tag:blogger.com,1999:blog-43056653957216815622024-03-05T17:36:42.383+09:00物語のなかの病気小説や漫画、映画、エッセイなどの中に出てくる、病気について、拾い集めていくブログです。Unknownnoreply@blogger.comBlogger62125tag:blogger.com,1999:blog-4305665395721681562.post-16297603082493777532019-11-08T12:36:00.002+09:002019-11-08T12:36:24.281+09:00宮沢賢治「毒もみのすきな署長さん」(疱瘡・天然痘)<br />
<br />
宮沢賢治「毒もみのすきな署長さん」という童話に、「疱瘡(ほうそう)」に触れた箇所があります。<br />
<br />
<br />
<br />
<div style="text-align: left;">
<br /></div>
<blockquote class="tr_bq" style="text-align: right;">
<div style="text-align: left;">
ある夏、この町の警察へ、新らしい署長さんが来ました。 </div>
</blockquote>
<blockquote class="tr_bq" style="text-align: right;">
<div style="text-align: left;">
この人は、どこか河獺(かわうそ)に似ていました。赤ひげがぴんとはねて、歯はみんな銀の入歯でした。 </div>
</blockquote>
<blockquote class="tr_bq" style="text-align: right;">
<div style="text-align: left;">
署長さんは立派な金モールのついた、長い赤いマントを着て、毎日ていねいに町をみまわりました。 </div>
</blockquote>
<blockquote class="tr_bq" style="text-align: right;">
<div style="text-align: left;">
驢馬(ろば)が頭を下げてると荷物があんまり重過ぎないかと驢馬追いにたずねましたし家の中で赤ん坊があんまり泣いていると<b>疱瘡(ほうそう)</b>の呪まじないを早くしないといけないとお母さんに教えました。 </div>
</blockquote>
<blockquote class="tr_bq" style="text-align: right;">
<div style="text-align: right;">
宮沢賢治「毒もみのすきな署長さん」</div>
</blockquote>
<div style="text-align: right;">
<br /></div>
<br />
<br />
疱瘡(ほうそう)は、天然痘のことで、日本では古来から、疱瘡除けのまじないをする風習があったそうです。<br />
<br />
<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
疱瘡神は犬や赤色を苦手とするという伝承があるため、「疱瘡神除け」として張子の犬人形を飾ったり、赤い御幣や赤一色で描いた鍾馗の絵をお守りにしたりするなどの風習を持つ地域も存在した。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
疱瘡を患った患者の周りには赤い品物を置き、未患の子供には赤い玩具、下着、置物を与えて疱瘡除けのまじないとする風習もあった。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
赤い物として、鯛に車を付けた「鯛車」という玩具や、猩々の人形も疱瘡神よけとして用いられた。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
疱瘡神除けに赤い物を用いるのは、疱瘡のときの赤い発疹は予後が良いということや、健康のシンボルである赤が病魔を払うという俗信に由来するほか、生き血を捧げて悪魔の怒りを解くという意味もあると考えられている </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
。江戸時代には赤色だけで描いた「赤絵」と呼ばれるお守りもあり、絵柄には源為朝、鍾馗、金太郎、獅子舞、達磨など、子供の成育にかかわるものが多く描かれた。</blockquote>
<br />
<blockquote class="tr_bq">
(<a href="https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%96%B1%E7%98%A1%E7%A5%9E" target="_blank">ウィキペディア「疱瘡神」のページ</a>から一部引用) </blockquote>
<div>
<br /></div>
<div>
<br /></div>
<div>
<br /></div>
<div>
<br /></div>
<div>
「鯛車」、Amazonで売られていました。</div>
<div>
<br /></div>
<div>
<br /></div>
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="margin-left: auto; margin-right: auto; text-align: center;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjqDnl7Qq5fM9Rxc2vIsyycbiQhDnVNTJMho6UoVaMyPSXSHN2jZAwA5oG2V8rkBWM3r5X2iA6pc3RTOWM2nrHBLrU63syDG9s97xc-ejTpLw7OpQqd7ObmrO_dtPe1C9RRdK61MHrqzO2-/s1600/712WkqGJbUL._SL1500_.jpg" imageanchor="1" style="margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="150" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjqDnl7Qq5fM9Rxc2vIsyycbiQhDnVNTJMho6UoVaMyPSXSHN2jZAwA5oG2V8rkBWM3r5X2iA6pc3RTOWM2nrHBLrU63syDG9s97xc-ejTpLw7OpQqd7ObmrO_dtPe1C9RRdK61MHrqzO2-/s200/712WkqGJbUL._SL1500_.jpg" width="200" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><a href="https://amzn.to/2Cky83k" target="_blank">Amazonで見る</a></td></tr>
</tbody></table>
<div>
<br /></div>
<div>
<br /></div>
<div>
<br /></div>
いまは天然痘は予防接種で防ぐ時代ですから、魔除け目的ではなく、装飾品として作られているのでしょう。<br />
<br />
<br />
<br />
「署長さん」が赤ん坊の母親に勧めたというまじないも、赤いオモチャだったかもしれません。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
で、この「毒もみのすきな署長さん」は、このあと、とんでもない話になります。<br />
<br />
<br />
「署長さん」たちの住むプハラの国には、狩猟や漁業について、奇妙な決まりがありました。<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
<br />さてこの国の第一条の </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
「火薬を使って鳥をとってはなりません、<br /> 毒もみをして魚をとってはなりません。」<br /> </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
というその毒もみというのは、何かと云いますと床屋のリチキはこう云う風に教 えます。</blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
山椒(さんしょう)の皮を春の午(うま)の日の暗夜(やみよ)に剥(む)いて土用を二回かけて乾(かわ)かしうすでよくつく、その目方一貫匁(かんめ)を天気のいい日にもみじの木を焼いてこしらえた木灰七百匁とまぜる、それを袋に入れて水の中へ手でもみ出すことです。<br /> </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
そうすると、魚はみんな毒をのんで、口をあぶあぶやりながら、白い腹を上にして浮びあがるのです。</blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
<span style="text-align: right;"></span></blockquote>
<br />
<blockquote class="tr_bq">
<span style="text-align: right;">宮沢賢治「毒もみのすきな署長さん」</span></blockquote>
<div style="text-align: right;">
<br /></div>
<br />
この「毒もみ」という漁法は、実際に東北地方で行われていたことがあるそうです。<br />
<br />
<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
主に歴史上における狩猟採集社会において用いられた。水の中に毒を撒き、魚を麻痺させたり水中の酸素含有量を減らすことで、魚を簡単に手で捕まえることが出来るようになる。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
かつては世界中で行われており、その土地にある固有の有毒植物が使われていたが、日本では主に山椒が使われていた。川の中で山椒の入った袋を揉んで毒の成分を出すので「毒もみ」と呼ぶ(山椒の皮に含まれるサンショオールには麻痺成分がある)。日本では1951年施行の水産資源保護法第六条で、調査研究のため農林水産大臣の許可を得た場合を除いて禁止されている。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
現代では主に東南アジアで青酸カリを撒く漁法が行われており、これは環境に著しい負荷を与え、特にサンゴ礁を破壊することで問題となっている。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
(<a href="https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AF%92%E3%82%82%E3%81%BF" target="_blank">ウィキペデア「毒もみ」のページ</a>から一部引用)</blockquote>
<br />
<div>
<br /></div>
私、山椒が好きなんですけど、山椒の、あのピリッとした辛さが、この記事のなかに出てくる、サンショオールという、麻痺作用のある成分なんだそうです。<br />
<br />
<br />
少量であれば問題はないでしょうけれど、魚が大量に死ぬほどの量を水場にばらまいてしまっては、当然弊害も多いはずで、禁止されるのも当然でしょう。<br />
<br />
<br />
プハラの国では、「毒もみ」は、処刑されるほどの重罪でした。<br />
<br />
ところが、魚たちが豊かに泳いでいた河原の沼地から、魚が消えてしまい、町の人々は、毒もみをする人間が現れたのだろうと噂をします。<br />
<br />
「署長さん」や巡査たちも、犯人逮捕のために河原の沼地を見張っていたようですが、やがて、町の子どもたちが、「署長さん」の挙動がおかしいことに気づきます。<br />
<br />
<br />
最初のころは、犯人らしき人物を取り押さえようとしていたようだったのに、いつのまにか、「署長さん」が、粉にした木の皮や、毒もみにつかう灰を購入している姿が目撃されて、これはどうしたって「署長さん」が犯人ではないかということになってしまいました。<br />
<br />
<br />
プハラの町長さんが、町を代表して「署長さん」に事情を聴きにいくと、「署長さん」は、あっけなく自白して、自ら逮捕され、進んで斬首されてしまいます。<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
<br /> さて署長さんは縛しばられて、裁判にかかり死刑ということにきまりました。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
いよいよ巨(おお)きな曲った刀で、首を落されるとき、署長さんは笑って云いました。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
「ああ、面白かった。おれはもう、毒もみのことときたら、全く夢中なんだ。いよいよこんどは、地獄で毒もみをやるかな。」 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
みんなはすっかり感服しました。</blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
<span style="text-align: right;"> 宮沢賢治「毒もみのすきな署長さん」</span></blockquote>
<br />
<br />
町の人々に親切だった「署長さん」の、あまりにも衝撃的な最期です。<br />
<br />
彼は、ほんとうに犯罪者だったのでしょうか。<br />
とてもそうとは思えません。<br />
<br />
ということは、誰かをかばって、罪を背負って処刑されたのでしょうか。<br />
<br />
でも、そうだとすると、いったい、誰をかばったのか。<br />
<br />
それらしい人物は、物語のなかには出てきていません。<br />
<br />
<br />
ただ、この物語には、「署長さん」の事件とは、直接かかわらないにもかかわらず、冒頭から妙に存在感のある、「下手な床屋のリチキ」という人物が登場しています。<br />
<br />
リチキは、河原の沼地にチョウザメが泳いでいるのを見たと言い広めたのですが、チョウザメなんか見つからなかったため、町中の人々に軽蔑されていました。<br />
<br />
さらに、毒もみの詳しい手法について、この物語は、リチキが教えたこととして説明しているのです。<br />
<br />
その上、リチキは、仕事があまりにもヒマだというので、「署長さん」が毒もみで魚を獲って儲けた場合の収支計算表、なんてものまで書いています。<br />
<br />
<br />
犯人は、リチキだったのか。<br />
<br />
「署長さん」は、リチキをかばって、自白で逮捕されたばかりか、わざと露悪的にふるまうことまでして、処刑されたのか。<br />
<br />
<br />
<br />
謎です。<br />
<br />
<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="margin-left: auto; margin-right: auto; text-align: center;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgo2PKb9ZIzS9tFHov8jQWckY8k_b7mkUwdI22cfuoC2S83mSulhB_Ywy2baVBGssNBzUzIViO9gMcXaCqrnG5cSmQAomztja1Yq47ocTjyx78Mo1qIw_AKpUKwHXTRsbzhBYPh32dvlEKl/s1600/%25E6%25AF%2592%25E3%2582%2582%25E3%2581%25BF.jpg" imageanchor="1" style="margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="320" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgo2PKb9ZIzS9tFHov8jQWckY8k_b7mkUwdI22cfuoC2S83mSulhB_Ywy2baVBGssNBzUzIViO9gMcXaCqrnG5cSmQAomztja1Yq47ocTjyx78Mo1qIw_AKpUKwHXTRsbzhBYPh32dvlEKl/s320/%25E6%25AF%2592%25E3%2582%2582%25E3%2581%25BF.jpg" width="211" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><a href="https://amzn.to/2WQE5hU" target="_blank">Amazonで見る</a><br /><br /><br /><br /><br /></td></tr>
</tbody></table>
<br />
<br />
<br />Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4305665395721681562.post-49101141003874635992019-10-31T21:00:00.002+09:002019-10-31T21:02:16.254+09:00直木三十五のひどい伝記と、あまりにもたくさんの病気 <br />
<br />
直木賞は知っていても、賞の由来である、直木三十五の作品を一つも読んだことがなかったし、そもそもどんな作品があるのかも、全く知らなかった。<br />
<br />
青空文庫に直木作品がいくつか入っているので、<a href="https://amzn.to/34maVK5" target="_blank">「死までを語る」</a>(青空文庫)という作品を、ダウンロードして、読み始めてみた。<br />
<br />
<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="margin-left: auto; margin-right: auto; text-align: center;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><img border="0" height="200" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhwgG2olXCSqHeNXEwW9-2JyCqzCnCf8Ef-XYzBvPr2y1tiPGlmFc_m1vdOS53MYR9BhSDjN3VjZ-X95RHoJrgV3iQw63AHc-ggW4wJYx6r6Us7j1FD1loc2Dtg4hYMSLTzK4radVoctwzk/s200/51%252BxCmzYwWL._SY346_.jpg" style="margin-left: auto; margin-right: auto;" width="132" /></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><a href="https://amzn.to/34lVlxN" style="text-align: start;" target="_blank"><span style="font-size: x-small;">Amazonで見る</span></a></td></tr>
</tbody></table>
<br />
<br />
<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
全く私は、頭と、手足とを覗く外、胴のことごとくに、病菌が生活している。肺結核、カリエス、坐骨神経痛、痔と----痔だけは、癒ったが、神経痛の為、立居も不自由である。カリエスは、大した事がなく、注射で、癒るらしいが、肺と、神経痛は、頑強で、私は時々、倶楽部の三階の自分の部屋へ、這うて上る事がある。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
私が、平素の如く、健康人の如く、歩き、書き、起きしているから、大した事であるまいと、人々は見ているらしいが、五尺五寸の身長で、十一貫百まで、痩せたのだから、相当の状態らしい。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
そして、何の療養もせず、注射をしているだけであるから、或は、この賢明なる青年たちが、見通した如く、私は、来年の何月かに、死ぬかもしれない。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
ただ、齢が齢故、病状の進行が遅いし、意地張りで、こんな病気位と、大して気にも止めていないから、大変、青年たちは見込み外れをするかもしれないが、それは、今の所、何っちとも云えないであろうと思う。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
<div style="text-align: center;">
(直木三十五「死までを語る」青空文庫)</div>
</blockquote>
<div>
<br /></div>
<br />
なんだか、病気の見本市みたいな人である。<br />
<br />
<br />
文中の「この賢明なる青年たち」というのは、直木三十五にこの文章を依頼した出版社の編集者たちのことである。<br />
<br />
直木は彼らの思惑について、次のように類推している。<br />
<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
私は、今年四十二年六ヵ月だから「全半生」と同一年月、後半生も生き長らえるものなら、私は八十五歳まで死なぬ事にな。これはたぶん、編輯局で、青年達が<br />
<br />
「直木も、そう長くは無いらしいから、今の内に、前半生記みたいなものを、書かしては何うだろう」<br />
<br />
と、云って、決まった事にちがいない。そして、大草実は </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
(長くて一年位しか保つまいから、丁度、これの終る頃くたばる事になると、編輯価値が素敵だ)<br />
<br />
と、考えたのであろう。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq" style="text-align: right;">
<span style="text-align: center;">(直木三十五「死までを語る」青空文庫)</span></blockquote>
<div>
<br /></div>
<br />
<br />
<br />
ブラックジョークなのか、本気の皮肉なのか、よくわからない。<br />
<br />
<br />
書かれた青年編集者たちは、冷や汗をかいたのじゃなかろうかと思うけれども、こういうやりとりが平気なほど、親しい間柄だったのかもしれない。<br />
<br />
<br />
一体どんな人生を歩んだ人だったのだろうと思って、「死までを語る」の冒頭だけ読んだところで、ウィキペディアの「直木三十五」のページを読んでみた。<br />
<br />
<br />
ひどかった。<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
<br />
1925年(大正14年)、マキノ・プロダクション主催のマキノ省三家に居候する。マキノ省三に取り入って、映画制作集団「聯合映畫藝術家協會」を結成。映画製作にのめりこむ。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
1927年(昭和2年)、マキノに出資させて製作した映画群が尽く赤字に終わり、「キネマ界児戯に類す」(映画など子供の遊びだ)と捨て台詞を吐いて映画界から撤退。同年、マキノプロの大作『忠魂義烈 ・實録忠臣蔵』の編集中に失火しマキノ邸が全焼すると、火事場見舞いに訪れた直木はマキノから小遣いを貰ったうえ、「マキノはこれで潰れる」と喧伝。これがマキノのスタア大量脱退の一因となる。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
<div style="text-align: right;">
(<a href="https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9B%B4%E6%9C%A8%E4%B8%89%E5%8D%81%E4%BA%94" target="_blank">ウィキペディア「直木三十五」</a>)</div>
</blockquote>
<br />
<br />
ここだけ読んだら、まるで、恩人にたかる疫病神である。<br />
<br />
マキノ省三の息子である、マキノ雅弘は、自宅に居候して金をたかる直木三十五について、次のように語っているという。<br />
<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
このころ直木は朝から晩まで着物をぞろりとひっかけるように着て、マキノ雅弘をつかまえると「おい、マサ公」と決まって用をいいつけた。金もないのに「スリーキャッスル(煙草)を買ってこい」といい、「おっさん、金がない」と答えると「盗んで来いッ!」と怒鳴るような人物だった。マキノ雅弘は「生意気ながら、早稲田大学中退程度で大した人だとは思わなかった」と語っている。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
(中略)<br />
<br />
「直木賞ができたときには何やこれと首をかしげた、直木三十三から三十五になってもついに彼の名作らしいものを全く知らなかった愚かな私は現在も続いている直木賞に、いったいどんな値打ちがあるのかと首をかしげずにはいられないのである」としている。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
<div style="text-align: right;">
(<a href="https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9B%B4%E6%9C%A8%E4%B8%89%E5%8D%81%E4%BA%94" target="_blank">ウィキペディア「直木三十五」</a>)</div>
</blockquote>
<br />
ものすごく嫌われている。<br />
<br />
同時代の人でさえ、直木三十五の「名作」を知らなかったというのも、すごい話だ。<br />
<br />
<br />
作家としての活動にも、だいぶケチがついている。<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
代表作となったのは、お由羅騒動を描いた『南国太平記』である。これは三田村鳶魚が調べて発表したのを元ネタにしたため三田村が怒り、『大衆文藝評判記』を書いて歴史小説・時代小説家らの無知を批判した。そのため海音寺潮五郎、司馬遼太郎、永井路子など(いずれも直木賞受賞)の本格的歴史作家が育った。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
<div style="text-align: right;">
(<a href="https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9B%B4%E6%9C%A8%E4%B8%89%E5%8D%81%E4%BA%94" target="_blank">ウィキペディア「直木三十五」</a>)</div>
</blockquote>
<br />
代表作が他人の業績のパクリで、しかも、そのパクリ行動を反面教師として、良質な作家が育ったというのだから、人間性のダメさ加減が突き抜けている。<br />
<br />
<br />
でも、きっと、<a href="https://amzn.to/2WsMoQI" target="_blank">「南国太平記」</a>は面白い作品なのだろう。<br />
青空文庫版があるので、そのうち読んでみようと思う。<br />
<br />
<br />
この「死までを語る」が、文芸春秋社の「話」という雑誌に発表されたのは、1933(昭和8)年から1934(昭和9)だったようだ。<br />
<br />
その1934年(昭和9年)に、直木三十五は、 結核性脳膜炎で亡くなっている。<br />
<br />
<br />
「長くて一年位しか保つまいから」と自分で書いたことが、現実になったことになる。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
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<br />
<br />
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<br />
<br />
<b>「エーゲ海のプリンス」</b><br />
冬木 るりか (著), レベッカ・ウインターズ(原作)<br />
<span style="font-size: x-small;">出版社 ハーレクイン</span><br />
<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="margin-left: auto; margin-right: auto; text-align: center;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj18JsPFueWzYGQSXn7r3og9WtQLVViAvz3086p5zalPBdNhzNfM1dMKmYHVWTL7tYgCH8aKtr05XPO4NwGPFTSG2PF9ZJIMFijQVTU7BT75zRehBlUJfVIlkIq7j8jjzyXQC6nuMXzgJ6u/s1600/61EdyIz23FL.jpg" imageanchor="1" style="margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="200" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj18JsPFueWzYGQSXn7r3og9WtQLVViAvz3086p5zalPBdNhzNfM1dMKmYHVWTL7tYgCH8aKtr05XPO4NwGPFTSG2PF9ZJIMFijQVTU7BT75zRehBlUJfVIlkIq7j8jjzyXQC6nuMXzgJ6u/s200/61EdyIz23FL.jpg" width="140" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><a href="https://amzn.to/36e4MS1" target="_blank">Amazonで見る</a></td></tr>
</tbody></table>
<br />
<h3>
あらすじ</h3>
<div>
<br /></div>
<div>
<br /></div>
<div>
スピーチセラピストである、ドロシー・リチャーズは、ゾーイという四歳の少女の検査のために、エーゲ海に浮かぶ島国を訪れます。</div>
<div>
<br /></div>
<div>
<br /></div>
<div>
ゾーイはヘレニカ王国のアレクシウス王子の娘で、身体的には健康でしたが、他人とかかわることを嫌って、頻繁にカンシャクを頻繁に起こし、幼稚園にも通えなくなっていました。</div>
<div>
<br /></div>
<div>
また、ゾーイには言葉の遅れもあり、家族である王子と祖母としかコミュニケーションがとれない状態でした。</div>
<div>
<br /></div>
<div>
<br /></div>
<div>
ドロシーは、ゾーイの日常の様子を聞いてすぐに、彼女が強い不安を抱えていることを見抜きます。そして、まず、耳鼻科での検査と、耳掃除を勧めます。</div>
<div>
<br /></div>
<div>
鼓膜にこびりついてた大量の耳あかを取り除いてから検査をしたところ、ゾーイの聴覚には問題がないことがわかります。耳掃除のあと、ゾーイは音がすっきり聞こえるようになったためか、表情が生き生きとしはじめたと、王子はドロシーに報告します。</div>
<div>
<br /></div>
<div>
<br /></div>
<div>
その翌日から、ドロシーは、王家のお城でゾーイと過ごしながら、言語能力の検査を開始します。</div>
<div>
<br /></div>
<div>
<br /></div>
<div>
キャッチボール。</div>
<div>
なわとび。</div>
<div>
絵カードを見せながらの、単語の発音。</div>
<div>
<br /></div>
<div>
<br /></div>
<div>
それまで、ナニーや家庭教師を寄せ付けず、カンシャクばかりおこしていたゾーイを、ドロシーは一瞬で魅了し、遊びに引き込みます。</div>
<div>
<br /></div>
<div>
ドロシーは、ゾーイが苦手な子音をきれいに子発音できたご褒美に、かわいいお人形と、小さな家具を用意していました。<br />
<br />
<br />
検査の結果、ドロシーは、ゾーイには知的な遅れはなく、発音の問題も必ず克服できるだろうと判断し、王子にそう伝えます。ゾーイの将来を心配していた王子は、心から喜びます。</div>
<div>
<br /></div>
<div>
<br /></div>
<div>
ドロシーにすっかりなついたゾーイが、彼女をママと呼び始めるのに、時間はかかりませんでした。</div>
<div>
<br /></div>
<div>
わが子への細やかな気遣いと愛情を目の当たりにしたアレクシウス王子も、ドロシーに惹かれていきます。</div>
<div>
<br /></div>
<div>
<br /></div>
<div>
ゾーイの実の母はすでに病死していて、アレクシウス王子には、他国の姫との再婚話が持ち上がっていました。</div>
<div>
<br /></div>
<div>
ゾーイはそれが不満で、ドロシーにママになってほしいと願い、アレクシウス王子もドロシーに結婚を申し込むのですが、他国の王族との婚姻という踏み出す勇気を持てなかったドロシーは、断ってしまい……</div>
<div>
<br /></div>
<div>
