小西 明日翔 「春の呪い 2 」 (ZERO-SUMコミックス)
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お話は、この二巻目で完結です。
未来の風通しが良くなり、希望の持てるラストでしたが、この先、夏美と冬吾に降りかかってくる苦労は、並大抵ではないだろうなと予想できるので、読後感は、すっきり爽やかではありません。
二人は、自分たちを縛り付けていた家を切り捨てる決意をしましたが、亡くなった春の思いは、そのまま受け止めて先に進むことにしたようです。
夏美がみつけた、生前の春のSNS(たぶんTwitter)の書き込みには、残された者達にとって、呪いそのものともとれる文言でした。
春は、かなり早い時期に、自分の婚約者の冬吾が、姉の夏美に心を寄せていることや、自分が姉ほどには冬吾に愛されていないことを、見抜いていました。
SNSには、姉への嫉妬と、冬吾に対する強烈な執着心や独占欲がありのままに綴られていて、とどめには、姉を地獄に道連れにしてでも、冬吾と引き離したいと書かれています。
それを読んだ夏美は、唯一無二の恋人のように愛していた妹に、すでにフラれてしまっていたことと、憎悪の的になっていることを知って、深く動揺します。
けれども、何も言わずに亡くなった春の本心と向き合ったことが、夏美が春への依存を断ち切り、一人で前に踏み出す切っ掛けにもなったのだと思います。
そう考えると、春の恋心という呪いは、解呪の呪文と表裏一体のものであったとも言えるかもしれません。
それにしても、夏美にしろ冬吾しろ、春よりも、それぞれの家庭の問題のほうが、よほど深刻な呪いのようになっていますが、そっちは大丈夫なのか。
冬吾の母親は、肉親というよりも、まるで家の体面とか名誉とか利益とかを守るために家庭に搭載されたAIみたいで、人間らしい愛情の気配が全く見えず、かなり気持ち悪い女性です。
息子の自由意志を認めない。
息子が自分と違う意見を持つことを一切許さない。
息子の気持ちを考えず、無視する。
息子に自分とは違う独自の人生があるということを認めない。
社会的にはまともなのかもしれませんが、家庭のなかでは、立派な毒親の一種だろうと思います。
こんな人に、幼少期から徹底的にコントロールされて育てられたら、自由意志とか人生の目的など、抱こうとも思わなくなるかもしれません。
冬吾には兄もいるようですが、作中には顔を出しません。
同じ母親に育てられてきて、どうなっているのか、かなり気になるところです。適当に母親から離反して、まっとうな人生を歩んでいるのだとしたら、今後、冬吾の支えになってくれることでしょう。
完結してしまいましたけれど、欲を言えば、夏美と父親、冬吾と母親の確執と、結末まで、描いてほしかったなという気もします。
ただ、そこまで描いてしまうと、「春の呪い」ではなく「家の呪い」になってしまうんですよね、きっと。 (´・ω・`)
なお、二巻目では、春の病状について、一巻目よりも踏み込んだ描写がありました。
デート中の重い貧血から、発病していることがわかったこと。
治らない病気ではないと、意志に言われていたこと。
貧血は、輸血すればよくなるとされていたこと。
その後、抗がん剤で白血球が減ってしまい、発熱しはじめたこと。
「移植」のための処置で、息が上がるようになってきたこと。
医療に詳しいわけではないので、確証は持てませんけれども、白血病、骨髄移植を思わせる描写ではあります。
春の人生は、悲しい終わり方をしましたけれども、どんな形であれ、その思いをまるごと受け止めて、生きていこうとする家族がいたことは事実です。
そのことを「幸せ」とは言えないとしても、深い意味で、意味をもった人生だったと言うことはできると思います。
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