2018年7月27日金曜日

封蝋で病気を治す?




しばらく前に、チェーホフの「桜の園」(青空文庫 神西清訳 Kindle無料)を読んだのですが、その中に、気になる話が出てきました。



フィールス 加減がわるくてな。昔はうちの舞踏会といやあ、将軍さまだの男爵だの提督閣下だのが踊りに来なすったもんだが、それが今じゃ、郵便のお役人だの駅長だのを迎えにやって、それさえいい顔をして来やしない。どうもわしも、めっきり弱くなったよ。亡くなった大旦那さまは、みんなの病気を、いつも封蠟で療治なすったものだ。今でもわしは毎にち封蠟をのんでるが、これでもう二十六年か、その上にもなるかな。わしがこうして生きているのは、そのおかげかも知れんて。 
アントン チェーホ「桜の園」 第三幕




「封蠟」というのは、封筒や容器を封印するときに用いる、蝋状の物質。




こういうのですね。

これそのものは食品や治療薬ではありませんが、ハチの巣からとれる、蜜蝋が原材料だったと思われますので、チェーホフの時代のロシアでは、民間療法的に用いられていたのかもしれません。


ウィキの「蜜蝋」の解説によると、食用としている地域は世界各地にあるそうです。

花粉由来ビタミン類、鉄分及びカルシウムなどミネラル類、蜜蝋本来の脂溶性ビタミン類といった栄養成分が含まれているため、現在では食用に巣のままの状態で健康食品としてコムハニーという名目で販売されているほか、カヌレやガムなどの洋菓子にも使用される。 
かつて欧州ではバターが量産普及する以前ではバター同様に調理用油脂として用いられた。 
また古くから中世にかけて蜂蜜の精製方法が普及されていない時期は欧州及び中東地域及び中国周辺地域、アフリカ大陸、南北アメリカ大陸では蜂蜜と巣を共に摂取するという形で蜜蝋は常食されてきた。 
特に欧州では蜜蝋のままでもカロリーが高い飢救食物としても利用された。


コムハニー、Amazonで調べてみたら、日本製のもののほか、ニュージーランド、ドイツやハンガリーで作られたものが見つかりました。なんだかおいしそうなので、機会があれば、食べてみたいです。

でも「桜の園」で、封蝋を毎日飲んでいた老使用人は、屋敷を去って行く主人の一族に見忘れられたまま置き去りにされて、締め切った扉で倒れ、おそらくそのまま昇天していくのでした。