<br /></div>
<div>
そのあとのあらすじは省略しますが、ヘレニカ王国を揺るがす大騒動が持ち上がり、どさくさの中で王子とドロシーの結婚が決まり、ハッピーエンドとなります。</div>
<div>
<br /></div>
<div>
<br /></div>
<div>
<br />
<br />
<h3>
耳鼻科と言語療法</h3>
<br />
<br />
私の息子も言葉の遅れがあり、幼児期に言語療法士のお世話になっていたことがあるので、作品を読みながら、当時のことをいろいろ思い出しました。<br />
<br />
ゾーイのように、耳鼻科で検査を受けさせたこともありました。<br />
<br />
耳あかが大量に取れて、聴覚能力にも異常なしというところまで、ゾーイと同じでしたが、息子の場合は、知的な発達障害がとっても重かったため、ドロシーの行ったような方法では、言葉の遅れを挽回することはできませんでした。<br />
<br />
けれども、たくさんのオモチャや、体を大きく動かすための遊具などのそろった、広いプレイルームで、難しい状態の息子相手に、あの手この手で注意を引きながら、遊んでくれた先生の姿が、輝いて見えたものでした。<br />
<br />
なので、アレクシウス王子の気持ちは、ちょっとわかるように思います。<br />
<br /></div>
<div>
<br />
<br />
<br /></div>
<div>
<br /></div>
<div>
<br /></div>
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<br /></div>
<iframe frameborder="0" marginheight="0" marginwidth="0" scrolling="no" src="//rcm-fe.amazon-adsystem.com/e/cm?lt1=_blank&bc1=000000&IS2=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=ninjinjuice-22&language=ja_JP&o=9&p=8&l=as4&m=amazon&f=ifr&ref=as_ss_li_til&asins=B00PJNHVDM&linkId=d821abbd8b9d17803f93849b2daf8988" style="height: 240px; width: 120px;"></iframe>
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<br /></div>
Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4305665395721681562.post-78130517754291559912019-10-23T22:13:00.002+09:002019-11-07T15:47:16.475+09:00読書メモ…ハーレクインに出てくる病気や障害(口唇裂)<br />
<br />
ハーレクインロマンスというジャンルの恋愛小説には、病気や障害を持った人物が、よく登場します。<br />
<br />
テーマは恋愛でも、ハッピーエンドがお約束の夢物語というだけでなく、社会性を持った物語になっていることが多いので、たくさん読んでいると、結構勉強になったりもします。<br />
<br />
といっても、私がよく読むのは、原作小説ではなく、もっぱらコミックのほうなのですが。<br />
<br />
<span style="font-size: x-small;">(ハーレクインコミックスは、kindle版が安価だったり、読み放題だったりするのです)</span><br />
<br />
<br />
今日読んでいたのは、イタリアのシチリア島の小さな村に、医師として移住する女性のお話でした。<br />
<br />
<br />
<br />
<b>三浦浩子・ルーシー・ゴードン「愛のプローグ」</b> <span style="font-size: x-small;"><a href="https://amzn.to/2qDpeLH" target="_blank">Amazonで見る</a></span><br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj-1ZJmkpPorTz4fBjLFjjUFpR2QylbqEjb2Sc0fgE3_G49oKnh5y7AejrdqP0R3F5NwrqkCvcoCrdh34lZn7Lxs5ASCsuNBrWV2Fz4r03JiF6M56bsU28ccshzQgi7CXkeiDQzKuMu4tZQ/s1600/51L6tj0FljL._SY346_.jpg" imageanchor="1"><img border="0" height="200" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj-1ZJmkpPorTz4fBjLFjjUFpR2QylbqEjb2Sc0fgE3_G49oKnh5y7AejrdqP0R3F5NwrqkCvcoCrdh34lZn7Lxs5ASCsuNBrWV2Fz4r03JiF6M56bsU28ccshzQgi7CXkeiDQzKuMu4tZQ/s200/51L6tj0FljL._SY346_.jpg" width="140" /></a><br />
<br />
<br />
<br />
主人公のアンジーは、ロンドンの裕福な医師の娘ですが、シチリア島でベルナルドという男性と知り合い、恋愛関係になります。<br />
<br />
二人の仲は、家族愛の強いシチリアの人々に喜ばれて、近い将来の結婚を強く期待されます。<br />
<br />
<br />
ところがベルナルドは、アンジーが裕福な家の出身だと知ったとたん、自分がいずれ捨てられると思い込んで、いじけてしまい、アンジーをロンドンに冷たく追い返そうとします。<br />
<br />
ベルナルドを諦めきれないアンジーは、財力をと人脈を使って彼の住む町の病院を買い取り、医師として強引に赴任してきます。<br />
<br />
<br />
裕福さを武器に、最新の医療機器を取りそろえ、病院まで来ることのできない山奥の人々を往診し、予防接種を普及させて感染症を防ぐなど、地域医療ために、献身的に働きます。<br />
<br />
<br />
アンジーの往診先には、妊婦もいましたが、上の娘のエッラが口唇裂を持って生まれていたため、人目に触れないように隠して育てており、次に生まれる子も同じ障害があるのではないかと、気に病んでいました。その母親に、アンジーは、こう説明します。<br />
<br />
<br />
「口唇裂は先天性だけど、遺伝の要素は少ないの。今のところはいろんな要素が偶然重なって生まれると言われてるわ。だから、今は安心して出産に臨むことが肝心よ」<br />
<br />
<br />
その後、家族や町の人々の強力な後押しによって、よりを戻したアンジーとベルナルドの結婚式で、エッラは花嫁の付き添い役に選ばれていました。<br />
<br />
<br />
<br />
ベルナルドがあまりにも不甲斐なかったので、恋愛のお話としてはイマイチでしたが、アンジーの男前な活躍が印象に残る漫画でした。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
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<br />
<br />
<br />
<br />Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4305665395721681562.post-71053319730082046352019-10-22T12:19:00.001+09:002019-11-07T15:51:20.827+09:00若林美樹「ちょっと美人ドクター?」(アナフィラキシーショック)<br />
私事になるが、もうすぐ、重度の障害を持つ息子が、全身麻酔での歯科治療を受ける予定がある。<br />
<br />
<br />
これまでに何度も受けている手術であるし、いままでは全く無事に終了している。<br />
でも、何度受けても、心配なのは変わらない。<br />
<br />
<br />
歯科治療であっても、全身麻酔で、呼吸もとめて、四時間ほどもかかるのである。<br />
<br />
<br />
手術の事前検査では、麻酔医も来てくれて、家族とも面談する。<br />
<br />
<br />
いろいろと緊張するけれども、スタッフとの信頼感を確かめる大切な機会でもある。<br />
<br />
<br />
<br />
最近読んでいる漫画に、麻酔医と手術についてのエピソードがあったので、紹介したい。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<b>若林美樹「ちょっと美人ドクター?」</b> <span style="font-size: x-small;"><a href="https://amzn.to/2qrIcEO" target="_blank">Amazonで見る</a></span><br />
<br />
<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="margin-left: auto; margin-right: auto; text-align: center;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgfyJaLe-92L1Vaho2UKvCNdxLIBCA5beLVditNZU3ENLGm-hMR2A8CMCQMG9y2q2zaVTdmPVhJ7j5AlDlACL_lqzgQQFH-WLsOcdmSTT0YhVd67dTtt7VemlSpL73Tmp-RxsZNtTz8A-vA/s1600/51KzJb69ZKL.jpg" imageanchor="1" style="margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="200" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgfyJaLe-92L1Vaho2UKvCNdxLIBCA5beLVditNZU3ENLGm-hMR2A8CMCQMG9y2q2zaVTdmPVhJ7j5AlDlACL_lqzgQQFH-WLsOcdmSTT0YhVd67dTtt7VemlSpL73Tmp-RxsZNtTz8A-vA/s200/51KzJb69ZKL.jpg" width="128" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><a href="https://amzn.to/33n6lLy" target="_blank">Amazonで見る</a></td></tr>
</tbody></table>
<br />
<br />
<br />
<br />
いまとても気に入っている、医療マンガである。<br />
<br />
<br />
医師一家の末っ子である主人公、新條奈穂が、研修医として所属する病院で、指導医や看護師、患者たちに猛烈にしごかれ、医者魂を磨いていく物語。<br />
<br />
その奈穂のキャラクターが、実に豪快で、まっすぐで、患者を救おうという熱い思いにあふれている。周囲の医師や看護師たちも、人間味があって、職業意識も高く、すばらしい。<br />
<br />
<br />
こんな病院ばかりならいいのになあ、と思いながら読んでいる。<br />
<br />
<br />
<br />
最終巻である七巻目に収録されている、<b>第32話「麻酔科研修」</b>では、歯科治療での麻酔でアナフィラキシーショックになった経験のある患者が登場する。<br />
<br />
<br />
その患者、多田さんは、胃がんのため、胃の全摘手術を控えているのだけど、麻酔についての医師の説明を拒否。手術を受ける意志はあるものの、麻酔医に対しては、あからさまな不信感を見せる。<br />
<br />
麻酔科で研修中の奈穂は、多田さんとなんとか心を通わせて、信頼を得ようと、病床に日参して、必死に食い下がるものの、全く話を聞いてもらえない。<br />
<br />
<br />
けれども、手術直前になって、自分の大人げなさを恥ずかしく思った多田さんは、たまたま遭遇した奈穂に、歯科治療での経緯を語るのだけど、そのときの恐怖や怒りがフラッシュバックして、呼吸困難に陥ってしまう。<br />
<br />
<br />
親知らずの抜糸のための麻酔を入れたとき、多田さんはすぐに体調が悪くなり、そのことを歯科医に伝えたのに、無視されていたのである。しかもその若い司会は、意識を失いつつある多田さんに、うろたえて声をかけるばかりで、救命のための措置をすぐには取れなかった。<br />
<br />
<br />
そういう経緯や、自分の気持ちを、多田さんは、それまで誰にも話さず、自分のなかに封じ込めていたのだった。<br />
<br />
<br />
<br />
フラッシュバックによる呼吸困難のために、胃の手術は延期となったものの、奈穂に心のうちを話したことで、多田さんは、気持ちがラクになり、医師を信頼して手術を迎えることができた。<br />
<br />
<br />
そのときの、奈穂のセリフが、ほんとうに小気味よくて、ステキだった。<br />
<br />
<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
<b>たとえオペ中、多田さんの<br />心臓が止まろーが<br />呼吸が止まろーが<br />大っっっ出血!!<br />ブチかまそーが!!<br />われわれは総力をあげて!<br />多田さんを助けるべく<br />手だてを尽くします!</b></blockquote>
<div>
<br />
まあちょっと、血の気が多すぎる感じではあるけれど……<br />
<br />
<br />
外科のお医者さんって、私がこれまで出会った方々を思い出しても、なんだか大工の棟梁みたいなイメージの方が多かったので、きっと奈穂も、いい医師に育つだろうと思う。<br />
<br /></div>
<div>
<br /></div>
<div>
<br /></div>
<div>
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<iframe frameborder="0" marginheight="0" marginwidth="0" scrolling="no" src="//rcm-fe.amazon-adsystem.com/e/cm?lt1=_blank&bc1=000000&IS2=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=ninjinjuice-22&o=9&p=8&l=as4&m=amazon&f=ifr&ref=as_ss_li_til&asins=B01ICUNV82&linkId=d265dcca147258552486b3aa2b8c24b6" style="height: 240px; width: 120px;"></iframe>
<br />
<br />
<br />
<br />
<br /></div>
<div>
<br /></div>
Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4305665395721681562.post-64450814758727389842019-10-21T20:12:00.000+09:002019-10-21T20:14:34.244+09:00福本千夏「千夏ちゃんが行く」<br />
まだ読んでいる途中の本だけど、あまりにも胸打たれたので、備忘録もかねて書いておく。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<b>福本千夏 「千夏ちゃんが行く」 飛鳥新社</b><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhs7dZBuExIKjeWC65Z98PZV6iczyKbJrA3CIpATNcIVH1DoYKoPTvCuuW9jH5RACSAkEC5Bg_ysLl9wxd1r6VlbnJBvztBoUEzwuJaKzxLRQzlvSsbhPaFjEqavE3VFr0HCPOOokqmqNA9/s1600/41iXsPK87cL._SX340_BO1%252C204%252C203%252C200_.jpg" imageanchor="1" style="clear: left; float: left; margin-bottom: 1em; margin-right: 1em;"><img border="0" height="320" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhs7dZBuExIKjeWC65Z98PZV6iczyKbJrA3CIpATNcIVH1DoYKoPTvCuuW9jH5RACSAkEC5Bg_ysLl9wxd1r6VlbnJBvztBoUEzwuJaKzxLRQzlvSsbhPaFjEqavE3VFr0HCPOOokqmqNA9/s320/41iXsPK87cL._SX340_BO1%252C204%252C203%252C200_.jpg" width="219" /></a> <br />
<br />
<br />
<br />
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<br />
<a href="https://amzn.to/2PfXwPx" target="_blank"><span style="font-size: x-small;">Amazonで探す</span></a><br />
<br />
<span style="font-size: x-small;">(Amazon読み放題で読むことができます)</span><br />
<br />
<br />
どの段落、どの一文も、手裏剣のように、こちらの胸に飛び込んでくる。<br />
<br />
<br />
<br />
冒頭、著者ははっきりと書いている。<br />
<br />
<br />
「本書は、がんばる障害者の幸福な物語ではない」<br />
<br />
<br />
脳性まひという、自分の中の別人と戦いながら、大学を出て、結婚し、息子を育て、最愛の夫を癌で失い、過酷な看病で傷んだ体を抱えながら、慟哭の日々を送る・・・<br />
<br />
<br />
その壮絶な日々をつづる文章が、あまりにも魅力的であることに、ただただ驚きながら、読んでいる。<br />
<br />
<br />
<br />
YouTubeに本書のPVがあった。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<iframe allowfullscreen="" class="YOUTUBE-iframe-video" data-thumbnail-src="https://i.ytimg.com/vi/z_wX0vxzAOs/0.jpg" frameborder="0" height="266" src="https://www.youtube.com/embed/z_wX0vxzAOs?feature=player_embedded" width="320"></iframe></div>
<br />
<br />
<br />
<br />
タイピングのスピードが、この作品の文体にぴったりに思えて、うれしくなる。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
もうすぐ、次の著書が出版されるらしい。<br />
<br />
<b>「障害マストゴーオン」</b>というタイトルとのこと。<br />
<br />
<br />
クイーンの「The Show Must Go On」意識した命名だろうか。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<iframe allowfullscreen="" class="YOUTUBE-iframe-video" data-thumbnail-src="https://i.ytimg.com/vi/P0dTn1Ga818/0.jpg" frameborder="0" height="266" src="https://www.youtube.com/embed/P0dTn1Ga818?feature=player_embedded" width="320"></iframe></div>
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4305665395721681562.post-28986961572997906712019-10-10T22:24:00.000+09:002019-10-10T22:24:45.878+09:00燃える胸の火(樋口一葉「闇桜」「樋口一葉日記」)<br />
樋口一葉の「闇桜」という小説は、幼なじみへの恋心を自覚した少女が、その思いのために病気になり、衰弱して死んでしまうという物語だ。<br />
<br />
失恋したわけでもなければ、周囲に反対されたわけでもない。<br />
<br />
ただただ、思い焦がれて自滅するという、致死的な恋の病である。<br />
<br />
<br />
中村千代と園田良之助は、家が隣同士で、兄妹のように親しく育った仲だった。<br />
<br />
千代が十六歳になり、近所でも評判の美女と噂されるほどになっても、二人の仲はままごと遊びのころから変わらず、無邪気なものだった。<br />
<br />
ところが、ある日、二人が連れ立って歩いているところを、千代の学友たちに見つかり、良之助の前で揶揄されてしまう。<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
中村さんと唐突(だしぬけ)に背中をたたかれてオヤと振り返へれば束髪の一群(ひとむれ)何と見てかおむつましいことと無遠慮の一言たれが花の唇をもれし詞(ことば)か跡は同音の笑ひ声夜風に残して走り行くを千代ちやん彼(あれ)は何だ学校の御朋友(ともだち)か随分乱暴な連中だなアとあきれて見送る良之助より低頭(うつむ)くお千代は赧然(はなじろ)めり</blockquote>
(樋口一葉「闇桜」)<br />
<br />
ほとんど古文なので、現代語訳してみる。<br />
<br />
<br />
------------------------------------- <br />
<br />
<br />
「ナカムラさーん」<br />
<br />
いきなり背中をバシッとたたかれた千代が、驚いて振り向くと、クラスメートの数人が、ニヤニヤしながらこちらを見ている。<br />
<br />
「カレシいたんだ。ヤケるぅ」<br />
「ウケるー」<br />
<br />
それだけ言うと、キャハハハハと品のない笑い声を響かせながら、走って行ってしまった。<br />
<br />
「何だあれ。千代ちゃんの学校の友達? ずいぶん軽い連中だな」<br />
<br />
と、良之助があきれ顔で見送る横で、千代はうつむいて、恥ずかしさに耐えていた。<br />
<br />
<br />
------------------------------------- <br />
<br />
<br />
この日から、千代は、まともに眠ることができなくなる。<br />
<br />
<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
涙しなくばと云ひけんから衣胸のあたりの燃ゆべく覚えて夜はすがらに眠られず思に疲れてとろとろとすれば夢にも見ゆる其人の面影優しき手に背(そびら)を撫でつつ何を思ひ給ふぞとさしのぞかれ君様ゆゑと口元まで現の折の心ならひにいひも出でずしてうつむけば隠し給ふは隔てがまし大方は見て知りぬ誰れゆゑの恋ぞうら山しと憎くや知らず顔のかこち事余の人恋ふるほどならば思ひに身の痩せもせじ御覧ぜよやとさし出す手を軽く押へてにこやかにさらば誰をと問はるるに答えんとすれば 暁の鐘枕にひびきて覚むる外なき思ひ寝の夢鳥がねつらきはきぬぎぬの空のみかは惜しかりし名残に心地常ならず今朝は何とせしぞ顔色わろしと尋ぬる母はその事さらに知るべきならねど</blockquote>
(樋口一葉「闇桜」)<br />
<br />
<br />
<br />
まるっきり古文なので、こちらも現代語訳を試みる。<br />
<br />
<br />
<br />
------------------------------------- <br />
<br />
<br />
「君恋ふる涙しなくは唐衣むねのあたりは色燃えなまし」<br /><br />
<br />
報われることのない恋のために流す、この涙が胸を濡らしていなければ、私の胸は、恋の炎で燃え上がってしまっているにちがいない……<br />
<br />
<br />
古今和歌集の紀貫之の歌そのままに、千代は胸が燃えるような苦しみのために、夜の間ずっと眠れずにいた。<br />
<br />
疲れ切って、やっとうとうとしたかと思うと、夢の中にまで良之助が現れて、やさしく背中をなでてくれる。そのやさしさが、つらくてたまらない。<br />
<br />
「ねえ千代ちゃん、何を悩んでるの?」<br />
<br />
あなたが好きすぎてつらいと、まさか口に出すこともできず、うつむいていると、<br />
<br />
「秘密主義か。よそよそしいなあ。でも、見ていればわかるよ。好きな男ができたんだろ? 千代ちゃんも、隅に置けないな。相手、誰だよ」<br />
<br />
「ちがうってば。ただの恋煩いくらいで、こんなに痩せるはずないでしょ」<br />
<br />
そう言いながら千代が差し出す手に、そっと触れて、ほほえみながら良之助は重ねて聞いてくる。<br />
<br />
「だから誰? 俺の知ってるヤツかな」<br />
<br />
もう告白してしまおうかと、千代が口を開こうとしたとたん、夜明けを告げる鐘が響き渡って、目がさめてしまう。<br />
<br />
現実の逢瀬の後でもないのに、消えてしまった夢のなかの良之助が恋しくて、千代はすっかり体調を崩してしまった。事情を知らない母が、<br />
<br />
「どうしたの? 今朝はずいぶん顔色が悪いけれど」<br />
<br />
と心配して声をかけてくるけど……<br />
<br />
<br />
------------------------------------- <br />
<br />
<br />
千代には、良之助のなかに、自分の思いに釣り合うほどの恋愛感情がないことがわかっている。<br />
<br />
良之助にとっての千代は、ただの幼なじみであり、かわいい妹でしかなかった。<br />
<br />
もうすこし月日がたてば、良之助も、千代を一人の女性として、恋愛や結婚の相手として見る日が来たかもしれない。<br />
<br />
<br />
けれども、未来に希望を抱いて待つことができるほど、千代の心身は丈夫ではなかった。<br />
<br />
<br />
睡眠障害と抑うつから回復することのないまま、衰弱しきった千代は、危篤状態になる。<br />
<br />
容態が急変する前日、千代の家の者から事情を聴いて、はじめて千代の思いを知った良之助は、自分のせいで千代が死につつあることに衝撃を受け、もう少し早く知っていれば、こんなふうにはさせなかったのにと、深く悔やむ。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
樋口一葉が「闇桜」を書いたのは、1892年(明治25年)。<br />
<br />
半井桃水に師事し、恋愛関係であるとしてスキャンダルになったのも、そのころだ。<br />
<br />
<br />
樋口一葉の日記に、半井桃水との交流や、桃水への一葉の思いが書かれているというので、国会図書館のデジタルデータを探し出して、少し読んでみた。以下は、ざざっと書き写したもの。<br />
<br />
<br />
------------------------------------- <br />
<br />
廿七日 全約の小説稿成しをもて桃水ぬしにおもむく。今日は我例刻より遅かりしをもて、君既におはしき。種々(くさぐさ)我爲(わがため)よかれのものがたりども聞こえしらせ給ふ。帰宅し侍らんとする時に、いましばし待給へ、君に参らせんとて今料理させおくものの侍ればとまめやかにの給ふを、例のあらくもいろひかねて其ままとどまる。やがて料理は出来ぬ、こは朝せん元山(げんざん)の鶴なりとなり。さる遠方のものと聞くにこと更にめでたし。たふべ終れば君いでや帰り給へよ、あまりくらく成やし侍らんなど聞こえ給ひて、今日もみ車たまはりぬ。かえりしは七時。<br />
<br />
<br />
(「一葉日記集」上巻 国立国会図書館デジタルコレクション)<br />
<br />
------------------------------------- <br />
<br />
<br />
言うまでもなく、猛烈に古文なので、現代語訳を試みる。<br />
<br />
<br />
------------------------------------- <br />
<br />
<br />
27日、以前からお約束していた小説の原稿ができたので、桃水さまのお宅を訪問する。<br />
<br />
今日はいつもよりも遅い時間の訪問となってしまったので、桃水さまは、すでにご帰宅されていた。<br />
<br />
桃水さまは、私のためになるようにと、いろいろなお話を聞かせてくださった。<br />
<br />
お話の区切りのいいところで、そろそろお暇させていただこうと思ったところ、桃水さまがおっしゃった。<br />
<br />
「もうちょっと、帰らないでいてくれるかな。あなたに食べさせたくて、いま料理させているものがあるから」<br />
<br />
と、やさしいお志のこもった言葉で引き留められたので、強くお断りすることもできず、そのまま居続けることに。<br />
<br />
そのうち料理ができて、運ばれてきた。<br />
<br />
「これはね、朝鮮の元山というところでとれた、鶴なんだ」<br />
<br />
そんな遠いところ珍しいものを、私のために用意して、ごちそうしてくださるのかと思うと、なおさら心ときめいてしまう。<br />
<br />
<br />「食べ終わったかい? それなら、遅くならないうちに、お帰りなさい。あまり暗くなってしまっては、物騒だからね」<br />
<br />
桃水さまは、そうおっしゃって、今日も車を呼んでくださった。帰宅したのは夜七時。<br />
<br />
<br />
------------------------------------- <br />
<br />
半井桃水さん、ほんとうに親切で、細やかな男性だったようである。<br />
<br />
<br />そのやさしさの性質は、「闇桜」の良之助に通じるものがあるように思える。<br />
<br />
<br />
半井桃水と一葉との交際は、スキャンダルになり、周囲に強く反対されたことで、破局を迎えたという。<br />
<br />
<br />
「闇桜」の千代の思いが、作者自身の思いに重なるものだったかどうかは、私にはわからない。<br />
<br />
その4年後の 1896年(明治29年)、一葉は、肺結核のために、24歳で亡くなっている。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4305665395721681562.post-76381412162327239502019-10-06T20:55:00.001+09:002019-10-06T20:55:21.063+09:00「長血」ということば<div class="tr_bq">
<br /></div>
新約聖書を読んでいて、「長血(ながち)」ということばに出会った。<br />
<br />
<br />
<br />
<blockquote>
ここに、十二年間も<b>長血</b>をわずらっていて、医者のために自分の身代をみな使い果してしまったが、だれにもなおしてもらえなかった女がいた。 </blockquote>
<blockquote>
この女がうしろから近寄ってみ衣のふさにさわったところ、その<b>長血</b>がたちまち止まってしまった。 </blockquote>
<blockquote>
イエスは言われた、「わたしにさわったのは、だれか」。人々はみな自分ではないと言ったので、ペテロが「先生、群衆があなたを取り囲んで、ひしめき合っているのです」と答えた。 </blockquote>
<blockquote>
しかしイエスは言われた、「だれかがわたしにさわった。力がわたしから出て行ったのを感じたのだ」。 </blockquote>
<blockquote>
女は隠しきれないのを知って、震えながら進み出て、みまえにひれ伏し、イエスにさわった訳と、さわるとたちまちなおったこととを、みんなの前で話した。 </blockquote>
<blockquote>
そこでイエスが女に言われた、「娘よ、あなたの信仰があなたを救ったのです。安心して行きなさい」。<br />
<br />
(新約聖書 ルカによる福音書 八章43-48節 口語訳)</blockquote>
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
なじみのない、古めかしい印象の単語だけれど、「長血」という漢字の並びと、文脈から、女性特有の症状であることはうかがえる。<br />
<br />
生理不順の場合もあるだろうし、子宮の病気で、出血や赤帯下が続いている場合もあるだろう。<br />
<br />
イエス・キリストの時代にも、このような婦人病で苦しんでいた女性たちが、きっと、たくさんいたのだと思う。聖書に書かれたこの女性は、癒されて、どれほどうれしかったことかと思う。<br />
<br />
<br />
上に引用した「口語訳」の新約聖書が出版されたのは、1954年のことだという。<br />
<br />
<br />
1987年に出版された「新共同訳」の聖書では、ここの箇所は「出血」と訳されている。「長血」では分かりにくいということで、訳語を変えたのかもしれない。<br />
<br />
<br />
<br />
日本の文献では、平安時代に作られた「和名類聚抄」という辞書に、「長血」の記述がある。<br />
<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
<b>小品方云婦人長血[奈賀知]又有白血 </b></blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
(二十巻本和名類聚抄 巻3・形体部第8・病類第40)</blockquote>
