2018年1月13日土曜日

岡田がる「難病患者になりました」(多発性硬化症)

多発性硬化症当事者による漫画



岡田がる
「難病患者になりました 漫画家夫婦のタハツセーコーカショーの日々」

引用元 Amazon



多発性硬化症(multiple sclerosis; MS)の当事者の方が描いた漫画作品というのを、私はこの作品以外に知りません。

その意味でも大変に貴重な作品ですが、それ以上に、自分や家族が難病と呼ばれる病気になってしまった場合に、大切なことが、きっちりと描かれているように思いました。


■発病前後


作者の多発性硬化症は、最初、歩いていたときに感じた、原因不明の異様なだるさから始まったそうです。

整形外科を受診すると、「腰部脊柱管狭窄症」と診断され、とりあえずは様子見ということで、シップを処方してもらったとのこと。

ところが、その後、発熱。しかもどんどん上昇して、二週間以上も下がらず、全身衰弱。体重が十キロ以上も減ってしまいます。

内科、耳鼻科、ペインクリニックで調べても、やはり原因不明。血液検査では原因が分からず。


解熱剤で強引に熱を下げて、入浴をしてみると、体が温まったところで、いきなり全身の脱力。歩行も着替えもできない状態になるものの、体が冷めると回復。

これは、多発性硬化症特有の症状である、「ユートフ」というものであるのだそうです。


こうした激しい症状が、検査入院中に看護師の目の前で起きていたにもかかわらず、医師は多発性硬化症という病名にたどりつかず、様子見を提案します。

いくら難病でも、ここまで分からないものなのかと、恐ろしくなります。

検査入院で医師が出した結論は、「ストレスが原因か?」というものでした。


■診断に至る


作者は、電子辞書の「家庭の医学」を検索サーフィンしていて、自力で多発性硬化症の診断名にたどり着きます。

けれども、患者側から診断名を持ち出すことで、医師の機嫌を損ねることを恐れて、おそるおそる、風呂上がりの「ユートフ」の症状について相談をし、やっとのことで、多発性硬化症の診断に至る腰椎穿刺の検査を受けられることになります。


もしも作者が電子辞書を調べなかったら、検査入院は丸ごと無駄になり、さらに症状が悪化するまで「様子見」をすることになっていたかもしれません。


作中のコラムで、作者が次のようにおっしゃっています。


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私は声を大にして言いたい。「受診を遠慮するな!!」……と。
皆さん、診断に不安を感じたら堂々とセカンド、サード・オピニオンを求めていいのですよ!!

大切なのが「ホームドンター(かかりつけ医)」の存在。
だが、見つけ出すのが難しい……。
重要ポイントは以下の3点。

●患者の話に耳を傾ける
●会話のキャッチボールができる
●わからないことは調べてくれる

患者、医者のどちらかが一方的じゃいかんと思うのです。上記3点をクリアーするドクターに出会ったら手放しちゃいけません!!

逆に「だめだめドクター」の条件は? ……簡単、簡単!!

●看護師に対する態度が悪い
●患者を見下す
●頭が固い

そしてこの口癖が出たら即トンズラしてぇ~っ!!

「素人(のくせに)」「知ってどうするの?」

えぇ、こっちは素人、そっちはプロ。
だからこそわかりやすい説明をせーやっ!!……と。


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難病はめずらしい病気であるだけに、兆候が出ても、当事者はまずそれと分かりません。


なんとなく調子がおかしい、ただの風邪と違うと思っても、我慢強い人ほど、様子見をしてしまいます。病院にかかっても、気になる症状を全部は話さずに済ましてしまったり、医師に強く主張できなかったり。そして、なぜか難病になる人には、自分を抑えて他を優先させてしまうタイプの我慢強い人が多いような気がします。


作者の岡田がる氏も、相当に我慢強く、人に頼って世話をかけることが苦手なタイプのようです(長女気質と、ご自身でも描かれています)。

それだけに、気になる症状があっても、医師に強く主張したり、自ら検査を依頼するということは、難しかったのではないかと思います。

そういうタイプの患者さんが、上の「だめだめドクター」タイプの医師に出会ってしまったら……ただでさえ診断の難しい病気は、ますます見逃されてしまいかねません。



作中では、医師に対する直接的な批判はかかれていませんが、上のコラムのような言葉が出てくる背景として、診断がつくまでに出会った医師たちとの間に、どんなことがあったかは、うすうす察せられます。おそらく、大変だったのではないでしょうか。


■治療


その後、おおよその診断がついたことで、ステロイドのパルス療法を開始。
1クールを終えたところで、手のしびれや震えが明らかに改善されたとのこと。

確定診断は検査入院三週間目。

全体的に、とても明るく描かれている漫画ですが、その間の入院生活の重いストレスや葛藤がとてつもないものだったであろうことは、十二分に伝わってきます。

その闘病生活を支え続けた夫ポチダー氏の存在はたとえようもなく大きく、家庭とは、家族とはどんな存在であるのかということを、改めて考えさせられました。




■多発性硬化症



この病気について、私が知っていたことは、自己免疫による難病であるらしいということぐらいでした。私自身、自己免疫疾患のバセドウ病をもっているので、同類の病気として意識の中に入れていましたが、そうでなければ、病名を記憶することもなかったかもしれません。


具体的には、神経を包んでいるミエリン鞘という部位が、自己免疫によって破壊され、動けなくなっていくものだそうです。


「多発性硬化症.jp」というサイトによると、多発性硬化症の患者さんは、世界で約250万人、日本では13000人もいるそうです。患者の男女比は、1:2.9で、女性のほうが男性の三倍近くもいるとのこと。

http://www.tahatuseikoukasyo.jp/index.html


全国で13000人という数字は、少ないようにも感じますが、1万人に1人と考えると、少し数字が身近になってくるのではないでしょうか。

ちなみに我が家には、1万人に5人ほどと言われる、重度の知的障害を伴う自閉症の子と、10万人に6.5人ほどの発症率と言われている、ネフローゼ症候群の子がおります。この二つの障害、病気が一家族内に出現する確率って、一体どれくらいになるのか…少なくとも、我が家以外にこの組み合わせのきょうだいがいる家を、私は一軒も知りません。

案外、日本で我が家だけだったりして…(~_~;)

なにはともあれ、どんなに発症確率の低いものであったとしても、誰もが、難病や障害の当事者になり得えます。

難病と言われる病気についての知識が、正しく一般に広まることで、病気の早期発見や診断ができるようになることを、願ってやみません。







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