抱こうとも思わなくなるかもしれません。


冬吾には兄もいるようですが、作中には顔を出しません。
同じ母親に育てられてきて、どうなっているのか、かなり気になるところです。適当に母親から離反して、まっとうな人生を歩んでいるのだとしたら、今後、冬吾の支えになってくれることでしょう。






完結してしまいましたけれど、欲を言えば、夏美と父親、冬吾と母親の確執と、結末まで、描いてほしかったなという気もします。


ただ、そこまで描いてしまうと、「春の呪い」ではなく「家の呪い」になってしまうんですよね、きっと。 (´・ω・`)



なお、二巻目では、春の病状について、一巻目よりも踏み込んだ描写がありました。

デート中の重い貧血から、発病していることがわかったこと。
治らない病気ではないと、意志に言われていたこと。
貧血は、輸血すればよくなるとされていたこと。
その後、抗がん剤で白血球が減ってしまい、発熱しはじめたこと。
「移植」のための処置で、息が上がるようになってきたこと。



医療に詳しいわけではないので、確証は持てませんけれども、白血病、骨髄移植を思わせる描写ではあります。


春の人生は、悲しい終わり方をしましたけれども、どんな形であれ、その思いをまるごと受け止めて、生きていこうとする家族がいたことは事実です。


そのことを「幸せ」とは言えないとしても、深い意味で、意味をもった人生だったと言うことはできると思います。