<span style="font-size: x-small;"> 国立国語研究所 <a href="https://textdb01.ninjal.ac.jp/dataset/kwrs/" target="_blank">二十巻本和名類聚抄[古活字版]データベース</a>より 引用</span><br />
<br />
<br />
<br />
「小品方」というのは、中国の六朝時代(222年 - 589年)に書かれた本で、日本の律令制の時代に、医学生が学ぶための書籍として定められた医学書であるらしい。古めかしいことばだとは思ったけれど、予想以上に古かった。<br />
<br />
けれども、口語訳聖書の訳語として使われているくらいなのだから、近・現代でも用例があるだろうと思って、青空文庫を検索してみたら、折口信夫の著作に三例あるだけで、他には見当たらなかった。<br />
<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
<br />
昔住吉明神の后にあはしまといふお方があつて、其が白血(シラチ)・<b>長血</b>(ナガチ)の病気におなりになつた。それで住吉明神が其をお嫌ひになり、住吉の社の門扉にのせて、海に流したのである。かうして、其板船は紀州の加太の淡島に漂ひついた。其を里人が祀つたのが、加太の淡島明神だといふのである。此方は、自分が婦人病から不為合せな目を見られたので、不運な人々の為に悲願を立てられ、婦人の病気は此神に願をかければよい、といふ事になつてゐるのである。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
(折口信夫 「雛祭りの話」 <a href="https://www.aozora.gr.jp/cards/000933/files/13215_14466.html" target="_blank">青空文庫</a>)</blockquote>
<br />
<blockquote class="tr_bq">
<br />
加太(紀州)の淡島明神は女体で、住吉の明神の奥様でおありなされた。処が、<b>白血長血(シラチナガチ しらちながしなどゝもいふ)</b>をわづらはれたので、住吉明神は穢れを嫌うて表門の扉を一枚はづして、淡島明神と神楽太鼓とを其に乗せて、前の海に流された。其扉の船が、加太に漂着したので、其女神を淡島明神と崇め奉つたのだ。其で、住吉の社では今におき、表門の扉の片方と神楽太鼓とがないと言ふ。此は淡島と蛭子とを一つにした様に思はれる。しかし或は、月読命と須佐之男命と形式に相通ずる所がある様に、淡島・蛭子が素質は一つである事を、暗示するものかも知れない。<br />
<br />
(折口信夫 「三郷巷談」 <a href="https://www.aozora.gr.jp/cards/000933/files/46328_26561.html" target="_blank">青空文庫</a></blockquote>
<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
昔、住吉明神の后(キサキ)にあはしまと言ふ方があつた。其方が、白血・<b>長血</b>の病気におなりになつたので、明神がお嫌ひになり、住吉の門の片扉にのせて、海に流された。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
(折口信夫 「偶人信仰の民俗化並びに伝説化せる道」 <a href="https://www.aozora.gr.jp/cards/000933/files/18396_22465.html" target="_blank">青空文庫</a>)</blockquote>
<br />
<br />
<br />
三例とも、「淡島明神」の伝説について語った文章である。<br />
<br />
折口信夫(1887年-1953年)のころの読者にとっては、「長血」は、ごく自然な日常的なことばだったのだろうか。(そしてこの「長血」の伝説、折口信夫のお気に入りだったのだろうか……)<br />
<br />
<br />
裾にすがった女性の「長血」を治癒したイエス・キリストとは対照的に、住吉の神は、「長血」をわずらった后の穢れを嫌って、海に流してしまったのだという。日本の神々は、血の穢れに厳しい。<br />
<br />
<br />
「長血」ということばの用例、他にもないか探してみようと思う。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
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<br />
思いがけない本のなかで、認知症に出会った。<br />
<br />
<br />
<div style="text-align: center;">
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="margin-left: auto; margin-right: auto; text-align: center;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhGkhPYeqWydCL0lbEhoIHvo8Sd0iNv-rt5A2EvNLXWJtBWcwSuFgLaSDe8eVcd1j-qbFWLFq6xjde2UOhzVsdl5Lg-DGKTfQ1pcQmqF5pUHy1B7u2KOZoMRZEP9P4j1Rb3gYXzoCq3ZvUJ/s1600/31Y8sUEhuaL._SX310_BO1%252C204%252C203%252C200_.jpg" imageanchor="1" style="margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="320" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhGkhPYeqWydCL0lbEhoIHvo8Sd0iNv-rt5A2EvNLXWJtBWcwSuFgLaSDe8eVcd1j-qbFWLFq6xjde2UOhzVsdl5Lg-DGKTfQ1pcQmqF5pUHy1B7u2KOZoMRZEP9P4j1Rb3gYXzoCq3ZvUJ/s320/31Y8sUEhuaL._SX310_BO1%252C204%252C203%252C200_.jpg" width="200" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><a href="https://amzn.to/2Nnn63C" target="_blank">Amazonで見る</a></td></tr>
</tbody></table>
</div>
<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
僧侶の叔父は東大寺の役僧街道をのぼりつめ、二期管長をつとめ、大仏殿大修理の大業をやっとのけた。長老に退いてから急速に衰えがあったものと思われる。書画に秀でた高僧ということで芸術雑誌が特集を組むことになり、たのまれて伯父・甥対談を引き受けた。久しぶりに対面した甥に伯父は言った。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
「お母ちゃん、元気か?」 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
何十年も前に死んだ妹である。唖然として、まじまじと顔を見た。唇をつき出して、いたずら小僧のようにタバコをすっている。そのうち判明したが、現状に即したことと、ずっと昔とが、バラバラにつながっている。俗にいう<u>「まだらボケ」</u>で、録音をとって帰った編集長が悲鳴のような声で支離滅裂を知らせてきた。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
「心配いりません」 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
甥は実物にかまわず、健在なころの伯父を再現して、インタビューをまとめた。やがて伯父は体面を損なわないうちにシセツに入り、五年して死んだ。</blockquote>
<br />
<blockquote class="tr_bq">
<br />
<b>池内紀 「自伝的万葉の旅」 角川新書 『万葉集の詩性(ポエジー)』</b></blockquote>
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
認知症というと、アルツハイマーをすぐに思い浮かべるけれども、「まだらボケ」と言われる認知症は、アルツハイマー型ではなく、脳梗塞などの血管性の病気に由来するものであると、あちらこちらの医療・介護系のサイトで説明されている。<br />
<br />
<br />
アルツハイマー型では、さまざまな症状が緩やかに進んでいくけれど、血管性認知症では、何かがふとできなくなったかと思うと、少しあとには以前通りにできたりするのだそうだ。<br />
<br />
<br />
また、血管性認知症では、記憶の不具合による支離滅裂さはあっても、その人らしさは大きく損なわれず、若いころと変わらない理解力や、知的な鋭さは残るのだという。<br />
<br />
そんなふうに、能力の衰え方、損なわれ方が「まだら」だから、そういう呼び名が付いたのだろう。<br />
<br />
もっとも、アルツハイマー型に血管性認知症が併発することもあるそうだから、すっぱりと症状が分かれるというものでもないのだろう。<br />
<br />
<br />
池内紀氏の伯父が、どちらのタイプだったかは、この文章だけでは分からない。<br />
<br />
<br />
<br />
東大寺大仏殿の昭和の大修理を行った管長は、清水公照という方だそうだ。<br />
<br />
<br />
<a href="https://www2.nhk.or.jp/archives/jinbutsu/detail.cgi?das_id=D0016010277_00000" target="_blank">NHK人物録 清水公照</a><br />
<br />
<a href="https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B8%85%E6%B0%B4%E5%85%AC%E7%85%A7" target="_blank">ウィキペディア 清水公照</a><br />
<br />
<br />
<br />
書画が見てみたいと思って探したら、ヤフオクにたくさん出品されていて、まるで美術館の特別展のような様相を呈していた。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
引用した文章のなかで、気になった表現がある。<br />
<br />
<br />
「やがて伯父は体面を損なわないうちにシセツに入り」<br />
<br />
<br />
「施設」ではなく「シセツ」とカタカナ表記する理由は、なんだろう。<br />
<br />
<br />
直前の「体面を損なわないうちに」ということばのせいで、どうもなんというか、不都合なものに覆いをするための仕組み、のような意味合いが感じられてしまう。<br />
<br />
<br />
こういうところで差別意識を指摘するような言葉狩りがしたいわけではないし、池内紀氏のコトバ使いに対して批判をしたいわけでもない。<br />
<br />
<br />
ただ、介護施設と書かずに「シセツ」とという表記を選ぶ心情には、少なくとも、あまりいい気持のものを感じない。少なくとも介護の当事者(する人とされる人)への敬意は、全く感じられない。だから、私は使わない。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
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<br />
<br />
<br />
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<br />
驚いた。<br />
<br />
「強制除霊師・斎」 シリーズの主役である、斎さん、亡くなってしまっていた。<br />
<br />
<br />
<br />
<div style="text-align: center;">
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="margin-left: auto; margin-right: auto; text-align: center;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh7tMb3OSwVfZ3Us8uFbTkBZ7tdzvm7wX0vg4ILCsR7zjWGDFbskAwEUOlNHpMJUCV83KXCyV6agBMAQ-tX4mI8c40uOCp74w87J7B9omdovllbOLlYvJiQhNLGGMtcpQuibDmbgRCv3J0Y/s1600/%25E9%259C%258A%25E8%2583%25BD%25E8%2580%2585%25E3%2581%25A7%25E3%2581%2599%25E3%2581%258C%25E3%2582%25AC%25E3%2583%25B3%25E3%2581%25AB%25E3%2581%25AA%25E3%2582%258A%25E3%2581%25BE%25E3%2581%2597%25E3%2581%259F.jpg" imageanchor="1" style="margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="200" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh7tMb3OSwVfZ3Us8uFbTkBZ7tdzvm7wX0vg4ILCsR7zjWGDFbskAwEUOlNHpMJUCV83KXCyV6agBMAQ-tX4mI8c40uOCp74w87J7B9omdovllbOLlYvJiQhNLGGMtcpQuibDmbgRCv3J0Y/s200/%25E9%259C%258A%25E8%2583%25BD%25E8%2580%2585%25E3%2581%25A7%25E3%2581%2599%25E3%2581%258C%25E3%2582%25AC%25E3%2583%25B3%25E3%2581%25AB%25E3%2581%25AA%25E3%2582%258A%25E3%2581%25BE%25E3%2581%2597%25E3%2581%259F.jpg" width="140" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><a href="https://amzn.to/2ChxVxT" target="_blank">Amazonで見る</a></td></tr>
</tbody></table>
</div>
<br />
<br />
<br />
乳がんを発病されたということと、闘病記も漫画化されるということは、シリーズのほうの作品の巻末に書かれていたので知っていた。<br />
<br />
でも、きっと治って元気になられるのだろうと思っていた。<br />
<br />
亡くなったと知ったのは、Amazonで、ご冥福を祈るレビューを寄せている方がいたのを見たから。<br />
<br />
まさかと思いながら、本を購入して読んだ。<br />
巻末に、作画の小林薫さんが、「斎さんの思い出」として、亡くなられた日時やご様子を寄せていた。<br />
<br />
<br />
オカルトものや霊関係の話は、基本的に苦手だ。<br />
<br />
信じる信じない以前に、人の手に負えない世界からもたらされる理不尽を見せつけて、不安や恐怖をあおるような仕組みのものが多いからだ。<br />
<br />
でも、「強制除霊師・斎」のお話は、人としてのありかたや、ふりかかってくる困難に向き合う姿勢に、ものすごくゆるぎない筋が通っているように思えて、好きだった。こわい話も、こわくなかった。<br />
<br />
<br />
<br />
<b>「霊能者ですがガンになりました」</b>の斎さんも、いつもの作品と同じように、背筋がぴんとまっすぐなまま、がんに立ち向かっておられた。<br />
<br />
<br />
<br />
悲しいけど、この漫画、面白くて、すごい。<br />
<br />
<br />
自覚症状での受診。<br />
ふれてわかるほどのコリコリがあり、「コリッチョ」と命名。<br />
<br />
最初の検査。<br />
痛くてつらいマンモグラフィーや生検を、いっそう痛くするような、医療従事者たちの理不尽な声掛け。<br />
<br />
「痛かったら言ってくださーい」<br />
「いででででででて!」<br />
「我慢してくださーい」<br />
<br />
検査、あるあるである。(T_T)<br />
<br />
<br />
医師との関係。<br />
<br />
斎さんの主治医は、腕はともかく、患者の心を平気で傷つけるようなことを口にするタイプだったようだ。<br />
<br />
漫画で描かれているエピソードを半分に割り引いても、私だったら、二度とその病院に行かなくなるレベルのひどさ。患者の胸を見て、あなたなら再建の必要ないだろう、みたいなことを言うのって、漫画のネタでも却下したいくらいだ。<br />
<br />
同じ科の医師とのいざこざを、患者にぶつける下りは、ほんとに腹がたった。<br />
この医者たち、いつか自分が癌患者になるまで、反省しないのだろう、きっと。<br />
<br />
<br />
人間的にヒドい主治医であっても、仕事に対して真摯であるという本質を見抜いていた斎さんは、セカンドオピニオンも取らず、主治医を変えることはしていない。<br />
<br />
手術と、術後のリハビリ。抗がん剤を受けながらの、日常への復帰。<br />
<br />
抗がん剤で髪の毛が抜けてしまってからは、値段の安いウイッグを使って楽しんでおられた。<br />
<br />
<br />
霊能者の方の闘病記だから、もちろん霊も登場するのだけど、入院されていた病院が新築だったためか、あまり「いなかった」みたいで、意外と少な目だった。<br />
<br />
<br />
新築の病院よりも、市役所の待合室にたくさんいるんだそうだ。死んだ方々も、なぜなんだろう。何かの手続きに行ってしまうのか。なんだか<a href="https://amzn.to/2omJUX4" target="_blank">「死役所」</a>(あずみきし作 新潮社)みたい…。<br />
<br />
<br />
<br />
苦しみも葛藤も、自分の弱さも、学びとしてすべて受け止めて、病気と闘って生き延びることをあきらめない。<br />
<br />
書いてしまうと簡単なことだけど、できる人はきっと少ない。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
この作品は、内容がよいため、がん治療関係の学会でも取り上げられたのだそうだ。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
霊能者ですがガンになりました」は、Amazonのkindle版は、読み放題に入っていれば、0円で読むことができる。<br />
<br />
ピッコマなどの無料マンガアプリでも、一部読めるようだ。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
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<br />
<br />Unknownnoreply@blogger.com1tag:blogger.com,1999:blog-4305665395721681562.post-3181367391913822092019-04-01T16:57:00.004+09:002019-04-01T16:59:29.772+09:00読書メモ「しびれる短歌」(睡眠時無呼吸症候群)<br />
<br />
<br />
<br />
<a href="https://amzn.to/2TRObMs" target="_blank">「しびれる短歌」</a>(東直子 穂村弘 ちくまプリマー新書)の最初のほうに引用されていた歌が、強烈だった。<br />
<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi4kbmkaSjXfQhj-onI7Yd4SeYNKpd1ZSSVjwxZDRWMoS2L0OgpLQ0lK3AXinwnkNa2fXcIBcPghYzrJSGJa6kpd5dnXobJQEF3e-C5TRPiA02GatKptqH8gRe_pPU7LYMzDukGlZlla00H/s1600/%25E3%2581%2597%25E3%2581%25B3%25E3%2582%258C%25E3%2582%258B%25E7%259F%25AD%25E6%25AD%258C.jpg" imageanchor="1" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><img border="0" data-original-height="499" data-original-width="306" height="320" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi4kbmkaSjXfQhj-onI7Yd4SeYNKpd1ZSSVjwxZDRWMoS2L0OgpLQ0lK3AXinwnkNa2fXcIBcPghYzrJSGJa6kpd5dnXobJQEF3e-C5TRPiA02GatKptqH8gRe_pPU7LYMzDukGlZlla00H/s320/%25E3%2581%2597%25E3%2581%25B3%25E3%2582%258C%25E3%2582%258B%25E7%259F%25AD%25E6%25AD%258C.jpg" width="196" /></a></div>
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<br /></div>
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<br /></div>
<br />
<br />
<br />
<b>ほんとうにあなたは無呼吸症候群おしえないまま隣でねむる 鈴木美紀子</b><br />
<br />
<br />
<br />
いや教えようよ、ヤバいよと、思わずツッコミたくなるのは、私自身がこの病気の怖さを知っている当事者(患者)だからだけども。<br />
<br />
<br />
まともにツッコんだところで、この歌の抱え込んでいる黒い闇には勝てそうもない。<br />
<br />
<br />
<br />
もしかしたら明日の朝、隣でねむる「あなた」は死んでいるかも知れない。<br />
<br />
あるいは、居眠り運転などの重大な事故を起こしてしまうかもしれない。<br />
<br />
<br />
そんなことになれば、「教えない」でいる人だって、確実に巻き込まれることになるだろう。<br />
<br />
<br />
それでも「教えないまま」でいるのは、なぜか。<br />
<br />
共に暮らし、「隣でねむる」ことが長く続くうちに、相手の存在をかけがえのないものと思う気持ちが、別のなにかに変わってしまったのだろうか。<br />
<br />
<br />
かき回すのを忘れて放置していた"ぬか床"が、すこやかな乳酸菌に見捨てられて、もはや腐敗臭を漂わす汚物になり果ててしまうかのような、そんなどうしようもなさが、隣り合ってねむる二人を包み込んでしまっているのかもしれない。<br />
<br />
<br />
<br />
「しびれる短歌」といっても、毒にあたってシビレるほうの「しびれる」だろう。<br />
<br />
<br />
<br />
怖い歌だ。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<iframe frameborder="0" marginheight="0" marginwidth="0" scrolling="no" src="//rcm-fe.amazon-adsystem.com/e/cm?lt1=_blank&bc1=000000&IS2=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=ninjinjuice-22&language=ja_JP&o=9&p=8&l=as4&m=amazon&f=ifr&ref=as_ss_li_til&asins=4480689168&linkId=bc74128f330082c53fd3e4fbce0c003d" style="height: 240px; width: 120px;"></iframe>
<br />
<div>
<br /></div>
Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4305665395721681562.post-84951053473697389892019-01-16T17:12:00.002+09:002019-01-17T10:11:26.043+09:00読書メモ・ロナルド・カトラー「秘密の巻物」<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi_y-TvxztpjxT8of703Ynt3AO5mUGF3DPwU5gTCpxhIe6wTGYjA13gQvMJSqJfPDVaR5NX-3-wBglEbwVUIjDS67NP0rPUVk9_ukmwBwPzSB97ZwdAkUKjnC3nuOFhSIxtokyBnZilry4O/s1600/%25E7%25A7%2598%25E5%25AF%2586%25E3%2581%25AE%25E5%25B7%25BB%25E7%2589%25A9.jpg" imageanchor="1" style="clear: left; float: left; margin-bottom: 1em; margin-right: 1em;"><img border="0" height="320" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi_y-TvxztpjxT8of703Ynt3AO5mUGF3DPwU5gTCpxhIe6wTGYjA13gQvMJSqJfPDVaR5NX-3-wBglEbwVUIjDS67NP0rPUVk9_ukmwBwPzSB97ZwdAkUKjnC3nuOFhSIxtokyBnZilry4O/s320/%25E7%25A7%2598%25E5%25AF%2586%25E3%2581%25AE%25E5%25B7%25BB%25E7%2589%25A9.jpg" width="218" /></a>ロナルド・カトラー著「秘密の巻物」という小説を読みました(新谷寿美香訳・<span style="background-color: white; color: #333333; font-family: "verdana" , "arial" , "helvetica" , sans-serif; font-size: 13px;">イースト・プレス</span>)。<br />
<br />
「ガーディアン」という、極端に排他的な信仰を持つグループと、アメリカ人考古学者のジョシュ・コーハンとの、命がけの戦いの物語です。<br />
<br />
<br />
イスラエルの史実や遺跡など、事実に基づく描写が多く、そちらのほうに深い知識のある人にとっては、いろいろとツッコミどころのある作品なのかもしれないですが、細かいことは気にせずに楽しみました。<br />
<br />
<br />
<br />
(ただ一点、どうしても気になる箇所がありました。物語の本筋に関わるものではないのですが、ツッコみたい欲求が抑えがたいので、最後に書きます😅😅😅😅)<br />
<br />
<br />
主人公のジョシュは、有能な考古学者だけれど、大学の研究チームの上司に発掘上の大発見を横取りされた上、パワハラを受けるようになったため、休暇を取ってイスラエルを訪れます。<br />
<br />
ジョシュは、マサダ(ユダヤ戦争で千人ものユダヤ人が篭城してローマ軍と戦ったといわれる要塞)を見学したあと、エルサレムを目指して車を走らせている途中、強い既視感のある洞窟に導かれるようにして入り込み、古い壺の中に入った巻物を掘り当てます。<br />
<br />
ジョシュが巻物の文書を解読すると、驚いたことに、巻物の著者は、ヨシュア・ベン・ヨセフ(ヨセフの息子ヨシュア)、イエス・キリストその人であるようでした。<br />
<br />
巻物のなかのイエスは、自分の教えが歪んだ形で後の世に伝わって悪用されることを予見し、それを避けるために、自らの死を迎える前にこれを書き残すことにしたと語っていました。<br />
<br />
考古学者としての大発見の可能性に心を躍らせたジョシュは、イスラエル考古学庁(IAA)に連絡を取り、自分を調査メンバーに加えることを条件に巻物を引き渡したいと伝えます。<br />
<br />
けれどもその直後から、ジョシュの周囲に怪しい影が見え始め、友人や同僚、警護を担当した人々が、次々と殺されていきます。<br />
<br />
それらは、「ガーディアン」という狂信的グループによる犯行でした。<br />
彼らの目的は、自分たちと同じ信仰を持たない人間全てを地上から消し去ることであり、その恐るべきジェノサイドの欲求は、何世代も続くカリスマ的な指導者によって広められ、世界各地の権力者層にまで浸透しているようでした。<br />
<br />
<br />
「ガーディアン」の現在の指導者は、父親である先代指導者によって、筋金入りの狂信者として育てられていました。<br />
<br />
彼は、危険なカルトの教祖の典型のような人物で、恐怖によってメンバーを洗脳支配し、他人の苦痛や死には一切の共感や痛みを覚えず、対立する考えを持つ人間を残虐に扱って恐怖でねじ伏せることを喜びとします。<br />
<br />
その類いの人物には、たとえ物語の中であっても出会いたくないというのが、正直なところですけども、考えてみると新約・旧約の「聖書」の時代から、そういう権力者は繰り返し出現していたわけで、これはもう「人間」という種族が先天的に抱え込んでいる「病気」と考えたほうがいいのかもしれません。<br />
<br />
現代医学が「狂信」をどのように捉えるのかについて、詳しくは知りませんが、パーソナリティ障害についてのさまざまな解説のなかに、客観性や整合性のない思想に固執し、それを「狂信」する人物像が書かれている場合があります。残虐行為を行ったとされる歴史上の独裁者たちも、そうした"症例"の一つとして紹介されていたりします。けれども、ヒトラーやヘロデ王が「患者」として医療現場に送られたとして、はたして治療、療育が可能なものかどうかは、想像もつきません。<br />
<br />
さて、ジョシュの発見した巻物は、「ガーディアン」のように、キリスト教の教えを曲解してジェノサイドを引き起こす狂信者が現れることを危惧するものですから、もしもそれがイエス・キリスト自身の手になるものとして公表されることになれば、「ガーディアン」の存続自体が危ぶまれることになります。なので、彼らとしては、どうしても自分たちの手で巻物を回収し、内容を知る全員を粛正する必要があったのでした。<br />
<br />
<br />
身内にも内通者がいるという状況にあって、ジョシュは、巻物の言葉が示唆する事柄と、自らの直感のみを支えに、「ガーディアン」のもくろみを打ち破ろうとします。<br />
<br />
<br />
そういうスリリングな攻防の中で語られる、ジョシュの心情についての一節が、本作の中では、一番心に残りました。<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
<b>人生には、傷ついた自負心などよりもっと大切なものがある。(p358)</b></blockquote>
<br />
彼は、かつて自分の業績を横取りした、憎むべき上司のことを、なつかしく思い出し、彼の名前を偽名として使うことまでしています。生きるか死ぬかという状況だからこそでしょうけれども、過去のしがらみをすっきりと手放したことに、共感を覚えました。<br />
<br />
<br />
このくだりの少し前に、旧約聖書の詩篇(103篇)の一節が引用されていて、それも印象に残りました。<br />
<br />
<br />
<b>人の人生は草のよう。</b><br />
<b>いっときに花を咲かせ、そして萎れる。</b><br />
<b>風が通りすぎれば、枯れてしまう。</b><br />
<b>けれど、主を慕う花への主の愛は</b><br />
<b>いつまでも絶えることはない。</b><br />
<b>主よ、あなたの正さは</b><br />
<b>世々とこしえにつづきます。</b><br />
<b>今の世代がついに平和を知り、</b><br />
<b>すべての人々がひとつに結ばれますように。</b><br />
<b>(p349-350)</b><br />
<b><br /></b>
<br />
<br />
口語訳の聖書では、ここの箇所は次のようになっていました。<br />
<br />
人は、そのよわいは草のごとく、<br />
その栄えは野の花にひとしい。<br />
風がその上を過ぎると、うせて跡なく、<br />
その場所にきいても、もはやそれを知らない。<br />
しかし主のいつくしみは、とこしえからとこしえまで、<br />
主を恐れる者の上にあり、その義は子らの子に及び、<br />
その契約を守り、<br />
その命令を心にとめて行う者にまで及ぶ。<br />
主はその玉座を天に堅くすえられ、<br />
そのまつりごとはすべての物を統べ治める。<br />
主の使たちよ、<br />
そのみ言葉の声を聞いて、これを行う勇士たちよ、<br />
主をほめまつれ。<br />
主が造られたすべての物よ、そのまつりごとの下にあるすべての所で、主をほめよ。わがたましいよ、主をほめよ。<br />
<br />
(口語訳 詩篇第103篇 15-22)<br />
<br />
<br />
詩篇のほうでは、「すべての人々がひとつに結ばれますように」という意味の言葉はないので、そこのところは作者の創作、もしくは翻訳者による意訳なのかなと思います。<br />
<br />
<br />
旧約聖書の時代の人々にとって、人の命は、いまの時代よりもはるかにはかなく、脆いものだったことでしょう。その脆さ、心細さを支えてくれるものとして、神様を頼り、深い信仰心を抱いたのかもしれません。<br />
<br />
<br />
けれども、やすらぎと安寧を求める心から広まったはずの信仰が、世界中でさまざまな争いの元となり、人の命をいっそうはかなくしてしまうところに、なんともいえないやりきれなさがあります。<br />
<br />
この作品に出てくるイエスの「巻物」は実在しないものですが、二千年前に、人々を愛し荒れた世の中を憂えた、心優しい預言者が、自分の教えが未来社会で大きな争いを引き起こさないようにと願ったとしても、そう不思議ではないように思われます。<br />
<br />
<br />
作品の最後で、巻物が、大量殺戮の起きる未来を、具体的な日時つきで予告していることが明かされますが、いささか悪趣味な趣向で、そこは必要なかったかなと思いました。<br />
<br />
<br />
さて…<br />
どうしてもツッコミたかった部分は、主人公ジョシュの養父母についての設定です。<br />
<br />
<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
<b>あれはちょうどジョギングから戻ったときだ、養父母が飛行機事故で死亡したという連絡を受けたのは。(p53)</b></blockquote>
<br />
<blockquote class="tr_bq">
<b>養父母のエマニュエルとミリアムの顔が、目の前に現れては消えていく。自分が笑い声をあげながら、ふたりと走り回っている。遊んでいるのは裏庭で、自分は四歳、おそらく養父母が飛行機事故で死ぬ数ヶ月前のことだ。(P195)</b></blockquote>
<br />
<br />
<br />
四歳くらいの幼児が、「ジョギング」をするものなのか。(´・ω・`)<br />
<br />
あるいは飛行機事故で死亡した「養父母」が一組ではなかったのか。<br />
<br />
どこか、うっかり読み飛ばしてしまったのかとも思いましたが、本筋を揺るがす部分ではないので、あまり深く考えないことにします。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<div>
<br /></div>
Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4305665395721681562.post-75865080031078192732019-01-14T11:02:00.000+09:002019-11-07T15:33:25.769+09:00読書メモ…歯痛・抗菌剤<br />
自殺した太宰治の追悼、というよりも、力の限りドヤしつけているようにも思える<b>「不良少年とキリスト」</b>は、坂口安吾のひどい歯痛の話から始まります。<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
<br />
もう十日、歯がいたい。右頬に氷をのせ、ズルフォン剤をのんで、ねている。ねていたくないのだが、氷をのせると、ねる以外に仕方がない。ねて本を読む。太宰の本をあらかた読みかえした。<br />
ズルフォン剤を三箱カラにしたが、痛みがとまらない。是非なく、医者へ行った。一向にハカバカしく行かない。<br />
「ハア、たいへん、よろしい。私の申上げることも、ズルフォン剤をのんで、氷嚢をあてる、それだけです。それが何より、よろしい」<br />
こっちは、それだけでは、よろしくないのである。<br />
「今に、治るだろうと思います」<br />
この若い医者は、完璧な言葉を用いる。今に、治るだろうと思います、か。医学は主観的認識の問題であるか、薬物の客観的効果の問題であるか。ともかく、こっちは、歯が痛いのだよ。<br />
原子バクダンで百万人一瞬にたゝきつぶしたって、たった一人の歯の痛みがとまらなきゃ、なにが文明だい。バカヤロー。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
(青空文庫版「不良少年とキリスト」冒頭より) <a href="https://amzn.to/2oZ4qhe" target="_blank"><span style="font-size: x-small;">Amazonで見る</span></a></blockquote>
<br />
<br />
<br />
ものすごく、痛そうです(T_T)。<br />
<br />
<br />
ここで気になるのは<b>「ズルフォン剤」</b>という、耳慣れない(目にも慣れない)薬剤。<br />
<br />
どんなものだろうと思ってネット検索すると、現在では「サルファ剤」と言われる、抗菌剤のことだと分かりました。この薬剤の発見者であるドイツ人医師、ゲルハルト・ドーマクは、これによりノーベル医学賞を受賞したとのこと。<br />
<br />
<br />
日本には昭和初期から輸入され、国内生産もされていたようです。 <br />
<br />
太宰治が亡くなった昭和23年(1948年)の夏に、坂口安吾が何箱も買い込んで服用していたという「ズルフォン剤」のパッケージなどの写真資料がないかと思って検索してみましたが、見当たりませんでした。<br />
<br />
<br />
昭和の日常生活については、近世以前よりもはるかにたくさん資料があるようでいて、こういう細かなところから、容赦なく分からなくなっていくように思います。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<a href="https://www.amazon.co.jp/%E4%B8%8D%E8%89%AF%E5%B0%91%E5%B9%B4%E3%81%A8%E3%82%AD%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88-%E5%9D%82%E5%8F%A3-%E5%AE%89%E5%90%BE-ebook/dp/B009B01H2U/ref=as_li_ss_il?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&keywords=%E4%B8%8D%E8%89%AF%E5%B0%91%E5%B9%B4%E3%81%A8%E3%82%AD%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88&qid=1573108317&s=digital-text&sr=1-1&linkCode=li2&tag=ninjinjuice-22&linkId=4a3919c3ebc9a37eac5f21d9ab54a6a2&language=ja_JP" target="_blank"><img border="0" src="//ws-fe.amazon-adsystem.com/widgets/q?_encoding=UTF8&ASIN=B009B01H2U&Format=_SL160_&ID=AsinImage&MarketPlace=JP&ServiceVersion=20070822&WS=1&tag=ninjinjuice-22&language=ja_JP" /></a><img alt="" border="0" height="1" src="https://ir-jp.amazon-adsystem.com/e/ir?t=ninjinjuice-22&language=ja_JP&l=li2&o=9&a=B009B01H2U" style="border: none !important; margin: 0px !important;" width="1" /> <span style="font-size: x-small;"><a href="https://amzn.to/2pEUwll" target="_blank">Amazonで見る</a></span><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4305665395721681562.post-89203304804501208992019-01-10T10:31:00.000+09:002019-01-10T10:31:11.587+09:00太宰治「人間失格」 (仮病)<br />
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;">「人間失格」をはじめて読んだのは、三十代になってからでした。</span><br />
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;">その後も、何度となく読んでいるのですが、読むたびに、「こんなくだりがあっただろうか」と、新鮮な気持ちになる、不思議な小説です。</span><br />
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;">物語全体を覚えていられないのは、トシのせいで記憶が怪しくなっているせいもあるのでしょうけれども、そればかりでもない気がします。</span><br />
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<br />
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;">合うたびに、顔の雰囲気や話す内容が変わってしまって、印象の安定しない人って、ときどきいますよね。</span><br />
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;">悪い人ではないような気がするけれど、かといって、いい人なのかどうかも、よく分からない人。</span><br />
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;">こちらが、「よくわからないけど、この人は、もしかしたら、こんなタイプの人かもしれない」と想像してみている、そのイメージをいつのまにか読み取って、意図的にそれに合わせてきている気配さえ見え隠れするような、奇妙で不気味な人物。</span><br />
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;">太宰治の「人間失格」は、本ですから人間ではありませんけれども、なんだかそういう振る舞いをする人格を持っているような気がしてなりません。</span><br />
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;">作者はとっくに亡くなっているのに、残されたこの作品は、まるで生きている人間のように意識を保っていて、しかも、いまだに「何者」にもなりきれない不安定な苦悩のなかに生きているつもりで、あれやこれやと、自分をそれらしく見せているのではないかとさえ、思われてきます。</span><br />
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;">怖い本です。</span><br />
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;">太宰治 「人間失格」青空文庫</span><br />
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjlWisFt3uPH9IW4nAnrP3t_R4WKmqEp-qthRupVgXqRmRjEPnR4AplAZ_AUSK9OJxB0z4mrm-RF27-7Jt_F7mIAUQa9u6FUOj9H1rLyEt70xBOB4eaN80LmFhevHhzORrGNGm3pMkTB9fS/s1600/41YvrNBNWrL.jpg" imageanchor="1"><img border="0" height="320" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjlWisFt3uPH9IW4nAnrP3t_R4WKmqEp-qthRupVgXqRmRjEPnR4AplAZ_AUSK9OJxB0z4mrm-RF27-7Jt_F7mIAUQa9u6FUOj9H1rLyEt70xBOB4eaN80LmFhevHhzORrGNGm3pMkTB9fS/s320/41YvrNBNWrL.jpg" width="212" /></a> <a href="http://amzn.to/2gDZ45S">Amazonで見る</a> </span><br />
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;">↑ Amazon Kindleで、無料で読めます。</span><br />
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;">今回読んで気になったのは、主人公が心中未遂後の取り調べで、結核であるかのように装って、警察官を騙そうとするところでした。</span><br />
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<br />
<br />
------------------------------<br />
<br />
<span style="color: #274e13; font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><i>訊問がすんで、署長は、検事局に送る書類をしたためながら、</i></span><br />
<span style="color: #274e13; font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><i><br /></i></span>
<span style="color: #274e13; font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><i>「からだを丈夫にしなけりゃ、いかなね。血痰が出ているようじゃないか」</i></span><br />
<span style="color: #274e13; font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><i><br /></i></span>
<span style="color: #274e13; font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><i>と言いました。</i></span><br />
<span style="color: #274e13; font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><i><br /></i></span>
<span style="color: #274e13; font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><i>その朝、へんに咳が出て、自分は咳の出るたびに、ハンケチで口を覆っていたのですが、そのハンケチに赤い霰が降ったみたいに血がついていたのです。けれども、それは、喉から出た血ではなく、昨夜、耳の下に出来た小さいおできをいじって、そのおできから出た血なのでした。しかし、自分は、それをいい明さないほうが、便宜な事もあるような気がふっとしたものですから、ただ、</i></span><br />
<span style="color: #274e13; font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><i><br /></i></span>
<span style="color: #274e13; font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><i>「はい」</i></span><br />
<span style="color: #274e13; font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><i><br /></i></span>
<span style="color: #274e13; font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><i>と、伏眼になり、殊勝げに答えて置きました。</i></span><br />
<br />
<br />
(引用終わり)<br />
------------------------------<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;">さして悪辣でもない、保身のためという理由のついた、わざとらしい演技ですが、なんだかこの嘘が、読んでいて、妙に気持ちに引っかかりました。</span><br />
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<br />
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;">ふと、<a href="https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A9%90%E7%97%85">「詐病」</a>という言葉を思い出して、</span><span style="font-size: large;">Wikiで</span><span style="font-size: large;">説明を見てみました。</span><br />
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;">(以下、一部引用)</span><br />
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<b><span style="color: #990000; font-size: large;">詐病(さびょう)とは、経済的または社会的な利益の享受などを目的として病気であるかのように偽る詐偽行為である。</span></b><br />
<b><span style="color: #990000; font-size: large;"><br /></span></b>
<b><span style="color: #990000; font-size: large;">類義語に仮病(けびょう)があるが、詐病とはニュアンスが異なる。</span></b><br />
<b><span style="color: #990000; font-size: large;"><br /></span></b>
<b><span style="color: #990000; font-size: large;">仮病は、欠席の理由付けなど、その場しのぎに行うものをいうことが多い。</span></b><br />
<b><span style="color: #990000; font-size: large;"><br /></span></b>
<b><span style="color: #990000; font-size: large;">これに対して詐病は、実利を目的とするものをいうことが多く、どちらかというと</span><span style="color: #0c343d; font-size: large;">虚偽性障害(きょぎせいしょうがい)</span><span style="color: #990000; font-size: large;">に近い。</span></b><br />
<b><span style="color: #990000; font-size: large;"><br /></span></b>
<b><span style="color: #990000; font-size: large;">また、類似の症例としてミュンヒハウゼン症候群があるが、これは周囲の関心を引くために行われるという点で詐病や仮病とは異なる。</span></b><br />
<b><span style="color: #990000; font-size: large;"><br /></span></b>
<b><span style="color: #990000; font-size: large;"> DSM-5には</span></b><br />
<b><span style="color: #990000; font-size: large;"><br /></span></b>
<b><span style="color: #990000; font-size: large;">「詐病は個人的な利益(金銭、休暇)などを得るために意図的に病状を訴えるという点で作為症とは異なる。対照的に、作為症の診断には明らかな報酬の欠如が必要である。」</span></b><br />
<b><span style="color: #990000; font-size: large;"><br /></span></b>
<b><span style="color: #990000; font-size: large;">と書かれている。</span></b><br />
<b><span style="color: #990000; font-size: large;"><br /></span></b>
<b><span style="color: #990000; font-size: large;">詐病・仮病という名称は、いずれも偽る行為をさす名称であり、これら自体は病名ではない。</span></b><br />
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;"><br /></span>
(引用終わり)<br />
------------------------------<br />
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;">「人間失格」の人については、詐病、とまで言っていいのかどうか、判断に迷うところですが、病気であると相手に思わせることで、何らかの利益を得ようという意志があることは、間違いありません。なにしろ本人がそう語っています。</span><br />
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;">でも、具体的にどんな利益を得たかったのかは、本人もよく分かっていない様子です。</span><br />
<div>
<span style="font-size: large;"><br /></span></div>
<span style="font-size: large;"><br /></span><span style="font-size: large;">いずれにせよ、彼のもくろみは、聡明な検事との面談中に、打ち砕かれることとなります。</span><br />
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-size: large;"><br /></span>
------------------------------<br />
<span style="font-size: large;"><br /></span>
<span style="color: #274e13;"><span style="font-family: "verdana" , sans-serif; font-size: large;"><i>しかし、その時期のなつかしい思い出の中にも、たった一つ、冷汗三斗の、生涯わすれられぬ悲惨なしくじりがあったのです。自分は、検事局の薄暗い一室で、検事の簡単な取調べを受けました。検事は四十歳前後の物静かな、(もし自分が美貌だったとしても、それは謂わば邪淫の美貌だったに違いありませんが、その検事の顔は、正しい美貌、とでも言いたいような、聡明な静謐の気配を持っていました)コセコセしない人柄のようでしたので、自分も全く警戒せず、ぼんやり陳述していたのですが、突然、れいの咳が出て来て、自分は袂からハンケチを出し、ふとその血を見て、この咳もまた何かの役に立つかも知れぬとあさましい駈引きの心を起し、ゴホン、ゴホンと二つばかり、おまけの贋の咳を大袈裟に附け加えて、ハンケチを口で覆ったまま検事の顔をちらと見た、間一髪、</i></span></span><br />
<span style="color: #274e13;"><span style="font-family: "verdana" , sans-serif; font-size: large;"><i><br /></i></span></span>
<span style="color: #274e13;"><span style="font-family: "verdana" , sans-serif; font-size: large;"><i>「ほんとうかい?」</i></span></span><br />
<span style="color: #274e13;"><span style="font-family: "verdana" , sans-serif; font-size: large;"><i><br /></i></span></span>
<span style="color: #274e13;"><span style="font-family: "verdana" , sans-serif; font-size: large;"><i> ものしずかな微笑でした。冷汗三斗、いいえ、いま思い出しても、きりきり舞いをしたくなります。中学時代に、あの馬鹿の竹一から、ワザ、ワザ、と言われて背中を突かれ、地獄に蹴落とされた、その時の思い以上と言っても、決して過言では無い気持ちです。あれと、これと、二つ、自分の生涯に於ける演技の大失敗の記録です。検事のあんな物静かな侮蔑に遭うよりは、いっそ自分は十年の刑を言い渡されたほうが、ましだったと思う事さえ、時たまある程なのです。</i></span></span><br />
<b style="color: #274e13; font-family: "Trebuchet MS", sans-serif;"><span style="font-size: large;"><br /></span></b>
(引用終わり)<br />
------------------------------<br />
<b style="color: #274e13; font-family: "Trebuchet MS", sans-serif;"><span style="font-size: large;"><br /></span></b>
<span style="color: #274e13; font-family: "trebuchet ms" , sans-serif;"><span style="font-size: large;"><br /></span></span>
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;">心中に失敗して、相手の女性に死なれたことよりも、咳の演出を見破られてしまった恥の思い出のほうを、よほど比重の重い出来事として語っている主人公の、</span><span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;">人としてのいびつさ、おかしさが、息苦しいほど迫ってくるくだりです。</span><br />
<br />
<br />
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;">この人にとって、結核のふりをして、警察官や検事の同情を買ったり、社会的に有利に事を運ぶことなんか、実はどうでもよかったのだろうなと、ここを読むと察せられます。</span><br />
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;">そんなことより、自分の中の不確かさ、どんな人間であるのか自分ですら分からない、人間としてのグロテスクさを、他人に見抜かれないために、とりあえず血痰を見せて、それで相手を都合良く納得させておきたいと、無意識に思っているのかな、とも感じられます。</span><br />
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><br /></span><span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;">そこにあるのは、何をしても自分らしさを確信できない、不確かな人格を抱えながら生きていかなくてはならない苦痛であり、そこからくる根深い対人恐怖と、劣等感なのだろうと思います。</span><br />
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;">この「</span><span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif;"><span style="font-size: large;"><span style="color: #274e13;">冷汗三斗」</span>の思い出の直前に、こんな段落があります。</span></span><br />
<b style="font-family: "Trebuchet MS", sans-serif;"><span style="font-size: large;"><br /></span></b>
<b style="font-family: "Trebuchet MS", sans-serif;"><span style="font-size: large;"><br /></span></b>
<b style="font-family: "Trebuchet MS", sans-serif;"><span style="font-size: large;"><br /></span></b>
<span style="font-size: large;">------------------------------</span><br />
<div>
<span style="font-size: large;"><br /></span></div>
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif;"><span style="color: #274e13; font-size: large;"><i> お昼過ぎ、自分は、細い麻縄で胴を縛られそれはマントで隠すことを許されましたが、その麻縄の端を若いお巡りが、しっかり握っていて、二人一緒に電車で横浜に向いました。</i></span></span><br />
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif;"><span style="color: #274e13; font-size: large;"><i><br /></i></span></span>
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif;"><span style="color: #274e13; font-size: large;"><i> けれとも、自分には少しの不安も無く、あの警察の保護室も、老巡査もなつかしく、嗚呼、自分はどうしてこうなのでしょう、罪人として縛られると、かえってほっとして、そうしてゆったり落ち着いて、その時の追憶を、いま書くに当たっても、本当にのびのびした楽しい気持ちになるのです。</i></span></span><br />
<b style="font-family: "Trebuchet MS", sans-serif;"><span style="font-size: large;"><br /></span></b>
<b style="font-family: "Trebuchet MS", sans-serif;"><span style="font-size: large;"><br /></span></b>
<span style="color: #274e13; font-family: "trebuchet ms" , sans-serif;"><b>(引用終わり)</b></span><br />
<span style="font-size: large;">------------------------------</span><br />
<b style="font-family: "Trebuchet MS", sans-serif;"><span style="font-size: large;"><br /></span></b>
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif;"><span style="font-size: large;"><br /></span></span>
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;">私には到底理解できない心境ですが、</span><span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif;"><span style="font-size: large;">「罪人として縛られ」た状態こそが、この「人間失格」の主人公にとって、</span></span><span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;">最も</span><span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;">自分らしいと感じられるありかただったからなのだろうと想像されます。</span><br />
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif;"><span style="font-size: large;"><br /></span></span>
<br />
<div>
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;">麻縄で縛られた罪人になってしまえば、もうそれ以上、不確かな、何者でもない自分に苦しむこともないわけですから。</span><br />
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;">それにしても、今回、なんでこの「仮病」のくだりに、意識がひっかかったのかなと思います。</span><br />
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;">もしかしたら、「ペルソナ5」の影響かも……。</span><br />
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><br /></span>
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><br /></span></div>
<span style="font-family: "trebuchet ms" , sans-serif;"><span style="font-size: large;"><br /></span></span>
<span style="color: #274e13; font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><b><br /></b></span>
<span style="color: #274e13; font-family: "trebuchet ms" , sans-serif; font-size: large;"><b><br /></b></span>
<b style="color: #274e13; font-family: "Trebuchet MS", sans-serif; font-size: x-large;"><br /></b>
<b style="color: #274e13; font-family: "Trebuchet MS", sans-serif; font-size: x-large;"><br /></b>
<b style="color: #274e13; font-family: "Trebuchet MS", sans-serif; font-size: x-large;"><br /></b>
<b style="color: #274e13; font-family: "Trebuchet MS", sans-serif; font-size: x-large;"><br /></b><br />
<br />
<br />
<br />Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4305665395721681562.post-2645522649090674912019-01-10T09:25:00.000+09:002019-11-07T15:38:34.165+09:00三浦綾子「塩狩峠」(歩行障害・結核)<b>三浦綾子「塩狩峠」</b>は、Kindle本でも読むことができますが、今回は、地域の図書館から<a href="https://amzn.to/2CbZnMS" target="_blank">小説選集</a>を借りて読みました。紙の本も、よいものです。<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi99Z1epZZXgFg8hxnB5OxO58Qmn6ModTggOiuKsSOQDp1ePaAKwtG_uz-P5P2MvquHhJP880bPV2YokVFOzzbVC2HeRUSilh35Zb4WQk9F9IKSKY1a2ULL6w-DzZqDysC6JT6kWQZFnzuX/s1600/%25E5%25A1%25A9%25E7%258B%25A9%25E5%25B3%25A0%25E3%2581%25BF%25E3%2581%25A1%25E3%2581%2582%25E3%2582%258A%25E3%2581%258D.jpg" imageanchor="1" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><img border="0" height="200" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi99Z1epZZXgFg8hxnB5OxO58Qmn6ModTggOiuKsSOQDp1ePaAKwtG_uz-P5P2MvquHhJP880bPV2YokVFOzzbVC2HeRUSilh35Zb4WQk9F9IKSKY1a2ULL6w-DzZqDysC6JT6kWQZFnzuX/s200/%25E5%25A1%25A9%25E7%258B%25A9%25E5%25B3%25A0%25E3%2581%25BF%25E3%2581%25A1%25E3%2581%2582%25E3%2582%258A%25E3%2581%258D.jpg" width="135" /></a> <span style="font-size: x-small;"><a href="https://amzn.to/2WRTkar" target="_blank">Amazonで見る</a></span></div>
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
キリスト教を信仰する青年が、自らの命を犠牲にして客車の脱線を食い止めたという実話に基づく物語です。<br />
<br />
その悲痛な結末を知っていたので、長いこと原作を読む勇気が持てなかったのですが、先日、Kindleの無料抄録版(主人公の生い立ち部分のみ収録)が出ていたのを読んでみたところ、あまりにも面白かったので、図書館で本を借りて、残りを一気読みしました。<br />
<br />
<br />
「塩狩峠」の主人公の死は、たしかに悲痛なものでした。<br />
<br />
けれども、明治中期という時代のありさまとともに、じっくりと描かれた主人公の成長の過程や。家族とのかかわり、出会う人々との濃厚な交流の記憶が、作中での主人公の死を、ただ死んで失われてしまうだけの悲劇ではないものに変えていたと思います。<br />
<br />
<br />
なかでも、治る見込みの薄い身体障害や、難病とともに生きることについての、深い思いが描かれているのが印象的でした。<br />
<br />
主人公の永野信夫は、頑強な肉体の持ち主とは言えないものの、持病もなく、健康に暮らしていましたたが、目の前で祖母を失い、父にも早く死なれるなどの体験を経て、人の命がはかないものであることを否応なしに実感し、繊細な性格のせいもあって、深く思い悩みながら成長していきます。<br />
<br />
<br />
信夫は、親友である吉川修(おさむ)の妹の、ふじ子という少女に、自分でも気づかないほどの淡い恋心を抱いていましたが、ふじ子は生まれつき足に障害があり、幼いころからいろいろな差別を受けていました。<br />
<br />
<br />
吉川兄妹は家庭にもめぐまれず、ろくでもない父親がこしらえた借金のために、唐突に家族で、当時は「蝦夷」と呼ばれていた北海道へ移住することになるのですが、父親はまもなく病死。残された母親と修とで家計を支えるようになります。<br />
<br />
<br />
大人になって再会した信夫と修は、障害を抱えながら、美しくおおらかに成長したふじ子について、二人で語り合います。妹を保護し慈しむだけでなく、独立した人間として、その存在そのものに敬意を抱く修の言葉に、信夫は大きく心を動かされます。<br />
<br />
<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
<b>「そうだよ。考えてみると、永野君、今ふっと思いついたことだがね。世の病人や、不具者というのは、人の心をやさしくするために、特別にあるのじゃないかねえ」 </b></blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
<b> 吉川は目を輝かせた。吉川の言うことをよく飲みこめずに、信夫がけげんそうな顔をした。 </b></blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
<b>「そうだよ、永野君、ぼくはたった今まで、ただ単にふじ子を足の不自由な、かわいそうな者とだけ思っていたんだ。何でこんなふしあわせに生まれついたんだろうと、ただただ、かわいそうに思っていたんだ。だが、ぼくたちは病気で苦しんでいる人を見ると、ああかわいそうだなあ、何とかして苦しみが和らがないものかと、同情するだろう。もしこの世に、病人や不具者がなかったら、人間は同情ということや、やさしい心をあまり持たずに終わるのじゃないだろうか。ふじ子のあの足も、そう思って考えると、ぼくの人間形成に、ずいぶん大きな影響を与えていることになるような気がするね。病人や、不具者は、人間の心にやさしい思いを育てるために、特別の使命を負ってこの世に生まれて来ているんじゃないだろうか。 </b></blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
<b> 吉川は、熱して語った。 </b></blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
<b>「なるほどねえ。そうかもしれない。だが、人間は君のように、弱いものに同情する者ばかりだとはいえないからねえ。長い病人がいると、早く死んでくれればいいとうちの者さえ心の中では思っているというからねえ」 </b></blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
<b>「ああ、それは確かにあるな。ふじ子だって、小さい時から、足が悪いばかりに小さな子からもいじめられたり、今だって、さげすむような目で見ていく奴も多いからなあ」<br /><br />(中略)<br /><br />「じゃ、こういうことは言えないか。ふじ子たちのようなのは、この世の人間の試金石のようなものではないか。どの人間も、全く優劣がなく、能力も容貌も、体力も体格も同じだったとしたら、自分自身がどんな人間かなかなかわかりはしない。しかし、ここにひとりの病人がいるとする。甲はそれを見てやさしい心が引き出され、乙はそれを見て冷酷な心になるとする。ここで明らかに人間は分けられてしまう。ということにはならないだろうか」 </b></blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
<b> 吉川は考え深そうな目で、信夫の顔をのぞきこむように見た。信夫は深くうなずいた。うなずきながら、自分がきょう感じたバラの美しさを思い出していた。この地上のありとあらゆるものに、存在の意味があるように思えてならなかった。 (「塩狩峠」より引用)</b></blockquote>
<br />
<br />
<br />
作者の三浦綾子は大正十一年(1922年)生まれで、「塩狩峠」の執筆は、昭和四十一年(1966年)から始まったといいます。<br />
<br />
昭和のその頃の日本は、まだ障害者に対する差別や偏見が厳しく、身内に障害や難病を持っただけでも、結婚に支障をきたすということが、当たり前のように起きていました。障害のある子供を産んだ母親が、夫やその親族に謝罪をするということも、めずらしくなかった時代です。<br />
<br />
<br />
まして「塩狩峠」の舞台となっている明治の中ごろは、昭和よりもはるかに非寛容な世の中だったことが想像されます。貧富や身分の差による差別、外国人やキリスト教に対する根深い差別と偏見、東京から離れた地域に対する無知や差別意識など、作中でも、さまざまな差別が描かれています。<br />
<br />
<br />
ふじ子の兄である修は、最愛の妹が良縁に恵まれることを心から願っていますが、それが難しいであろうことも十分に承知しています。<br />
<br />
その上で、そういう困難を抱えた妹の存在を、周囲の人間の成長を促す試金石という、「特別の使命」を持つものと捉えようとする修と、その考えに自然に共感できる信夫は、当時の日本にあっては希有な若者だったろうと思います。<br />
<br />
<br />
まだ年若いうちに「この地上のありとあらゆるものに、存在の意味がある」と感じた永野信夫は、ふじ子が結核を発病し、その闘病によりそううちに、キリスト教の信仰を持つようになります。<br />
<br />
信夫はもともと、キリスト教には強い反感を持っていました。実の母親が敬虔なキリスト教徒であるがゆえに、西洋文化を嫌悪する祖母に家を追い出されたことや、祖母の死後に父親と復縁して戻ってきた母親と妹ばかりか、いつのまにか父親までもがキリスト教徒になっていたことを知って、家庭の中で強い疎外感を抱いていたのです。<br />
<br />
自分の孤独はキリストのせいだと考えて、キリスト教に恨みすらもっていた信夫の心を動かしたのは、病を得て一層美しく勇敢な精神のままである、ふじ子の生き方でした。ふじ子もまたキリスト教の教えによって、救いの見えない闘病生活を支えられていたのでした。<br />
<br />
修や信夫の、ふじ子に対する思いは、「この子らを世の光に」…その思いとともに、知的障害の子供たちの福祉と教育に尽力した、糸賀一雄という人の思想にも、通じるものであるように思います。糸賀一雄もキリスト教徒とのこと。<br />
<br />
<br />
「塩狩峠」読了後、三浦綾子の自叙伝でもある「道ありき」を読むと、困難な病や障害を得た人生が、極めて意味深く、周囲の人の心をも豊かなものにしていく場合のあることを教えられます。作者が小説家であってくれてよかったと、心から思います。<br />
<br />
<br />
<div style="text-align: center;">
<a href="https://www.amazon.co.jp/%E5%A1%A9%E7%8B%A9%E5%B3%A0%E3%83%BB%E9%81%93%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%8D-%E4%B8%89%E6%B5%A6%E7%B6%BE%E5%AD%90%E5%B0%8F%E8%AA%AC%E9%81%B8%E9%9B%86-%E4%B8%89%E6%B5%A6-%E7%B6%BE%E5%AD%90/dp/4072300888/ref=as_li_ss_il?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&keywords=%E4%B8%89%E6%B5%A6%E7%B6%BE%E5%AD%90+%E5%B0%8F%E8%AA%AC%E9%81%B8%E9%9B%86&qid=1573108578&sr=8-4&linkCode=li1&tag=ninjinjuice-22&linkId=96fc0d2ad4b25ca7387e896e83094434&language=ja_JP" target="_blank"><img border="0" src="//ws-fe.amazon-adsystem.com/widgets/q?_encoding=UTF8&ASIN=4072300888&Format=_SL110_&ID=AsinImage&MarketPlace=JP&ServiceVersion=20070822&WS=1&tag=ninjinjuice-22&language=ja_JP" /></a><img alt="" border="0" height="1" src="https://ir-jp.amazon-adsystem.com/e/ir?t=ninjinjuice-22&language=ja_JP&l=li1&o=9&a=4072300888" style="border: none !important; margin: 0px !important;" width="1" />
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<br />
<br />
これを書きながら調べていて知ったのですが、<b>糸賀一雄「この子らを世の光に」</b>は、Kindle版で復刊されていました。いずれちゃんと読んでみようと思います。<br />
<br />
<br />
<br />
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<iframe frameborder="0" marginheight="0" marginwidth="0" scrolling="no" src="//rcm-fe.amazon-adsystem.com/e/cm?lt1=_blank&bc1=000000&IS2=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=ninjinjuice-22&language=ja_JP&o=9&p=8&l=as4&m=amazon&f=ifr&ref=as_ss_li_til&asins=4140808365&linkId=d9e75d3534099aa8ff765ff269d116fe" style="height: 240px; width: 120px;"></iframe>
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<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhAIoaj7Cthz5h4tvWhs-lglSWAH9aiJtI_CUk36WHHOBfdxioMd_N2wOrf8Niiiwxwz0BxemLe655wlB-3ayhyphenhypheny4QdyWagtcLRNilme_L0-EocT3TrgcB2osDXTWUsBRve9cOZsz2iO8O0/s1600/41GMx-dwLUL.jpg" imageanchor="1"><img border="0" height="320" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhAIoaj7Cthz5h4tvWhs-lglSWAH9aiJtI_CUk36WHHOBfdxioMd_N2wOrf8Niiiwxwz0BxemLe655wlB-3ayhyphenhypheny4QdyWagtcLRNilme_L0-EocT3TrgcB2osDXTWUsBRve9cOZsz2iO8O0/s320/41GMx-dwLUL.jpg" width="212" /></a></div>
<br />
<br />
<br />
しばらく前に、<b>チェーホフの「桜の園」(青空文庫 神西清訳 Kindle</b><b>版 </b>無料<b>)</b>を読んだのですが、その中に、気になる話が出てきました。<br />
<br />
<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
<b>フィールス</b> 加減がわるくてな。昔はうちの舞踏会といやあ、将軍さまだの男爵だの提督閣下だのが踊りに来なすったもんだが、それが今じゃ、郵便のお役人だの駅長だのを迎えにやって、それさえいい顔をして来やしない。どうもわしも、めっきり弱くなったよ。<b><u>亡くなった大旦那さまは、みんなの病気を、いつも封蠟で療治なすったものだ。今でもわしは毎にち封蠟をのんでるが</u></b>、これでもう二十六年か、その上にもなるかな。わしがこうして生きているのは、そのおかげかも知れんて。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
アントン チェーホ「桜の園」 第三幕</blockquote>
<br />
<br />
<br />
<br />
「封蠟」というのは、封筒や容器を封印するときに用いる、蝋状の物質。<br />
<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="margin-left: auto; margin-right: auto; text-align: center;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhxSZF_F54xC8_Ou4nd9Ss7QlNp7BoU2_ziGy3crXF9mZzXTAi8Ik1bidAJZH5bihSGwQGyfIf9zOgN8ItTrPWMQBtqxuaaIxuWGoe48cLiciPl0inOL3AeRtAjBtkd0_djFVUfg-7F2Ugt/s1600/61kgJbTd5jL._SL1000_.jpg" imageanchor="1" style="margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="200" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhxSZF_F54xC8_Ou4nd9Ss7QlNp7BoU2_ziGy3crXF9mZzXTAi8Ik1bidAJZH5bihSGwQGyfIf9zOgN8ItTrPWMQBtqxuaaIxuWGoe48cLiciPl0inOL3AeRtAjBtkd0_djFVUfg-7F2Ugt/s200/61kgJbTd5jL._SL1000_.jpg" width="200" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><br /></td></tr>
</tbody></table>
<br />
こういうのですね。<br />
<br />
これそのものは食品や治療薬ではありませんが、ハチの巣からとれる、蜜蝋が原材料だったと思われますので、チェーホフの時代のロシアでは、民間療法的に用いられていたのかもしれません。<br />
<br />
<br />
ウィキの<a href="https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%9C%9C%E8%9D%8B">「蜜蝋」</a>の解説によると、食用としている地域は世界各地にあるそうです。<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
花粉由来ビタミン類、鉄分及びカルシウムなどミネラル類、蜜蝋本来の脂溶性ビタミン類といった栄養成分が含まれているため、現在では食用に巣のままの状態で健康食品としてコムハニーという名目で販売されているほか、カヌレやガムなどの洋菓子にも使用される。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
<u>かつて欧州ではバターが量産普及する以前ではバター同様に調理用油脂として用いられた。</u> </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
<u>また古くから中世にかけて蜂蜜の精製方法が普及されていない時期は欧州及び中東地域及び中国周辺地域、アフリカ大陸、南北アメリカ大陸では蜂蜜と巣を共に摂取するという形で蜜蝋は常食されてきた。</u> </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
<u>特に欧州では蜜蝋のままでもカロリーが高い飢救食物としても利用された。</u></blockquote>
<br />
<br />
コムハニー、Amazonで調べてみたら、日本製のもののほか、ニュージーランド、ドイツやハンガリーで作られたものが見つかりました。なんだかおいしそうなので、機会があれば、食べてみたいです。<br />
<br />
でも「桜の園」で、封蝋を毎日飲んでいた老使用人は、屋敷を去って行く主人の一族に見忘れられたまま置き去りにされて、締め切った扉で倒れ、おそらくそのまま昇天していくのでした。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<iframe frameborder="0" marginheight="0" marginwidth="0" scrolling="no" src="//rcm-fe.amazon-adsystem.com/e/cm?lt1=_blank&bc1=000000&IS2=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=ninjinjuice-22&o=9&p=8&l=as4&m=amazon&f=ifr&ref=as_ss_li_til&asins=B009M8TVQK&linkId=89af07ad79eb916e3c44c6f3c5fbcbc5" style="height: 240px; width: 120px;"></iframe>
<br />
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<iframe frameborder="0" marginheight="0" marginwidth="0" scrolling="no" src="//rcm-fe.amazon-adsystem.com/e/cm?lt1=_blank&bc1=000000&IS2=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=ninjinjuice-22&o=9&p=8&l=as4&m=amazon&f=ifr&ref=as_ss_li_til&asins=B07F3XKV7M&linkId=cd6199f12f726b1a4f77cf8b6988d75a" style="height: 240px; width: 120px;"></iframe>
Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4305665395721681562.post-37192190401539654302018-04-19T15:29:00.001+09:002019-01-10T10:05:37.176+09:00コナン・ドイル「入院患者」(読書メモ)今回も日記モードです。<br />
<br />
Kindleの無料本(主に青空文庫系)で見つけたコナン・ドイルの短編が面白くて、いろいろダウンロードして読んでいます。<br />
<br />
<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="margin-left: auto; margin-right: auto; text-align: center;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjl_iJu2d_q1cHV5YXkyCZErsniSEhT7u0RQx25SVFsDQZPOPHqe0wqkY8dINvf8QKnXNGrtKuHItqPgaBzQ9VWdWmE-upqBl7Suf0CoiMG2OlYRNYssfybs8CWU8OVwRpF0f7-TL-V02Cz/s1600/%25E5%2585%25A5%25E9%2599%25A2%25E6%2582%25A3%25E8%2580%2585.jpg" imageanchor="1" style="margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="320" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjl_iJu2d_q1cHV5YXkyCZErsniSEhT7u0RQx25SVFsDQZPOPHqe0wqkY8dINvf8QKnXNGrtKuHItqPgaBzQ9VWdWmE-upqBl7Suf0CoiMG2OlYRNYssfybs8CWU8OVwRpF0f7-TL-V02Cz/s320/%25E5%2585%25A5%25E9%2599%25A2%25E6%2582%25A3%25E8%2580%2585.jpg" width="212" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><a href="https://amzn.to/2EsTVnU">Amazon</a><br />
<br />
<br /></td></tr>
</tbody></table>
コナン・ドイルが「入院患者」を発表したのは、1893年とのこと。(ウィキペディアの記事による)<br />
<div>
<br />
<div>
この青空文庫版は、1930年(昭和五年)に平凡社から出た<b>「世界探偵小説全集 第三巻 シャーロック・ホームズの記憶」</b>を底本にしているそうです。</div>
<div>
<br /></div>
<div>
青空文庫化されるときに、旧字・旧かなを現代表記に改めたり、「恰も→あたかも」のように、現在は使われない漢字表記をひらがなにしたりする変更が行われ、底本の表記からだいぶ変更されているようなのですが、ところどころに、変更の手をすり抜けたらしい、古めかしい表記が残っていました。</div>
<div>
<br /></div>
<div>
その一つが、<span style="font-size: large;">「顚癇</span><span style="font-size: large;">病」</span>です。<br />
<div>
<div>
<br /></div>
<div>
この漢字表記には、ルビがついていなかったのですが、漢字の構成要素や前後の文脈から、「てんかんびょう」と読むことは想像がつきます。</div>
<div>
<br /></div>
<div>
この病名は、現代では「てんかん」とひらがな表記されるのが通例ですが、漢字表記される場合は、<span style="font-size: large;">「癲癇」</span>とされることが多いはずで、やまいだれのつかない<span style="font-size: large;">「</span><span style="font-size: large;">顚</span><span style="font-size: large;">」</span>の漢字が使われる日本語の用例は、google検索をしてみても、一例もありませんでした。</div>
<div>
<br /></div>
<div>
(※ネット上の青空文庫では、<span style="font-size: large;">「</span><span style="font-size: large;">顚」ではなく「</span><span style="font-size: large;">顛」</span>が使われていました。そして<span style="font-size: large;">「癲癇」</span>の表記で青空文庫を全文検索してみると、たくさんの用例が見つかります。)</div>
<div>
<br /></div>
<div>
<br /></div>
<div>
おそらくは、底本となった平凡社版が、<span style="font-size: large;">「顚癇</span><span style="font-size: large;">病」</span>の表記を採用していたのだと想像されますが、同時代に出版されている正宗白鳥の「吉日」(昭和3年)では<span style="font-size: large;">「癲癇」</span>の表記のようです。<br />
<br /></div>
<div>
<div>
<br />
ただ、この物語には、てんかんの患者は登場しません。<br />
てんかんの患者らしい様子で登場した人物は、仮病をつかっていただけでした。<br />
<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
患者にはあまり高い教養はないらしく、時々その答弁は曖昧に分かりにくくなりましたが、私はそれを彼が私たちの国の言葉にまだ不馴れだからだ、と云うような様子を装ってやりました。けれどもそのうちに突然に、彼は私の問いに答えるのをやめましたので、私は驚いて彼を見ていますと、彼はやがて椅子から立ち上がって、全く無表情な硬わばった顔をして、私をまじまじと見詰めるのでした。----云わずと知れた、彼は例の神秘的な精神錯乱の発作に捕らわれたのです。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
実際の話、私がその患者を見て、まず一番最初に感じたのは同情とそれから恐れとでした。が、その次に感じたのは、たしかに学問的な満足だったことを白状します。----私はその患者の脈の状態や性質やを詳しく書きとめ、それから彼のからだの筋肉の剛直性をためしてみたり、またその感受性や反応の度合いをしらべてみたりしました。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
が、これらの諸点の診察では、私がかつて取扱った患者と、特別に違った所は何もありませんでした。そこで私はこうした場合に、患者に亜硝酸アミルを吸入させて、よい結果を得ることを思い出しましたので、この時こそ、その効果をためしてみるのによい時だと考えつきました。 </blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
(コナン・ドイル 「入院患者」より引用)</blockquote>
<br />
亜硝酸アミルは、狭心症などの心臓疾患に使われる薬剤だそうですが、「入院患者」が書かれた時代には、てんかんの患者に試されるようなことも、もしかするとあったのかもしれません。<br />
<br />
引用文中の患者は、医者が亜硝酸アミルを持ってくる前に、病院から逃げ出してしまいます。<br />
<br />
もしも治療されていたら、どうなっていたことか……。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br /></div>
<div>
<br /></div>
</div>
</div>
</div>
</div>
Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4305665395721681562.post-60926190096864787292018-04-04T12:14:00.000+09:002019-01-16T17:23:58.039+09:00読書日記…田島昭宇と大塚英志と、笙野頼子…<div class="tr_bq">
<br /></div>
<br />
田島昭宇の<b>「魍魎戦記MADARA」</b>というマンガを愛読したことがきっかけで、原作者の大塚英志という人の存在を知ったのだけども、その後はじまった田島昭宇作画・大塚英志原作の連載<b>「多重人格探偵サイコ」</b>がどうしても読めず、ほとんど強烈な嫌悪症に近い状態となってしまったので、それから20年近く田島昭宇の作品には近寄らなくなりました。<br />
(書店で背表紙を見かけてもサッと顔を背けるレベル)<br />
<br />
<br />
田島昭宇氏の絵、好きだったのに…。<br />
<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="margin-left: auto; margin-right: auto; text-align: center;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhv0WtQ7azMuuKiZjgVFZXg_RoxqX00-nYQdMxPcKcx2Z6aFL4aKizwMKVPd-b8agzOVa8XtoSUF6isjhBUec9yZZ8ySZIlv8aQK_MwWDN5CjbzL_TxmRITr6lZEwM1Y44UvaUsMjFGNZe3/s1600/%25E3%2583%259E%25E3%2583%2580%25E3%2583%25A9.jpg" imageanchor="1" style="margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="219" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhv0WtQ7azMuuKiZjgVFZXg_RoxqX00-nYQdMxPcKcx2Z6aFL4aKizwMKVPd-b8agzOVa8XtoSUF6isjhBUec9yZZ8ySZIlv8aQK_MwWDN5CjbzL_TxmRITr6lZEwM1Y44UvaUsMjFGNZe3/s320/%25E3%2583%259E%25E3%2583%2580%25E3%2583%25A9.jpg" width="320" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><br /></td></tr>
</tbody></table>
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
いま<a href="https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%9A%E9%87%8D%E4%BA%BA%E6%A0%BC%E6%8E%A2%E5%81%B5%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%B3">ウィキペディア</a>の「多重人格探偵サイコ」のページをみたら、さもありなんというエピソードが載っていました。(以下引用)<br />
<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
<br />
第1話で主人公の恋人の女性が、両手両足を切断された状態で宅配便で箱詰めして届けられるという描写がある。これを見た角川書店の役員が印刷機を止め、当初1997年1月号から連載が始まる予定が2月号からになるというアクシデントで始まった。<br />
猟奇殺人を描き、リアルな死体描写、グロテスクで残酷な描写が非常に多い。その描写ゆえ2006年に茨城県、2007年に香川県・岩手県で、2008年に福島県・大分県・長崎県で青少年保護育成条例に基づく有害図書に指定されている。</blockquote>
<br />
<br />
振り返って考えるに、「多重人格探偵サイコ」という作品に対する私の嫌悪症は、残虐に肉体を破壊する描写そのものに対してではなく(<a href="https://amzn.to/2q5jBCI">岩田明「寄生獣」</a>は全く平気でしたし)、なにかこう、そういうものを敢えて前面に出し、タブーを破ることや、人の目をおどろかすようなことをして傾(かぶ)いてみせるかのような、いやな気配を感じたところから発したように思います。<br />
<br />
<br />
もちろん、全巻を読んでもいない私が、作品自体の価値や意味を論じたり断じたりすることはできませんので、「嫌でした」というにとどめます。<br />
<br />
<br />
多重人格…解離性同一障害の当事者や関係者にとって、この作品の存在はどうだったのだろうかということも、ちょっと気になるところですが、わからないので保留。<br />
<br />
<br />
<br />
残虐な殺人事件は、わざわざ創作物で読まなくても、現実に起きているものだけで十分というのが正直なところです。それだって、もう一件も起きてほしくはありません。<br />
<br />
<br />
奇しくも「多重人格探偵サイコ」が完結した2016年には、あの<a href="https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9B%B8%E6%A8%A1%E5%8E%9F%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E8%80%85%E6%96%BD%E8%A8%AD%E6%AE%BA%E5%82%B7%E4%BA%8B%E4%BB%B6">相模原障害者施設殺傷事件</a>が起きています。<br />
<br />
<br />
事件の残虐さ、痛ましさには胸がつぶれるような思いをしましたが、それ以上に恐ろしかったのは、重度の障害者が「生きる」ことに対する、世間の人々の身も蓋もない損得勘定でした。<br />
<br />
個人の生産性で生きる価値を計ろうとするような言葉に歯止めのきかない社会であること、その気持ち悪さに立ち向かうのに、普通の善意や好意、既存の道徳観などでは、どうにも力不足であるように思いました。それらは、<br />
<br />
「だって、税金の無駄でしょ?」<br />
<br />
のひと言でなぎ倒されてしまうことに対して、あるいはそのひと言でなぎ倒せると感じる、不特定多数の分厚い層に対して、有力な反撃のパワーを持たないように思えました。<br />
<br />
そういうやりきれない状況にあって、一方的に否定され、殺される側、障害者の側に立って手弁当で戦ってくれるものがあるとすれば、哲学であり、(純)文学であるように私には思えました。<br />
<br />
例えば、笙野頼子氏の「未闘病記」の、末尾近くに書かれた次のような言葉は、(重度知的障害者の親である)私にとっては、力強い味方のように思えたのです。<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
<b> ひとりの人間がただ生きている。その内面はひとつの独立した宇宙である。不当な洗脳なしにこの自立性を変えることは難しい。つまり、その自立性に依って思考していれば、言葉を使っていれば、そしてその言葉に意味や芸術があれば、その人は孤独ではない。社会とともにあり、参加している。かつ、その人の脳内に発生した共感や想像力は本人の行動、表現によって他に影響を与えるのだ。<br /><br /> そもそも心は体に対して無力であろうか。ひとりでいる事は不毛だろうか。<br /> 人は関係性だけに縛られる必要などない。どこか王のような強い心を持たなければ不可能かもしれないが。 </b><br />
<br />
笙野頼子 「未闘病記――膠原病、『混合性結合組織病」の』から引用</blockquote>
<br />
<br />
<br />
<blockquote>
<b> 例えば、ひとりぼっちで生きている人には生きている価値がないのか、労働していない或いは「なにもしてない」人間には社会も意味もないのか。孤立だけなのか。そんな事はない。人間といない時も人は言葉を使い神に祈り猫と眠る、持病に悩まされる。そんな折々、その人の心は動いている、内面はある。そこから社会に出て行く、というか彼は言語や内面により、社会化されている。<br /><br /> 人は「ひとりぼっち」でも社会と関わり合える。外界に対峙できる。社会の片隅で生まれた内面の幸福は誰に知られずとも本人の心の中にはある。<br /> かつ、これらの内面は人間関係から生まれるのではなく、根本的には所有という制度から発したものである。人間は自分の肉体を所有し、土地を所有し、自分の言葉を使い、私、自分となる。また、国家や権力に対抗することで形成されていく自分もある。 </b></blockquote>
<blockquote>
<b> その中で人は自分のテリトリーを求め、他者の財産を奪えば時に罪悪感に戦く。また時には自分の土地を愛し耕し、わが身のように守り、天災に脅える。その土地に神を祀り、死後を想像し、祈るものは祈る。これらは、社会的関係には還元できない。個人の居場所に、その所有物において発生することだ。</b></blockquote>
<br />
<blockquote>
笙野頼子 「未闘病記――膠原病、『混合性結合組織病」の』から引用</blockquote>
<br />
<br />
笙野頼子氏と大塚英志氏の<a href="https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%94%E6%96%87%E5%AD%A6%E8%AB%96%E4%BA%89">「純文学論争」</a>について、ウィキの説明を読むと、純文学が障害者と重なってきてしまうのは、感傷的にすぎる発想かもしれません。でも、<br />
<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
<b><a href="https://ja.wikipedia.org/wiki/1998%E5%B9%B4" style="background: none rgb(255, 255, 255); color: #0b0080; font-family: sans-serif; font-size: 15.104px; text-decoration-line: none;" title="1998年">1998年</a><span style="background-color: white; color: #222222; font-family: sans-serif; font-size: 15.104px;">頃、</span><a href="https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%A1%9A%E8%8B%B1%E5%BF%97" style="background: none rgb(255, 255, 255); color: #0b0080; font-family: sans-serif; font-size: 15.104px; text-decoration-line: none;" title="大塚英志">大塚英志</a><span style="background-color: white; color: #222222; font-family: sans-serif; font-size: 15.104px;">が1980年代に主張した「売れない純文学は</span><a href="https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%95%86%E5%93%81" style="background: none rgb(255, 255, 255); color: #0b0080; font-family: sans-serif; font-size: 15.104px; text-decoration-line: none;" title="商品">商品</a><span style="background-color: white; color: #222222; font-family: sans-serif; font-size: 15.104px;">として劣る」との主張に対して</span><a href="https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%99%E9%87%8E%E9%A0%BC%E5%AD%90" style="background: none rgb(255, 255, 255); color: #0b0080; font-family: sans-serif; font-size: 15.104px; text-decoration-line: none;" title="笙野頼子">笙野頼子</a><span style="background-color: white; color: #222222; font-family: sans-serif; font-size: 15.104px;">は抗議した。そこには、当時の読売新聞で文芸時評が評論家ではなく新聞記者によってなされたこと、『</span><a href="https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%87%E8%97%9D%E6%98%A5%E7%A7%8B_(%E9%9B%91%E8%AA%8C)" style="background: none rgb(255, 255, 255); color: #0b0080; font-family: sans-serif; font-size: 15.104px; text-decoration-line: none;" title="文藝春秋 (雑誌)">文藝春秋</a><span style="background-color: white; color: #222222; font-family: sans-serif; font-size: 15.104px;">』誌上で直木賞作家数名による座談会で〈売れない小説には価値がない〉という趣旨の発言がなされたこともきっかけとなっていた。 (ウィキベデア「純文学論争」の項より引用)</span></b></blockquote>
<br />
ここで言われていることを、同じような発想の「働けない○○は人間として劣る」に、ちょこっと入れ替えてみたりすると、いま問題になっている過労死問題、ブラック企業問題など、いろんなものが芋づるのようにずるずるとひっかかって顔を見せるわけで、それらを全部ひきずりだして晒した先には、「純文学」を「売れない」「つまらない」「役に立たない」ものとして、人間存在の根幹そのものといっしょくたに貶めようとしているものと同根の、人を生かさない考え方そのものがあるような気がしてきます。<br />
<br />
<br />
それでも、売れない純文学の出版(文芸誌の発行など)を維持することが、売れるジャンルの作品を圧迫しているというのが事実なら、なんとかしてほしいところではあります。<br />
<br />
文芸雑誌は私も滅多に買いませんし、芥川賞受賞作も野間文芸賞受賞作も、電子本で読んでいます。<br />
<br />
多くの人がスマホやiPhoneや読書用端末で小説やマンガを読む時代なのですから、そっちの方向に積極的に切り替えることで、圧迫を軽減できないものなのかと。業界の事情を知らない者の戯言ですけれども。<br />
<br />
<br />
<br />
あと、<b>「魍魎戦記MADARA」</b>は、紙の豪華本で再版ではなく、ぜひとも電子化してほしいです。(豪華本、高すぎです…orz)<br />
<br />
<b><br /></b>
<br />
<br />
<br />
<img alt="" border="0" height="1" src="https://ir-jp.amazon-adsystem.com/e/ir?t=ninjinjuice-22&l=li2&o=9&a=4041065119" style="border: none !important; margin: 0px !important;" width="1" />
<br />
<br />
<br />
<br />Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4305665395721681562.post-32638828618778785972018-04-03T15:32:00.001+09:002019-01-10T10:06:56.373+09:00 笙野頼子「未闘病記 膠原病、『混合性結合組織病』の」(読書日記)<br />
今回も読書日記モードです。<br />
<br />
でも前回のような手抜きをせずに、表紙画像をちゃんと貼ります。<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="margin-left: auto; margin-right: auto; text-align: center;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjomZ4FpoXQ08gzHLfk6O1jpJKmmc9L4lOGnbh-7bh9VtGlD85P85Vp8F8RVPU1EKk-iXDcpoWlvPDITCYQ9bOg1oo9MA2OToqcTJ9gPLeMN4j3rY5Ndf_3Ls6kNczh46n4PqYPs3hGojyW/s1600/%25E6%259C%25AA%25E9%2597%2598%25E7%2597%2585%25E8%25A8%2598.jpg" imageanchor="1" style="margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="400" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjomZ4FpoXQ08gzHLfk6O1jpJKmmc9L4lOGnbh-7bh9VtGlD85P85Vp8F8RVPU1EKk-iXDcpoWlvPDITCYQ9bOg1oo9MA2OToqcTJ9gPLeMN4j3rY5Ndf_3Ls6kNczh46n4PqYPs3hGojyW/s400/%25E6%259C%25AA%25E9%2597%2598%25E7%2597%2585%25E8%25A8%2598.jpg" width="268" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><a href="https://amzn.to/2JeX26H">Amazon</a><br />
<br /></td></tr>
</tbody></table>
<br />
好きな作家の、好きな作品なのですが、感想をとてもまとめきれずにいます。<br />
だからとりあえず、読みながら感じたこと、考えたことを、メモしておこうと思います。<br />
<br />
<br />
冒頭で作者が「本書はフィクションです」と書いておられるけれども、ページをめくった先にあるのは、それまで当たり前と思っていた日常に何らかの爆弾が落とされた時の現実世界の手触りで、「ああこれ知ってる、ものすごく」とつぶやきながら、最初はおそるおそる、途中からは引きずり込まれるようにして、読み進めることになりました。<br />
<br />
<br />
------------------------------------- <br />
<b>医学を知らぬひとりの人間から見える範囲を、間違っているかもしれないけれど、自分なりの過去の総括を今ここに残します。不謹慎にも見えるところは自分がいま明るくなるため、また三十年来の読者を明るくするつもりで、敢えて書きました。</b><br />
<br />
笙野頼子「未闘病記――膠原病、『混合性結合組織病」の』から引用<br />
------------------------------------- <br />
<div>
<br /></div>
なんとありがたいお気持ちだろうかと思いました。<br />
<br />
笙野頼子氏の「二百回忌」を読んだのは、この作品が三島由紀夫賞を受賞した1994年だったはずですので、私は残念ながら三十年来ではなく、約二十四年来の読者ということになります。<br />
<br />
「二百回忌」を読み始めてすぐに夢中になり、笙野頼子氏の作品のような小説が存在するなら小説って大好きだ、とまで思ったのを、よく覚えています。<br />
<br />
滝のように、洪水のようにこちらに流れ込んできて暴れる言葉。<br />
言葉が何かの映像イメージを喚起するのではなく(それは私自身の想像力がヤワだからですが)、活字のままで猛烈に暴れまわる物語。圧倒されながらも、なんとか映像イメージを持とうとすると、それがまた恐ろしく豊穣で、なにもかもが歌舞伎の隈取りでもされたかのようにくっきりしていて、にもかかわらずとんでもなく壊れていて。<br />
<br />
私にとって笙野頼子作品は、読んで巻き込まれるリアル怪異現象のような、非常に胸のすくものでした。<br />
<div>
<br /></div>
<br />
けれども、「二百回忌」と出会ってまもなく、それまでの人生で想像もしなかったような難病・障害の世界に呼び出され、最初は家族として、やがて当事者として、その世界にどっぷり浸かる暮らしが始まってしまいました。<br />
<br />
本は読んでいましたが、読解するのに集中力の必要な文学作品からは遠ざかり、ハッピーエンドを約束されているライトノベルや漫画本ばかり、まるで栄養ドリンクでも飲むように、大量に読むようになりました。たぶん、誰かが幸せになるストーリーに浸ることで、現実のしんどさを忘却したかったのだろうと思います。<br />
<br />
そんな中毒的な読書を続けるうちに、もともと悪かった目の状態を一層悪化させてしまい、紙の本、とくに文庫本のサイズの活字を長時間読むことが厳しくなってしまいました。東日本大震災で、書架の本がナイアガラの滝みたいに崩れ落ちるのを見て、「諸行無常」を痛感したことをきっかけに、自分の本を数千冊処分しました(大半はマンガとライトノベルでしたけど…)。<br />
<br />
その後、AmazonのKindleで電子本を読むようになってからは、文字の拡大機能やバックライト機能の助けを借りながら、往年の読書量をじわじわと取り戻しつつあります。<br />
<div>
<br /></div>
<br />
「未闘病記 膠原病、『混合性結合組織病』の」も、Kindle版で読んでいます。<br />
<br />
<br />
------------------------------------- <br />
<b> そう、難病である。難病になったのだ、難病、と判明した。純文学難解派、と分類される難解文学の書き手のこの私がね、それは。</b><br />
<b> 十万人に何人かの、予想困難な特定疾患。遺伝も伝染もしない個人的体験。</b><br />
<br />
笙野頼子「未闘病記――膠原病、『混合性結合組織病」の』から引用<br />
------------------------------------- <br />
<br />
おもわず「こちらがわにようこそ」と心のなかで興奮気味につぶやいて、いやそれはちょっとどうなのかと自分で自分をたしなめましたが、なんともいえない感慨、それもどちらかというとうれしさ寄りの…を覚えたのは事実です。<br />
<br />
日常生活にいきなり口を開けて人の人生を丸ごと巻き込む、難病(自分の、あるいは家族の)という異界を、ほかならぬ笙野頼子氏に文章化していただけることに対する、素朴なうれしさというのが、一番近いかもしれません。<br />
<div>
<br /></div>
それにしても…<br />
<br />
<br />
------------------------------------- <br />
<b><br /></b>
<b> 殺すかわりに書け、って学生にユってる。「悩んだら目の前のものを書け」、「書けなかったら書けない理由を書け」それと「殺すかわりに書け」。</b><br />
<br />
笙野頼子「未闘病記――膠原病、『混合性結合組織病」の』から引用<br />
------------------------------------- <br />
<br />
<br />
主人公の授業を取っている学生たちは、なんて幸福な若者だちだろうかと思います。<br />
<br />
「何ものでもない」「居場所がない」「できない」自分を問答無用で責め立てる世間にあって、どうしようもない生きにくさを抱えながら文学に寄っていこうとしているときに、このように言ってくれる「先生」が教室にいたなら、どれほどの希望になることか。<br />
<br />
まだまだ感想は尽きませんが、今回はここまでにして、また読書日記の形で書いてみようと思います。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<iframe frameborder="0" marginheight="0" marginwidth="0" scrolling="no" src="//rcm-fe.amazon-adsystem.com/e/cm?lt1=_blank&bc1=000000&IS2=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=ninjinjuice-22&o=9&p=8&l=as4&m=amazon&f=ifr&ref=as_ss_li_til&asins=B00NOTKOFA&linkId=e23b7d6fea25d34d656697ea948806c2" style="height: 240px; width: 120px;"></iframe>
Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4305665395721681562.post-66747735355897697352018-04-02T17:08:00.001+09:002019-01-10T10:07:31.247+09:00佐川光晴「縮んだ愛」を読んだけど…(読書日記)ちっとも記事数が増えないことに業を煮やしましたので(自業自得)、書評だけでなく、読書日記モードのエントリーを自分に許可することにします。(´・ω・`)<br />
<br />
で、佐川光晴<b>「縮んだ愛」</b>を読みました。<br />
<br />
<br />
<div style="text-align: center;">
<iframe frameborder="0" marginheight="0" marginwidth="0" scrolling="no" src="//rcm-fe.amazon-adsystem.com/e/cm?lt1=_blank&bc1=000000&IS2=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=ninjinjuice-22&o=9&p=8&l=as4&m=amazon&f=ifr&ref=as_ss_li_til&asins=406276072X&linkId=861e6dcf68c048c9aef3befc41fa43bf" style="height: 240px; width: 120px;"></iframe>
</div>
<br />
<br />
表紙画像を用意して貼り付けるというも面倒だから、Amazonアソシエイトのお手軽リンクをぺったんします。手抜きですみません。m(. .)m<br />
<br />
それにしてもこれ、もうすこし垢抜けたデザインにならないものでしょうか。(T_T)<br />
「今すぐ購入」とかの文字列いらないから、もっと表紙画像がきれいに見えるサイズに変えられるといいのに(私の知識がないだけだったらすみません)。<br />
<br />
<br />
<b>「縮んだ愛」</b>を読もうと思ったきっかけは、主人公が小学校の障害児学級(いまは特別支援学級と言われています)で教える先生で、自閉症の児童が出てくる物語だと知ったからでした。<br />
<br />
私自身が自閉症(正確には自閉傾向のある広汎性発達障害)の息子を持つ親ですので、そこは問答無用で興味を引かれるポイントとなります。<br />
<br />
で、読んでみたのですが……<br />
力作であるとは思うのですが、いまいち読後感がよくありません。<br />
<br />
理由はいろいろありますけれども、主人公の先生が、どうにも魅力に欠ける人物だったのが、一番大きかったかもしれません。なにしろ大事なことから目をそらして、あきらめて逃げ続けて、お酒ばっかり飲んでいる人ですから。(~_~;)<br />
<br />
Amazonでの紹介文に、<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
<i><b>2002年第24回野間文芸新人賞受賞作! 障害児教育の現場から描く、注目の新しい文学。養護学級のベテラン教員である「わたし」が巻き込まれた元教え子の殺人未遂事件を、主人公の告白体で描いた力作!</b></i></blockquote>
<br />
とありますが、これ、だいぶ誤解を招く表現になっていると思います。<br />
<br />
まずこの小説、「障害児教育の現場から描」いた物語ではないと思います。<br />
<br />
主人公は確かに障害児教育の現場にいる教員ですが、彼の告白の大半は、障害児教育の現状に感じている自分自身のむなしさやあきらめの気持ち、そして妻との間の深刻な感情のすれ違い、家庭内別居事情、息子との会話のなさ、そうしたすべてのことを直視せず、ただ眺めてあきらめて酒に逃げ続けているだけの、自分の心情と言い訳ばかりです。もともとこういうタイプが大嫌いですので(個人的好み)、読んでいて、げんなりします。<br />
<br />
彼の職場にいるはずの障害児たちは、一般論のなかで、あるいは集団としてまとめて語られるばかりで、具体的な姿はあまり見えてきません。<br />
<br />
教育者としての自分に限界を感じて、救いがたい虚無感を抱えながらも、すべて諦めて働いているアル中寸前の教員の告白としては、極めてリアルですぐれたものになっているのかもしれませんけれども、実際に我が子を特別支援学級に通わせていたことのある親として、それを読みたいかというと、<br />
<br />
<span style="font-size: large;">「いらんわ」</span><br />
<br />
というのが、正直なところです(切捨御免なさい)。<br />
<br />
<br />
Amazonの内容紹介の話に戻りますが、<br />
<br />
「元教え子の殺人未遂事件」<br />
<br />
という書き方だと、元教え子の障害児が殺人未遂を引き起こした犯人であるかのようですけれども、元教え子は被害者であり、しかも主人公の直接の教え子でも障害児でもありません。犯人は最後まで不明です。<br />
<br />
<br />
<b>「縮んだ愛」</b>に出てくる自閉症の児童は、主人公の過去の教え子の一人でしたが、普通学級の授業に参加しているときに、他の児童にひどい暴力をふるわれたことで、登校できなってしまいます。彼の出番はそれっきりで、その後の物語のメインの出来事には関わってくることがありません。消息も不明。<br />
<br />
暴力をふるった側の児童はもともと粗暴で、根深い他害の問題がありましたが、上の事件のあと、臭い物に蓋をするかのような親の意向で、いきなり転校してしまいます。<br />
<br />
一連のやりきれない出来事のために、暴力をふるった側の児童の(普通学級の)担任として直接かかわり、心に深手を負った女性教員は、自ら希望して養護学校(特別支援学校)へと転勤していきます。<br />
<br />
主人公もさまざまな思いを抱きますが、児童に対しても同僚の教員に対しても、結局何もできず、傍観者の立場にあるばかりでした。<br />
<br />
それ自体はとくに罪ではありませんし、主人公は別に悪徳教員でも問題教師でもありません。むしろ現場では、経験を積んだ「よい先生」であったはずです。<br />
<br />
けれども彼は心の中で、自分がどんなにがんばって障害児たちを教育し、社会へと送り出したところで、どうせ、<br />
<br />
<span style="font-size: large;">「行き場もなくしだいに衰えていく」</span><br />
<br />
だけのものだと考えています。現実にそういう実態あることを主人公はよく知っていて、その現実に太刀打ちする気力を完全に失っているのです。<br />
<br />
こんな先生は、きっと実際に存在していることでしょう。<br />
でも、わざわざ小説の主人公として出会いたくもなかったと思いました。<br />
<br />
<br />
というわけで、「自閉症」についての小説を読みたいと考える方に、私は「縮んだ愛」を全くお勧めいたしません。(´・ω・`)<br />
<br />
お勧めしにくい小説を独立したエントリーとして紹介するのもどうかと思うので、ここではこういう日記の形で書き残します。(こういう作品、今後増えそうです…)<br />
<br />
<div>
<br /></div>
<br />
ちなみに、「縮んだ愛」の主人公は、知的障害児たちの未来からも、こじれてしまった妻との関係からも目をそらしまくったあげく、ある殺人未遂事件の容疑者として逮捕されるという、とんでもない状況に陥ってしまいます。それは全くのとばっちりではありますが、ある意味、彼が逃げ続けた現実から大きなしっぺ返しを食らったというふうに見ることもできるものでした。<br />
<br />
事件の被害者は、上にも書いたように、主人公の教え子の自閉症児を殴って転校してしまった、粗暴な児童でした。<br />
<br />
彼は大人になってから主人公と再会し、どうしたわけか主人公になついて自宅に通うようになり、連れてきた友人たちも交えて、一緒に酒を飲んで過ごします。<br />
<br />
ところがある日、主人公の留守宅の周囲をうろついている姿を目撃されたあと、何者かに殴られて脳が壊れ、意識不明の寝たきりとなってしまいます。<br />
<br />
その日、自宅を留守にして旅に出ていた主人公には、アリバイがありませんでした。<br />
<br />
主人公は確実に無実なのですが、ある事情のために、自分のアリバイを警察に証明しようとせず、一切を黙秘したまま有罪になろうとします。真犯人を知っているはずの被害者が意識を取り戻さないかぎり、主人公の有罪は確定するかもしれませんが、物語はその顛末を語らずに終ります。<br />
<br />
<br />
なぜ主人公が自身のアリバイを語らず、殺人未遂の罪をかぶろうとしたかについては、彼の告白全体をよく読むと、なんとなく、想像がつくようになっています。<br />
<br />
もしも彼が、妻との感情のすれ違いや自分の気持ちから目を背けず、しっかりと関わりを持つことをしていれば、こんな事件に巻き込まれることはありませんでした。<br />
<br />
彼が目をそらし、無視してきたものは、あまりにもたくさんありました。<br />
<br />
・障害児教育という自分の仕事への妻の無理解を黙認。<br />
・結婚以来共に楽しんでいた晩酌を妻が拒否したことを黙認。<br />
・妻が婦人病を患ったことを理由にはじまった、セックスレスを黙認。<br />
・息子のお受験問題に対する、妻との意見の不一致を黙認。<br />
・イスラム教に傾倒し、自室壁面をアラベスク文様で埋め尽くす一人息子を黙認。<br />
・息子を心配するうちに自分がイスラム教徒になってしまった妻の心情を黙認。<br />
・自宅でブルカをかぶり夫を完全無視する妻を黙認。<br />
・妻と息子がイスラム教の巡礼の旅にでることを黙認。<br />
<br />
<br />
最初の三つくらいは、ない話ではないと思いますが、後半になってくると、これを長年にわたって黙認し続けるほうが難しいのではないかという状況で、家庭内でブルカ姿となる妻を黙認するに至っては、もはや無関心であること自体が、暴力よりも残酷だと言いたくなります。<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgvdmPmPn71JPzd7TuVhEkSI5taan5GOrCclQVBmxWmLi24f0u3whosOTRCafeK3rkWCt4lB5VzaSgSerf2PdPsPmfAk4Xn_n2I-pOPSLT3ON0p82NQaOYrVsQYuOy3cpf48vr5Sjll4e1m/s1600/%25E3%2583%2596%25E3%2583%25AB%25E3%2582%25AB.jpg" imageanchor="1" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><img border="0" height="222" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgvdmPmPn71JPzd7TuVhEkSI5taan5GOrCclQVBmxWmLi24f0u3whosOTRCafeK3rkWCt4lB5VzaSgSerf2PdPsPmfAk4Xn_n2I-pOPSLT3ON0p82NQaOYrVsQYuOy3cpf48vr5Sjll4e1m/s400/%25E3%2583%2596%25E3%2583%25AB%25E3%2582%25AB.jpg" width="400" /></a></div>
<br />
<br />
まあ、こういう姿の妻に話しかけにくいのはわかりますけども……<br />
<br />
こんなことになる前になんとかしろとという話です。(´・ω・`)<br />
<br />
<br />
もしも妻との関係がブルカで隔てられてしまうほどこじれていなければ、主人公は、夜祭りの巡回指導のあとに深酒をすることも、その場で被害者と再会することも、彼に深く関わって殺人事件の容疑者にされることも、妻と息子が巡礼の旅に出ている間にアリバイを証明できない一日を作ってしまうことも、絶対になかったはずでした。<br />
<br />
<br />
だからといって、やってもいない殺人罪をかぶることが正しい責任の取り方であるはずもなく、おそらく主人公は、この先さらにどうしようもない状況に陥ることが予想されます。<br />
<br />
可能性は低いかもしれませんが、脳が壊れてしまった被害者が意識を取り戻し、犯人が主人公ではないと証言すれば、主人公はアリバイのない一日について、妻にどう説明するのか。<br />
<br />
<br />
物語の冒頭で、もともとスケベなほうの人間であるとはっきり告白していた主人公は、過去のエピソードの端々で、決して性欲が弱くはなかったことを示唆していますが、のちに殺されかけて意識不明となる青年の差入れで豚の睾丸の刺身を食べてからは「体の漲り」を取り戻したと語っています。<br />
<br />
殺人未遂事件が起こった当日、ほんとうは何をしていたかを正直に話せば、容疑が晴れるかわりに、妻をより深く傷つけかねないと、主人公は考えたのではないかと思います。<br />
<br />
さらに、有罪の判決を受けて刑務所に行くことが決まれば、主人公がやりきれないむなしさを感じている障害児教育の現場からの撤退が可能となります。<br />
<br />
結局主人公は、本当の意味で現実と向き合うことから逃げ続けようとしているのでしょう。<br />
<br />
<br />
どうせなら、主人公がどうにも逃げられなくなるところまで、全部書いてほしかったです。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4305665395721681562.post-46735998854311984572018-03-29T21:28:00.002+09:002019-01-10T10:08:00.105+09:00しみず宇海「片づけられない私をみつめて」(ADHD)<br />
<br />
<b>しみず宇海「片づけられない私をみつめて」</b><br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgjbqbC8SpBykx-LjgvCamMMQOlWfnGO-BV34qoMrROjBttOZsRLCobqzy6RZYmEhPRb3n5t3fusx8CmK3UT-R3A4A_A6augxcGA-5sR_4hZnm-jGl8JGGGYWERd1e7_WOJaFCrkKUVRVeI/s1600/51DjXuPSQTL.jpg" imageanchor="1"><img border="0" height="320" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgjbqbC8SpBykx-LjgvCamMMQOlWfnGO-BV34qoMrROjBttOZsRLCobqzy6RZYmEhPRb3n5t3fusx8CmK3UT-R3A4A_A6augxcGA-5sR_4hZnm-jGl8JGGGYWERd1e7_WOJaFCrkKUVRVeI/s320/51DjXuPSQTL.jpg" width="225" /></a><br />
<br />
講談社 <a href="https://amzn.to/2GT8WSO">Amazon Kindle版</a> (Kindle unlimited)<br />
<span style="font-size: x-small;">Amazon Kindle版が読み放題となっています</span><br />
<br />
<br />
子どものころから「だらしない」と言われ続けた一人の女性が、混乱した生活に苦しむうちに、ADD(注意欠陥障害)という脳の問題に気づき、自分らしい人生を見つけていく物語です。<br />
<br />
<br />
本書が出版されたのは2005年8月。<br />
大人の発達障害について、何種類もの本が出て、世間でも少しづつ知られるようになってきた時期だったと記憶しています。<br />
<br />
<br />
<br />
<h3>
学校での苦しみ</h3>
<br />
主人公の桜坂のどかは、小学校のころから、ルールに従わない問題児とみられていました。<br />
<br />
授業をきちんと聞くことができない。<br />
周囲に合わせて適切な行動することができない。<br />
時間を守れず、落ち着きがない。<br />
なくし物が多く、机のなかはぐちゃぐちゃ。<br />
<br />
<br />
自分ではがんばっているつもりでも、気がつけば何か失敗してしまって先生が激怒する、友達に後ろ指を指される、という学校生活が続きます。<br />
<br />
家庭訪問での担任の先生の言葉は、のどかを一方的に非難するものでした。<br />
<br />
<br />
<b>「やる気がないとしか思えません。同じ分数のテストをやらせると、きのうは100点、今日は10点。そわそわして集中力がない。整理整頓もできないし……」</b><br />
<br />
<br />
これを聞いて、のどかは先生が怒るのは自分のせいだと気づくのですが、何が悪いのかまではわかりません。<br />
<br />
<br />
<b> なんで あたしは</b><br />
<b> 怒られてばかり</b><br />
<b> いるんだろう</b><br />
<br />
<br />
中学に入ると、のどかは成績を上げることで、周囲に一目置かれるようになりますが、不注意と片づけられないのは相変わらずで、そのことで異性に強く非難されるという経験をしてしまいます。<br />
<br />
<br />
<b>「女のくせに不潔だ」</b><br />
<br />
<br />
のどかにとって、あまりにも強烈な言葉でした。<br />
<br />
深く傷ついたのどかは、それ以降、外面をなんとか取り繕って「普通の女の子」らしくすることに、全神経を使うようになります。<br />
<br />
<b> あたしも</b><br />
<b> みんなと同じ</b><br />
<b> 女の子になるんだ</b><br />
<b><br /></b>
<b> 必死だった</b><br />
<b><br /></b>
<b> 家を一歩出ると</b><br />
<b> すべてに気が抜けない</b><br />
<b> その代わり</b><br />
<b> 家の中は</b><br />
<b> いつもやりっぱなしで</b><br />
<b> 散らかした</b><br />
<b><br /></b>
<b> 外での自分は</b><br />
<b> ボロを出さないように</b><br />
<b> とりつくろった</b><br />
<b> ギリギリいっぱいの自分</b><br />
<br />
<br />
のどかの心のなかの、そんな悲痛な思いに、周囲の誰も気づいてくれなかったのでしょう。<br />
<br />
その後、就職を機に実家を離れますが、生活面での家族のフォローのない暮らしは、のどかにとって大きな試練となります。<br />
<br />
<br />
<br />
<h3>
職場での破綻</h3>
<br />
<br />
会社で働くようになったのどかは、能力的に劣っていると思われないために、プライベートを犠牲にして仕事に取り組むようになります。<br />
<br />
けれどもちょっとした周囲の音にも集中力を妨げられてしまうのどかにとって、大勢の人が働く会社の環境そのものが、大変なストレスでした。<br />
<br />
また、一つのことに集中すると、それ以外のこと手が回らなくなるので、他の社員よりも早く出勤したり残業したりして、仕事の遅れをカバーしなくてはなりません。<br />
<br />
心身共に全力を使い果たして、なんとか「普通」を維持しようとする日々が続きます。<br />
当然のことながら、家に帰っても家事などする余裕はなく、一人暮らしの部屋は完全な汚屋敷と化していきます。<br />
<br />
そんな彼女ですが、人が思いつかないような斬新なアイデアをたくさん出すことができるという、すてきな「ひらめき」の才能があり、そのことが次第に職場で認められていくようになります。<br />
<br />
それは、のどかのような発達の問題を持っている人に多く見られる特徴でもあるのですが、この時点では、彼女はそんな自分の特性に気づくことができません。また、日々のノルマに追われる暮らしでは、「ひらめき」をきちんと形にする余裕もありませんでした。<br />
<br />
<br />
そのうちに、一生懸命働くのどかの姿に好感を抱いた課長に交際を申し込まれて、恋人としてつきあうことになります。<br />
<br />
けれども課長は、のどかが必死で取り繕っている表面的な姿、つまり「よく出来る女子社員としての、のどか」しか見ていない人でした。それに加えて、彼はだらしないことを人一倍嫌い、物事をきちんとしておかないと気が済まないタイプだったため、のどかはますます自分の抱える問題を隠すしかありませんでした。<br />
<br />
<br />
精神的に追い込まれながら、無理を続けたのどかは、とうとう過労で倒れてしまいます。<br />
<br />
のどかを心配してアパートを訪れた課長は、すさまじい汚屋敷の光景を目撃して、絶句。<br />
<br />
翌日、課長にどう思われているのかが気になって集中力を欠いたのどかは、仕事で大きなミスを出します。そんなのどかに向かって、<br />
<br />
<b>「だらしない暮らしをしているからだ」</b><br />
<br />
と非難し、一方的に責め立る課長。<br />
<br />
そんなとき、以前からのどかの様子を見て感じるところのあったらしい女性部長が、ADD(注意欠陥障害)の可能性があるのではないか教えてくれます。<br />
<br />
部長自身、家事が出来ないことで離婚し、ADDの診断を受けて投薬治療を受けている人だったのです。<br />
<br />
部長の言葉をきっかけに、のどかは生まれてはじめて、自分を混乱に陥れている状況が、努力不足のせいなどではないことを知るのでした。<br />
<br />
<br />
その後、のどかは理解のなかった課長と別れて、等身大の自分を知った上でサポートしてくれた同僚の男性と結婚し、幸せになります。<br />
<br />
<br />
<br />
本作品の医療監修をされたという、櫻井公子医師のメッセージが末尾にありました。<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
<b>すべてのADD、ADHDをもつ方に、この物語の主人公のような症状の「すべて」があるわけではありません。さまざまなタイプの方がおられます。しかし、自分の得手不得手、特徴などを理解して、工夫したりサポートを得たりすることで、この主人公のように、自分のよいところを活かして楽しく暮らせるようになる方も多いのです。</b></blockquote>
<br />
<br />
その通りだと思います。<br />
<br />
櫻井公子(桜井公子)医師には、<br />
<br />
<b> お片づけセラピー </b>(宝島社文庫)<br />
<b> どうして私、片づけられないの?</b><br />
<b> ―毎日が気持ちいい!「ADHDハッピーマニュアル」 </b>(大和出版)<br />
<br />
などの親しみやすい著作があり、私も取り寄せて読んだものでした。<br />
<br />
また「新宿成人ADDセンター・さくらいクリニック」の院長としても知られていましたが、残念なことに。クリニックは2014年に閉院したとのことです。その後の情報は現時点では不明のようです。<br />
<br />
<br />
<h3>
現実世界の「桜坂のどか」</h3>
<br />
<br />
私(ブログ主)自身、主人公の桜坂のどかと同じ種類の問題を持っている人間ですので、マンガで描かれている出来事のいくつかが、かつての自分の体験に重なり、心の痛みを覚えました。<br />
<br />
<br />
管理できない私物。<br />
頻繁な忘れ物と、遅刻。<br />
段取りを勘違いすることによる失敗。<br />
<br />
そして、どうしても片づけられない部屋。<br />
<br />
一晩で文庫本10冊を読むことのできる集中力があるのに、興味のない話は2分と聞いていられません。<br />
<br />
学校の授業は、地獄のように退屈で、苦痛でした。<br />
教科書もノートも落書きだらけ。落書きしないときは、こっそり本を読んでいました。<br />
いま思うと、人の話を聞くのが苦手だったのでしょう。<br />
<br />
とにかく叱られてばかりの子供時代でしたが、のどかと同じように、学校の成績は悪くなかったので、そこに自分の存在意義を求めるようになっていきました。部屋が汚くても、女の子らしくなくても、他にできることがあるからいいのだと、自分にOKを出していたわけですが、ADHD、大人の発達障害などという概念が存在しない時代でしたから、「片づけられない、きちんとしていない女の子」への世間の風当たりは、相当にきついものがありました。<br />
<br />
大学に入ってからは、一コマ90分の講義に耐えられず、しょっちゅうサボって単位を落としまくりました。<br />
<br />
働くようになると、のどか同様、それだけで精一杯で、家事はほとんどできず、自室の散らかり具合は筆舌に尽くしがたいものがありました。電気代や電話代を支払い忘れて、よく止められていました。<br />
<br />
そうかと思うと、自分の好きなことには熱中して時間を忘れ、寝食も忘れ、余計に生活が崩れていくという悪循環…。<br />
<br />
<br />
思いつきやアイデアが頻繁に浮かぶのに、それをちゃんと形に出来ないところも、のどかと私の大きな共通点です。<br />
<br />
マンガの中では、のどかがせっかく思いついて作った企画書が、自室のゴミのなかに埋もれてしまって、本人すらその存在を忘れているというエピソードがありました。<br />
<br />
思いついたときは夢中になっているのに、時間がたって鮮度が落ちたり、他のことしなくてはならなくなると、意識の焦点があたらなくなっていくのです。<br />
<br />
ここのブログだって、当初の計画では今頃とっくに記事数が200を超えているはずなのに、存在が頭から雲隠れしてしまう時期がちょくちょくあるために、いまだに40記事しかないという有様(2018年3月29日現在)。<br />
<br />
<br />
自分の問題が大人の発達障害に由来するものだと気づいてからは、桜井公子氏の著作も含めて、関連書籍を読みあさりました。<br />
<br />
自分の特性は理解できましたが、現実的な問題は、それだけでは解決しません。<br />
<br />
今現在も、「どうやったらこの部屋を片づけることができるのだろうか」と考えながら、主婦生活を送っています。<br />
<br />
<br />
<br />
<h3>
ADD・ADHD</h3>
<br />
マンガ「片づけられない私をみつめて」で、ADD(Attentin Deficit Disorder with and without Hyperactivity 注意欠陥障害)として取り上げられている症状は、その後、「不注意優勢型ADHD」として診断されるようになったそうです。<br />
<br />
<br />
<a href="https://h-navi.jp/column/article/35026504">「発達ナビ」</a>というサイトで、ADHDの不注意優勢型として診断される場合に見られる、具体的な症状が箇条書きにされていました。<br />
<br />
<br />
<i><b>ADD(注意欠陥障害)とは?症状やADHDとの関係性、</b></i><br />
<i><b>ADDの特性ならではの治療法をご紹介します!(発達ナビ)</b></i><br />
<br />
<a href="https://h-navi.jp/column/article/35026504">https://h-navi.jp/column/article/35026504</a><br />
<br />
<br />
■不注意<br />
<br />
・よく物を失くす<br />
・整理整頓ができない<br />
・周囲に気が散って集中できない<br />
・細かいところまで注意が向かない<br />
・いつもボーっとしている<br />
<br />
■衝動性<br />
・思いついたことをすぐ話してしまう<br />
・順番を待つことが苦手<br />
・優先順位を付けることが苦手<br />
・すぐにかっとなってしまう<br />
<br />
<br />
ちなみに私(ブログ主)は、上記の特徴のうちの六つを持っています。(´・ω・`)<br />
<br />
<br />
現在では、学校現場でADHDについて、だいぶ周知されるようになってきているため、のどかや私のような特徴を持つ児童生徒が、無理解な教師に一方的に罵られるというようなことは、昔よりは少なくなっていると思います。<br />
<br />
未診断のまま問題を抱えている大人についても、もっと支援を受けやすい状況になってくれればと、願わずにはいられません。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<iframe frameborder="0" marginheight="0" marginwidth="0" scrolling="no" src="//rcm-fe.amazon-adsystem.com/e/cm?lt1=_blank&bc1=000000&IS2=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=ninjinjuice-22&o=9&p=8&l=as4&m=amazon&f=ifr&ref=as_ss_li_til&asins=B078NDW8XW&linkId=a9d7445943fd0b17f8101ebd31acf34a" style="height: 240px; width: 120px;"></iframe>
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
※発達障害についての本を取り上げた他の記事<br />
<br />
<a href="http://%E6%B2%96%E7%94%B0%20%C3%97%E8%8F%AF%E3%83%BB%E5%90%9B%20%E5%BD%B1%E8%8D%89%20%E3%80%8C%E3%81%AF%E3%81%96%E3%81%BE%E3%81%AE%E3%82%B3%E3%83%89%E3%83%A2%E3%80%8D%20%28%E5%BA%83%E6%B1%8E%E6%80%A7%E7%99%BA%E9%81%94%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E3%83%BB%E7%9D%A1%E7%9C%A0%E7%9B%B8%E9%81%85%E5%BB%B6%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4%29/">沖田 ×華・君 影草 「はざまのコドモ」 (広汎性発達障害・睡眠相遅延症候群)</a><br />
<br />
<br />Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4305665395721681562.post-54315274540380762922018-03-28T17:31:00.001+09:002019-11-07T16:34:09.427+09:00小説「君色ドラマチック」(先天色覚異常)<br />
<b>真彩-mahya- (著) <span style="font-size: large;">「君色ドラマチック」</span> </b><br />
<b>スターツ出版 </b><br />
<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="margin-left: auto; margin-right: auto; text-align: center;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEidLWJ1W5Jm54-OkVu5SdqUdyMS_BkK9xstOQtdE_JZgq0-t3UsrIUvsZPMqO6D4vYmnZrflrji5SKDYt1mb7LYmb282kZ1qY0NhMyGB4k56r7HN4wR9lOJzbZesNbjY0iCRjTby0PMT8pg/s1600/%25E5%2590%259B%25E8%2589%25B2%25E3%2583%2589%25E3%2583%25A9%25E3%2583%259E%25E3%2583%2581%25E3%2583%2583%25E3%2582%25AF.jpg" imageanchor="1" style="margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="320" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEidLWJ1W5Jm54-OkVu5SdqUdyMS_BkK9xstOQtdE_JZgq0-t3UsrIUvsZPMqO6D4vYmnZrflrji5SKDYt1mb7LYmb282kZ1qY0NhMyGB4k56r7HN4wR9lOJzbZesNbjY0iCRjTby0PMT8pg/s320/%25E5%2590%259B%25E8%2589%25B2%25E3%2583%2589%25E3%2583%25A9%25E3%2583%259E%25E3%2583%2581%25E3%2583%2583%25E3%2582%25AF.jpg" width="219" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><a href="https://amzn.to/2oWrQ6X" target="_blank">Amazonで見る</a></td></tr>
</tbody></table>
<br />
<br />
<br />
<br />
色覚異常を持つ女性が、アパレルメーカーでパタンナー(デザイン画をもとに型紙を作る仕事をする人)として働くうちに、恋愛と職業人としての自立の問題に直面する物語です。<br />
<br />
主人公の杉原慧は、自分の仕事にとって大きなハンディとなる、色覚の問題を抱えています。<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
<br />
<i>そう、私は生まれつき色覚に異常がある。赤い色を感じる錐体が欠けていて、青はかろうじてわかるけれど、あとはピンクなのか黄色なのか、赤なのか緑なのか、さっぱりわからない。色の濃淡はわかるけれど、色味がわからないのだ。だから、肉が生の状態の赤色から、火が通ってピンクから茶色っぽくなっていくのもわからない。 </i>(「君色ドラマチック」から引用)</blockquote>
<br />
<blockquote class="tr_bq">
<i>感覚のテストがない推薦入試で入学した、専門学校の服飾学科。なんとかかんとか二年に進級した私に、最大の試練が訪れた。卒業制作だ。平均四人ほどでチームを組み、デザインから縫製まで、すべてをこなして一着の作品を作る。<br />……のだけど、私と組んでくれる人は誰もいなかった。学校に通ううち、友達もできたはずだったんだけど……気づけばみんなさっさとグループを作っていて、私はつまはじきにされていた。しょうがないか。色がわからない私を入れたら、気を遣うし、戦力として微妙だしね。服を作ることにすべての情熱と命を懸けているような同級生たちに、私の存在は邪魔だったんだろう。</i></blockquote>
<blockquote class="tr_bq">
(「君色ドラマチック」から引用)</blockquote>
<br />
<br />
<br />
それでも慧は、色覚に左右されないパターンの技術を懸命に磨いて、才能を開花させていました。<br />
<br />
就職でも苦戦しますが、専門学校の卒業制作でチームを組んだ結城のツテで、アパレルメーカーに採用され、事実上、結城専属のパタンナーとして働くようになります。<br />
<br />
デザイナーとしての才能豊かな結城は、慧の恋人でもあるのですが、とても女性にモテる男性なので、職場の女性たちとのいざこざを避けるために、二人の関係は秘密にされています。<br />
<br />
恋人としての結城との関係は淡泊で、二人でいても仕事の話ばかりしている日々ですが、慧はそれで充実していましたし、ずっとそんな日が続くと思っていたのですが…<br />
<br />
あるとき、結城のほうから、同じ会社に所属する、櫻井というデザイナーと組むようにと勧められます。とまどいながらも櫻井の仕事を受けた慧は、結城が秘密裏に、別の女性パタンナーと仕事をしていることを知り、ショックを受けます。<br />
<br />
<br />
一方、櫻井は、慧のパタンナーとしての能力の高さを知ると、自分の独立に合わせて慧を会社から引き抜こうとしてきます。<br />
<br />
その際に櫻井は、慧が結城に依存した状態であることを指摘し、そままでは慧の未来は暗いと言い切ります。<br />
<br />
<br />
さらに、結城が慧に黙って仕事を依頼していたバタンナーの、森という女性が、わざわざ慧を呼び出して、色覚異常のパタンナーがデザイナーを利することはないという暴言を吐きながら、独立したがっている結城の足を引っ張るのをやめるようにと忠告しにきます。<br />
<br />
「色弱のあなたに、これから結城さんがステップアップしていくサポートが、じゅうぶんにできますか? いくらパターンを作るのが上手でも、それだけじゃ」<br />
<br />
<br />
猛然とマウンティングしてくる森嬢の意図は、慧を蹴落として、仕事面でも恋愛面でも自分が結城のそばに立とうとするものだったのかもしれませんが、依存関係への負い目があった慧にとっては、結城との決別に踏み出すのに十分なきっかけとなりました。<br />
<br />
<br />
慧は、会社から独立する櫻井の引き抜きに応じることを決めて、結城には一切相談せずに、退職届を提出しますが……<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
詳細は省略しますが、多少の修羅場を経て、結局、結城と慧は、相互依存の狭い世界にとらわれているのではなく、一緒にいることで豊かな色を創造していくことのできる生産的な関係である、ということでハッピーエンドとなります。<br />
<br />
<br />
<br />
<h2>
先天色覚異常</h2>
<br />
<a href="http://www.nichigan.or.jp/index.jsp">日本眼科学会</a>のホームページの「先天色覚異常」のページに、わかりやすい説明があります。<br />
<br />
<a href="http://www.nichigan.or.jp/public/disease/hoka_senten.jsp">http://www.nichigan.or.jp/public/disease/hoka_senten.jsp</a><br />
<br />
<br />
小学校で義務づけられていた色覚検査が2003年度から廃止されていること、ごく一部の職業をのぞいて、就業時に色覚について問われるケースがほとんどなくなっていることなど、広く知られるべきだろうと思いました。<br />
<br />
このページの最後の「ご両親へ」という文章を引用します。<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
<b> 我が子が生涯幸せであれと願い、子孫にわずかな弱点も伝えまいとするのは人間の本能です。しかし、人間にはさまざまな能力と数々の短所があります。また、遺伝が関与する疾患や障害は数多く、誰しも何らかの遺伝子異常を持っているものです。<br /> 色覚異常は場合により多少問題を生じることがあっても人生を脅かすほどではなく、他の能力や遺伝的障害に比べ損失はわずかです。また、遺伝というものは誰のせいでもありません。<br /> 一部に残る色覚異常を嫌う風習は知識の不足によるところが大きく、色覚異常の遺伝をめぐる問題は、社会全体が色覚異常の色の見え方を正しく理解すればほぼ解決します。社会のつまらない誤解に悩むことのない、もっと楽しむことができる世の中にしたいものです。</b></blockquote>
<br />
<br />
<br />
この文章は、先天性の色覚異常に対する差別意識が、他の多くの障害や慢性疾患に対する差別同様、まだ社会のなかに残存していることを憂え、そのようなことがなくなるようにと願ってために書かれたものだと思われます。<br />
<br />
<br />
<br />
<b>先天色覚異常、いじめ・差別を受けるなら…教育の敗北 </b>(YOMIURI ONLINE)<br />
<a href="https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20160415-OYTET50017/">https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20160415-OYTET50017/</a><br />
<br />
こちらの記事では、作曲家の團伊玖磨氏が先天色覚異常であり、そのために教育の場での差別に憤ってきたことが書かれ、<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
色覚異常者は、色覚正常者とは少しだけ異なった特性を持った色感覚を持っているという考え方を学び、周囲の少しの配慮、思いやりをそこに導入させることこそ、学校教育の重要課題なのではないでしょうか。</blockquote>
<div>
<br /></div>
と結ばれています。ほんとうに、その通りだと思います。<br />
<br />
なお、記事の執筆者は、<a href="https://www.inouye-eye.or.jp/hospital/doctor/">井上眼科医院</a>名誉院長の若倉雅登氏。専門は、神経眼科、心療眼科、とのこと。上の記事を含む、<a href="https://yomidr.yomiuri.co.jp/column/wakakura-masato/">「心療眼科医・若倉雅登のひとりごと」</a>というコラムのシリーズをネットで読むことができます。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="margin-left: auto; margin-right: auto; text-align: center;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://www.amazon.co.jp/%E5%90%9B%E8%89%B2%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%9E%E3%83%81%E3%83%83%E3%82%AF-%E3%83%9E%E3%82%AB%E3%83%AD%E3%83%B3%E6%96%87%E5%BA%AB-%E7%9C%9F%E5%BD%A9-mahya-ebook/dp/B01BLCIN9A/ref=as_li_ss_il?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&keywords=%E5%90%9B%E8%89%B2%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%9E%E3%83%81%E3%83%83%E3%82%AF&qid=1573111895&sr=8-1&linkCode=li2&tag=ninjinjuice-22&linkId=76ce642142f0681b4a32b30f42299eaf&language=ja_JP" style="margin-left: auto; margin-right: auto;" target="_blank"><img border="0" src="//ws-fe.amazon-adsystem.com/widgets/q?_encoding=UTF8&ASIN=B01BLCIN9A&Format=_SL160_&ID=AsinImage&MarketPlace=JP&ServiceVersion=20070822&WS=1&tag=ninjinjuice-22&language=ja_JP" /></a></td></tr>
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</tbody></table>
<div style="text-align: center;">
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</div>
<div style="text-align: center;">
<br /></div>
<div style="text-align: center;">
<br /></div>
<div style="text-align: center;">
<br /></div>
<div style="text-align: center;">
<br /></div>
<div style="text-align: center;">
<br /></div>
<div style="text-align: center;">
<br /></div>
<div style="text-align: center;">
<br /></div>
Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4305665395721681562.post-37566493377104715452018-02-17T20:41:00.003+09:002019-01-10T10:09:48.645+09:00映画「路上のソリスト」(統合失調症)<br />
<h2>
「路上のソリスト」 (原題 SOLOIST)</h2>
<br />
監督: ジョー・ライト<br />
出演: ジェイミー・フォックス, ロバート・ダウニーJr., キャサリン・キーナー<br />
<br />
<div style="text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjtMvBsVI0nexds-mw1XggXuKDOj8aabTCdmPfR7l2IeS2MSH1mbkxZ1EbHiY6z7IbNmhMtSixMkQmbHj28U-uCpPUvTdk6y2PPS7ruydWbbp7rKyq_OJWYF9iIgMjUZvavdWeiiE4ja4k0/s1600/519kxNMVB-L._SY445_.jpg" imageanchor="1"><img border="0" height="320" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjtMvBsVI0nexds-mw1XggXuKDOj8aabTCdmPfR7l2IeS2MSH1mbkxZ1EbHiY6z7IbNmhMtSixMkQmbHj28U-uCpPUvTdk6y2PPS7ruydWbbp7rKyq_OJWYF9iIgMjUZvavdWeiiE4ja4k0/s320/519kxNMVB-L._SY445_.jpg" width="225" /></a></div>
<br />
<br />
<br />
以下の記事には、いわゆるネタバレ要素が盛大にありますので、映画をまだ見ておられない方は、ご注意ください。m(. .)m<br />
<br />
<br />
……<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<br /></div>
<br />
ロサンゼルス在住の新聞記者、スチーブ・ロペスは、ある日、自転車で勢いよく転んで病院に担ぎ込まれます。幸い後遺症の残るような怪我はしなかったけれど、顔からアスファルトに突っ込んだため、悲惨な見た目になってしまいます。<br />
<br />
傷だらけの顔で出勤すると、35歳以下のアメリカ人で新聞を読むのは40パーセントだけだという、新聞社にとってゆゆしき数字が話題になっていました。アメリカはイラクと戦争中であり、ロサンゼルスには路上生活者があふれ、貧困や犯罪など、目を背けるべきではない問題がいくらでもあるのに、売れるのはノーパン写真ばかりだと。<br />
<br />
<br />
少し顔の傷がマシになったころ、ロペスは、公園のベートーヴェン像の前で、一心不乱に弦が二本しかないバイオリンを美しく奏でる路上生活者、ナサニエル・エアーズと出会います。(たぶんPershing Square公園だと思われます)<br />
<br />
<br />
ロペスはナサニエルに話しかけますが、相互通行の会話はなかなか成立しません。<br />
とりとめもなく連想され続いていく単語、情景、感情…<br />
<br />
その中に、ナサニエルが在籍していたという、名門ジュリアード音楽院の名前が出てきます。ロペスは学院に問い合わせ、ナサニエルが確かに在籍していたものの、何らかの事情で卒業していないことを知ります。<br />
<br />
<br />
ロペスはナサニエルとの交流を続けながら、彼について調べ、「西の視点」という人気コラムに彼の記事を書き始めます。<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<iframe allowfullscreen="" class="YOUTUBE-iframe-video" data-thumbnail-src="https://i.ytimg.com/vi/CgkJJstKTZE/0.jpg" frameborder="0" height="266" src="https://www.youtube.com/embed/CgkJJstKTZE?feature=player_embedded" width="320"></iframe></div>
<br />
<br />
<br />
その過程で、ナサニエルの過去と、現在の問題が明らかになってきます。<br />
<br />
十代前半でチェロを学びはじめたナサニエルは、あっというまに天才性を発揮し、指導してくれた先生や家族の支援を受けて、音楽院に進学します。<br />
<br />
けれども、一人暮らしを始めた頃から、ナサニエルは、自分だけに聞こえる奇妙な声に悩まされはじめます。<br />
<br />
疑念や不信を強くかき立てる、その声のために、ナサニエルは学びの場にいられなくなり、自宅に戻って姉の世話になるものの、その姉にすら命を狙われているという妄想に取り憑かれ、家を飛び出してしまいます。それが彼の路上生活のはじまりだったのでした。<br />
<br />
<br />
事情を知ったロペスは、ナサニエルには定住する家と、精神病の治療が必要であると考え、その手助けをしようと奔走します。また、ロペスのコラムでナサニエルのことを知った読者のなかから、ナサニエルの才能を世に出そうと考える音楽家や篤志家が現れ、ナサニエルの支援を買って出るようになります。<br />
<br />
<br />
ナサニエルは、生活が大きく変化することを恐れ、支援の手をことごとく払いのけようとしますが、ロペスは粘り強く働きかけ、なんとかナサニエルをアパートに住まわせようとします。ナサニエルにもその思いは通じて、自らの音楽のためにも、少しづつ受け入れようと努力します。<br />
<br />
<br />
けれども、二人の関係は不均衡で不自然なものであり、そこからくる歪みが、やがて大きな破綻をもたらすことになります。<br />
<br />
<br />
自らの正義感と同情心と、記者としての職業意識から、精神病者としてのナサニエルの人生に強引に介入し、「安全」で「安定」したものに変えようとするけれども、深い信頼関係を築く勇気を持てないロペス。<br />
<br />
<br />
そのロペスを神に等しい存在として慕いながらも、ロペスの思惑が、必ずしもナサニアル自身の、人としての尊厳に敬意を払ったものではないらしいことや、ロペスが自分に構う理由が心からの友情や愛情ではないことを見抜いているナサニエル。<br />
<br />
<br />
ナサニエルは、ロペスが確認を求めてきた書類のなかに、自分を「統合失調患者」とする文章があることに気づき、ロペスに対して激しい怒りと殺意とを見せます。<br />
<br />
<br />
暴力を振るわれて命の危険を感じたロペスは、ナサニエルの元から逃げ出しますが、同時に自分のなかにある、根深い欺瞞と弱さに気づかされることになります。<br />
<br />
精神病を患った天才を助けることも、ロサンゼルスという街の抱える病理を、自らの記事の力で「治す」ことも、ロペスにはできませんでした。けれども、居て欲しいときにそばにいる友人になることだけは、自分にもできると気づいたのです。<br />
<br />
<br />
ナサニエルも、自分を助けようとしていたロペスに暴力をふるってしまったことを深く反省し、そうした自分を変えたいという気持ちが芽生えたのかもしれません。<br />
<br />
<br />
再会した二人は、互いに信頼できる友人となっていました。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<h3>
統合失調症と人生</h3>
<br />
<br />
<br />
映画のなかで、ナサニエル・エアーズが統合失調症であることが示唆されています。<br />
<br />
けれども、彼は自分がその病気であることを認めず、治療も拒否します。<br />
<br />
また、ロサンゼルスの路上生活者のなかには、ナサニエルと同じように統合失調症と思われる精神病を患っているらしき人が多数いるようなのに、彼らを支援するセンターの職員は、治療や投薬には難色を示します。職員は経験的に、投薬治療が彼らの人生を必ずしも好転させないと知っているのでした。<br />
<br />
<br />
治療できるのにしないのは不合理であると受け止められるかもしれませんが、現実にこの病気と関わったことのある方は、こうした経緯に納得する部分があるのではないかと思います。<br />
<br />
<br />
統合失調症にに限らず、長い歳月をかけて、人格や人生そのものに根深い影響を与える病気は、それを治療し、完治させただけでは、その人の人生の問題を解決したことにはならない場合があります。<br />
<br />
だからといって、治療をしないことが正解というわけでもありません。<br />
<br />
病気そのものを治療するだけでなく、その人の人生そのものを再生、再構築し、納得のいくものにしていく必要があるのだろうと思います。ただ、それはほんとうに難しいことでもあります。その難しさの一端が、「路上のソリスト」でも描かれていました。<br />
<br />
<br />
この映画は実話に基づいたものだそうで、現実のエアーズ氏も、やはり治療は受けなかったようです。<br />
<br />
YouTubeで「Nathaniel Ayers」の名前で検索すると、映画ではない、エアーズ氏本人の演奏の動画をいくつも見ることができます。エアーズ氏は、バイオリンとチェロだけでなく、トランペットも演奏しています。自由奔放なスタイルと、奥深い音色は、とても魅力的です。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<iframe allowfullscreen="" class="YOUTUBE-iframe-video" data-thumbnail-src="https://i.ytimg.com/vi/Kjr82pzrVSY/0.jpg" frameborder="0" height="266" src="https://www.youtube.com/embed/Kjr82pzrVSY?feature=player_embedded" width="320"></iframe></div>
<div style="text-align: center;">
Mr. Lopez Meets Mr. Ayers</div>
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<div style="text-align: center;">
<iframe frameborder="0" marginheight="0" marginwidth="0" scrolling="no" src="//rcm-fe.amazon-adsystem.com/e/cm?lt1=_blank&bc1=000000&IS2=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=ninjinjuice-22&o=9&p=8&l=as4&m=amazon&f=ifr&ref=as_ss_li_til&asins=B00T73QC94&linkId=876714a587fa4bc61e9591d6a9270131" style="height: 240px; width: 120px;"></iframe>
</div>
<br />Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4305665395721681562.post-11140664668208927832018-02-16T14:59:00.002+09:002018-02-16T14:59:41.422+09:00「猫の国語辞典」(ハンセン病)<br />
<h2>
<b>佛渕健悟・木暮正子編「猫の国語辞典」小学館</b></h2>
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="margin-left: auto; margin-right: auto; text-align: center;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjaQSX4bz01ItYQnaRbNrMXVNC4QFGMR1pZiqtxWLmQo5ZSbQ6wfSjTLphfDxsGvWsmxLg2wfh0urGwIwnd6S3u9zac4r1bWGNIrWN559OLDgoI2AXTp5spuo5vN8KQzJLwlGKN0iCoDds9/s1600/%25E7%258C%25AB%25E3%2581%25AE%25E5%259B%25BD%25E8%25AA%259E%25E8%25BE%259E%25E5%2585%25B8.jpg" imageanchor="1" style="margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="320" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjaQSX4bz01ItYQnaRbNrMXVNC4QFGMR1pZiqtxWLmQo5ZSbQ6wfSjTLphfDxsGvWsmxLg2wfh0urGwIwnd6S3u9zac4r1bWGNIrWN559OLDgoI2AXTp5spuo5vN8KQzJLwlGKN0iCoDds9/s320/%25E7%258C%25AB%25E3%2581%25AE%25E5%259B%25BD%25E8%25AA%259E%25E8%25BE%259E%25E5%2585%25B8.jpg" width="221" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><a href="http://amzn.to/2o4tY8S">Amazon</a></td></tr>
</tbody></table>
<div style="text-align: center;">
<br /></div>
<br />
<br />
<br />
動物を詠んだ短歌や俳句がすきなので、本書を取り寄せて眺めていたら、句歌の下に「ハ」という記号のついたものがいくつもあるのに気づきました。<br />
<br />
<br />
巻頭の凡例を見ると、「ハ」は「ハンセン病文学全集」を出典とする作品ということでした。<br />
<br />
<br />
以下に、「ハ」のマークのついた句歌を、抜き出してみました。<br />
(一通り確認しましたが、抜けがあるかもしれません)<br />
<br />
<br />
------------------------------------- <br />
<b><br /></b>
<b>肌柔き仔猫を日日に愛しめり盲ひゆく今の独り静けく 辻瀬則世</b><br />
<b><br /></b>
<b><br /></b>
<b>犬猫の夜見ゆる眼を涙してうらやむ共を慰めがたき 鈴木数吉</b><br />
<b><br /></b>
<b><br /></b>
<b>垣ばら(薔薇)の真赤に咲ける花の下身籠る猫の腹が土をする 笠居誠一</b><br />
<b><br /></b>
<b><br /></b>
<b>わが座れば、なき足の上の衣のうへに来てさみしく猫は眼をつぶるなる 尾山篤二郎</b><br />
<b><br /></b>
<b><br /></b>
<b>陽炎や障子に映る親子猫 近藤緑春</b><br />
<b><br /></b>
<b><br /></b>
<b>猫去りて矢と降り来たる寒雀 辻長風</b><br />
<b><br /></b>
<b><br /></b>
<b>玄関を出る恋猫を見とどけぬ 辻長風 </b><br />
<b><br /></b>
<b><br /></b>
<b>鈴つけし猫従いてくる萩の道 水野民子</b><br />
<b><br /></b>
<b><br /></b>
<b>猫の子の鼻に消えたり石鹸玉(しゃぼんだま) 一松</b><br />
<b><br /></b>
<b><br /></b>
<b>日向なる猫丸々と牡丹の芽 小見思案</b><br />
<b><br /></b>
<b><br /></b>
<b>猫の子に飯を冷やしてあたえけり 中野三王子</b><br />
<b><br /></b>
<b><br /></b>
<b>猫抱いて胸を病む娘や秋の風 栗原春月</b><br />
<b><br /></b>
<b><br /></b>
<b>芭蕉忌の猫抱いてゐる盲かな 藤本銭荷 </b><br />
<b>(ハンセン病で視力を失った自身のこと)</b><br />
<b><br /></b>
<b><br /></b>
<b>野良猫も生きねばならぬ軒に居る 伊藤松洞</b><br />
<b><br /></b>
<b><br /></b>
<b>毛がぬけて嫌われてをり孕み猫 早川兎月</b><br />
<b><br /></b>
<b><br /></b>
<b>盲人の膝に眠れる子猫かな 太田あさし </b><br />
<b>(盲人=ハンセン病で視力を失った自身)</b><br />
<b><br /></b>
<b><br /></b>
<b>春近き日向に丸き仔猫かな 武田牧泉</b><br />
<b><br /></b>
<b><br /></b>
<b>夫婦猫夜なべの姿の傍らに 中野きんし</b><br />
<b><br /></b>
<b><br /></b>
<br />
<br />
<br />
------------------------------------- <br />
<br />
<br />
一つ一つの短歌や俳句のなかの、猫に向けられる思いや視線の背景に、詠まれた方々の深刻な病状や、重苦しい境遇があるのが感じられます。<br />
<br />
<br />
視力を失って、抱いた猫の体のぬくもりを静かに感じている方々。<br />
<br />
夫婦の猫や、恋する猫、妊娠した猫を詠んでいる方々は、療育園の方針で、結婚や出産を禁じられていたのかもしれません。<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="margin-left: auto; margin-right: auto; text-align: center;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgVgkv_PlYlAfxaXAZ7TjY8uAfDHgsofijDWOGXm1h3FZracm_AA5NGNeB7Eue246I8dYSPWvNbjx4vYJTqOgQHPTM-c5PvBYMbhgWrNKrMqA-fNt9z5CfqUyUUNTtN-539r_5cLweRomuL/s1600/%25E3%2583%258F%25E3%2583%25B3%25E3%2582%25BB%25E3%2583%25B3%25E7%2597%2585%25E6%2596%2587%25E5%25AD%25A6%25E5%2585%25A8%25E9%259B%25868.jpg" imageanchor="1" style="margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="320" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgVgkv_PlYlAfxaXAZ7TjY8uAfDHgsofijDWOGXm1h3FZracm_AA5NGNeB7Eue246I8dYSPWvNbjx4vYJTqOgQHPTM-c5PvBYMbhgWrNKrMqA-fNt9z5CfqUyUUNTtN-539r_5cLweRomuL/s320/%25E3%2583%258F%25E3%2583%25B3%25E3%2582%25BB%25E3%2583%25B3%25E7%2597%2585%25E6%2596%2587%25E5%25AD%25A6%25E5%2585%25A8%25E9%259B%25868.jpg" width="218" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><a href="http://amzn.to/2C2AxSc">Amazon</a></td></tr>
</tbody></table>
<div style="text-align: center;">
<br /></div>
<br />
<br />
「ハンセン病文学全集」のプレスリリースと、ネットパンフレットを掲載しているサイトがありました。<br />
<br />
<br />
プレスリリース<br />
<a href="https://www.atpress.ne.jp/news/483">https://www.atpress.ne.jp/news/483</a><br />
<br />
ネットパンフレット<br />
<a href="http://www.libro-koseisha.co.jp/TOP-zenshu-pan/PANHU-MAIN.html">http://www.libro-koseisha.co.jp/TOP-zenshu-pan/PANHU-MAIN.html</a><br />
<br />
<br />
詩歌の巻は、昨年(2017年)亡くなった大岡信氏が責任編集者となっています。<br />
<br />
全十巻は第一期というのだから、二期以降も刊行されるのでしょう。<br />
<br />
<br />
「猫の国語辞典」の「ハ」の作品に気づかなければ、こうした全集があることも知らないままでした。<br />
<br />
<br />
差別と隔離が産んだ文学というふうに捉えるならば、本来なら、あってはならない作品集であると言えます。<br />
<br />
けれども、現実にそれは起きてしまったのであって、そこで生きてきた方々が残した作品が埋もれて消えてしまうことも、あってはならないことだと思います。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<h2>
ハンセン病</h2>
<br />
<br />
日本では、いまではとてもまれな病気になっているけれど、全世界では25万人ほどの患者が登録されているといいます。<br />
<br />
歴史的に差別の原因となってきた疾患ですが、現在では適切な治療を受ければ、重い後遺症を残さず、感染源となることもない病気であることは、広く知られるべきだと思います。<br />
<br />
<a href="https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%82%BB%E3%83%B3%E7%97%85%E5%95%8F%E9%A1%8C">ウィキペディア 日本のハンセン病問題</a><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<iframe frameborder="0" marginheight="0" marginwidth="0" scrolling="no" src="//rcm-fe.amazon-adsystem.com/e/cm?lt1=_blank&bc1=000000&IS2=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=ninjinjuice-22&o=9&p=8&l=as4&m=amazon&f=ifr&ref=as_ss_li_til&asins=4385360677&linkId=ef4c7f2ce82b4fc318bbcb16fb9a2183" style="height: 240px; width: 120px;"></iframe>
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4305665395721681562.post-41710091094611601762018-01-13T18:32:00.003+09:002019-01-10T10:10:55.160+09:00岡田がる「難病患者になりました」(多発性硬化症)<h2>
多発性硬化症当事者による漫画</h2>
<br />
<br />
<b>岡田がる</b><br />
<b>「難病患者になりました 漫画家夫婦のタハツセーコーカショーの日々」</b><br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="margin-left: auto; margin-right: auto; text-align: center;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh4i0b9Ud1D-sVt0LB2Uk2OFduUnDivdcK7eO_1L3jdZSpNoDACqKuA0lwi7hTHp_LD7yuRaaB2kRMYRQG8bKZcEYcieia61XmcqzQo4gTx_BqItyxI4Gy7hu9jgc6g7kPk1CBrzj_UicdL/s1600/51YkGAfNLVL._SX355_BO1%252C204%252C203%252C200_.jpg" imageanchor="1" style="margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="320" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh4i0b9Ud1D-sVt0LB2Uk2OFduUnDivdcK7eO_1L3jdZSpNoDACqKuA0lwi7hTHp_LD7yuRaaB2kRMYRQG8bKZcEYcieia61XmcqzQo4gTx_BqItyxI4Gy7hu9jgc6g7kPk1CBrzj_UicdL/s320/51YkGAfNLVL._SX355_BO1%252C204%252C203%252C200_.jpg" width="228" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">引用元 Amazon</td></tr>
</tbody></table>
<br />
<br />
<br />
<b>多発性硬化症</b>(multiple sclerosis; <b>MS</b>)の当事者の方が描いた漫画作品というのを、私はこの作品以外に知りません。<br />
<br />
その意味でも大変に貴重な作品ですが、それ以上に、自分や家族が難病と呼ばれる病気になってしまった場合に、大切なことが、きっちりと描かれているように思いました。<br />
<br />
<br />
<h3>
■発病前後</h3>
<br />
作者の多発性硬化症は、最初、歩いていたときに感じた、原因不明の異様なだるさから始まったそうです。<br />
<br />
整形外科を受診すると、「腰部脊柱管狭窄症」と診断され、とりあえずは様子見ということで、シップを処方してもらったとのこと。<br />
<br />
ところが、その後、発熱。しかもどんどん上昇して、二週間以上も下がらず、全身衰弱。体重が十キロ以上も減ってしまいます。<br />
<br />
内科、耳鼻科、ペインクリニックで調べても、やはり原因不明。血液検査では原因が分からず。<br />
<br />
<br />
解熱剤で強引に熱を下げて、入浴をしてみると、体が温まったところで、いきなり全身の脱力。歩行も着替えもできない状態になるものの、体が冷めると回復。<br />
<br />
これは、多発性硬化症特有の症状である、「ユートフ」というものであるのだそうです。<br />
<br />
<br />
こうした激しい症状が、検査入院中に看護師の目の前で起きていたにもかかわらず、医師は多発性硬化症という病名にたどりつかず、様子見を提案します。<br />
<br />
いくら難病でも、ここまで分からないものなのかと、恐ろしくなります。<br />
<br />
検査入院で医師が出した結論は、「ストレスが原因か?」というものでした。<br />
<br />
<br />
<h3>
■診断に至る</h3>
<br />
作者は、電子辞書の「家庭の医学」を検索サーフィンしていて、自力で<b>多発性硬化症</b>の診断名にたどり着きます。<br />
<br />
けれども、患者側から診断名を持ち出すことで、医師の機嫌を損ねることを恐れて、おそるおそる、風呂上がりの「ユートフ」の症状について相談をし、やっとのことで、多発性硬化症の診断に至る腰椎穿刺の検査を受けられることになります。<br />
<br />
<br />
もしも作者が電子辞書を調べなかったら、検査入院は丸ごと無駄になり、さらに症状が悪化するまで「様子見」をすることになっていたかもしれません。<br />
<br />
<br />
作中のコラムで、作者が次のようにおっしゃっています。<br />
<br />
<br />
------------------------------------- <br />
<br />
私は声を大にして言いたい。「受診を遠慮するな!!」……と。<br />
皆さん、診断に不安を感じたら堂々とセカンド、サード・オピニオンを求めていいのですよ!!<br />
<br />
大切なのが「ホームドンター(かかりつけ医)」の存在。<br />
だが、見つけ出すのが難しい……。<br />
重要ポイントは以下の3点。<br />
<br />
<b>●患者の話に耳を傾ける</b><br />
<b>●会話のキャッチボールができる</b><br />
<b>●わからないことは調べてくれる</b><br />
<br />
患者、医者のどちらかが一方的じゃいかんと思うのです。上記3点をクリアーするドクターに出会ったら手放しちゃいけません!!<br />
<br />
逆に「だめだめドクター」の条件は? ……簡単、簡単!!<br />
<br />
<b>●看護師に対する態度が悪い</b><br />
<b>●患者を見下す</b><br />
<b>●頭が固い</b><br />
<br />
そしてこの口癖が出たら即トンズラしてぇ~っ!!<br />
<br />
「素人(のくせに)」「知ってどうするの?」<br />
<br />
えぇ、こっちは素人、そっちはプロ。<br />
だからこそわかりやすい説明をせーやっ!!……と。<br />
<br />
<br />
------------------------------------- <br />
<br />
<br />
<br />
難病はめずらしい病気であるだけに、兆候が出ても、当事者はまずそれと分かりません。<br />
<br />
<br />
なんとなく調子がおかしい、ただの風邪と違うと思っても、我慢強い人ほど、様子見をしてしまいます。病院にかかっても、気になる症状を全部は話さずに済ましてしまったり、医師に強く主張できなかったり。そして、なぜか難病になる人には、自分を抑えて他を優先させてしまうタイプの我慢強い人が多いような気がします。<br />
<br />
<br />
作者の岡田がる氏も、相当に我慢強く、人に頼って世話をかけることが苦手なタイプのようです(長女気質と、ご自身でも描かれています)。<br />
<br />
それだけに、気になる症状があっても、医師に強く主張したり、自ら検査を依頼するということは、難しかったのではないかと思います。<br />
<br />
そういうタイプの患者さんが、上の「だめだめドクター」タイプの医師に出会ってしまったら……ただでさえ診断の難しい病気は、ますます見逃されてしまいかねません。<br />
<br />
<br />
<br />
作中では、医師に対する直接的な批判はかかれていませんが、上のコラムのような言葉が出てくる背景として、診断がつくまでに出会った医師たちとの間に、どんなことがあったかは、うすうす察せられます。おそらく、大変だったのではないでしょうか。<br />
<br />
<br />
<h3>
■治療</h3>
<br />
その後、おおよその診断がついたことで、ステロイドのパルス療法を開始。<br />
1クールを終えたところで、手のしびれや震えが明らかに改善されたとのこと。<br />
<br />
確定診断は検査入院三週間目。<br />
<br />
全体的に、とても明るく描かれている漫画ですが、その間の入院生活の重いストレスや葛藤がとてつもないものだったであろうことは、十二分に伝わってきます。<br />
<br />
その闘病生活を支え続けた夫ポチダー氏の存在はたとえようもなく大きく、家庭とは、家族とはどんな存在であるのかということを、改めて考えさせられました。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<h3>
■多発性硬化症</h3>
<br />
<br />
この病気について、私が知っていたことは、自己免疫による難病であるらしいということぐらいでした。私自身、自己免疫疾患のバセドウ病をもっているので、同類の病気として意識の中に入れていましたが、そうでなければ、病名を記憶することもなかったかもしれません。<br />
<br />
<br />
具体的には、神経を包んでいる<b>ミエリン鞘</b>という部位が、自己免疫によって破壊され、動けなくなっていくものだそうです。<br />
<br />
<br />
<b><span style="color: #660000;">「多発性硬化症.jp」</span></b>というサイトによると、多発性硬化症の患者さんは、世界で約250万人、日本では13000人もいるそうです。患者の男女比は、1:2.9で、女性のほうが男性の三倍近くもいるとのこと。<br />
<br />
<a href="http://www.tahatuseikoukasyo.jp/index.html">http://www.tahatuseikoukasyo.jp/index.html</a><br />
<br />
<br />
全国で13000人という数字は、少ないようにも感じますが、1万人に1人と考えると、少し数字が身近になってくるのではないでしょうか。<br />
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ちなみに我が家には、1万人に5人ほどと言われる、重度の知的障害を伴う自閉症の子と、10万人に6.5人ほどの発症率と言われている、ネフローゼ症候群の子がおります。この二つの障害、病気が一家族内に出現する確率って、一体どれくらいになるのか…少なくとも、我が家以外にこの組み合わせのきょうだいがいる家を、私は一軒も知りません。<br />
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案外、日本で我が家だけだったりして…(~_~;)<br />
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なにはともあれ、どんなに発症確率の低いものであったとしても、誰もが、難病や障害の当事者になり得えます。<br />
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難病と言われる病気についての知識が、正しく一般に広まることで、病気の早期発見や診断ができるようになることを、願ってやみません。<br />
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