2016年9月11日日曜日

町田康「真実真性日記」 (流行性感冒)

真実真正日記 (講談社文庫) Kindle版


町田康  (著)


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《本文より》

 昨年末から流行性感冒が巷を席巻し、人中で咳をしている人も多いが、一日休めば忽ちにしてその日の米塩に窮するという情けない暮らしをしている私はこの流感を極度に恐れ、よほどの用がない限り人中を歩かないようにしていたし、よんどころなく市中を徘徊する仕儀となりし折りは帰宅後ただちに含漱・手洗いを励行するなど怠りなく予防にこれつとめてきた。

 にもかかわらず流感に罹ってしまった。
 原因ははっきりしている。
 三日前の午後、家に宅配便の配達に来た兄ちゃんが厭な鼻声だった。

 こいつ風邪を引いてるな、と思うから、顔を背けるなど用心していたのだ。ところが伝票にサインをする段になって、そいつがいきなり、「わっぴゃぴゃん」とくしゃみをした。

 そのとき冷静に顔を背ければよかったのだ。

 ところが流感を毒蛇のように恐れる私は思わず、

「ひっ」

 と悲鳴をあげてしまい、悲鳴をあげるということは口を開けるということで、その開いた口から侵入したのだ。

 症状は忽ち現れた。

 まず喉が痛くなって、全身がだるくなった。熱も出てきた。鼻の粘膜も痛み出した。
 

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読み終わると、タイトルの「真実真性日記」に対して、猛烈にツッコミたくなりますが、それはともかく。


(´・ω・`)


なんとなく、病気が出てくる匂いがして読み始めたの作品なのですが、半分くらいまでは、病気どころか、語り手の身体を感じさせるような描写すらほとんど見当たらず、脳内だけで出来事が推移していく印象でした。

身体がなければ、かかる病気はかなり限られます。見つからないかなあと思いつつ、でも面白いので、読み続けました。


そのうち、ぽつぽつと、身体感覚の描写が増えてきます。なんだか語り手が人間っぽい感じがしてきます。

でも病気のたぐいは、ストレス性の胃痛や、二日酔い、肩こりなど、ここに取り上げようかどうしようか、ちょっと迷うようなものばかり。

三分の二くらい読んだところで、「なんだか喉が痛いのは風邪を引いたのかな。なんだか熱っぽくもある」というのが出てきました。あ、なんだかヒトとしての全体像というか、全身の存在が見えたかも、と思いましたけども、風邪かどうか確定しないので、見送り。


その少しあとに、「心臓発作」で亡くなる人物が出てくるのですが、作中の物語で起きた事件であり、しかもその物語に出てくる架空の人物が避難所でいきなり阿修羅に変身したために驚いて亡くなったというので、取り上げるのはパス。


さらにそのあと、語り手が「健康を著しく害している」状態になるのですが、「なんとなく全身がだるくて終日倦怠感がある」という曖昧なもので、病名がはっきりしません。


じりじりしながら読み進めていると、かなりあとのほうで、いちばん最初に引用した「流行性感冒」にかかり、おー出た出た、と発見の喜びに浸りました。(何のための読書なんだか…)



私はほんとにダマされやすい人間ですので、かなりおしまいのところまで、語り手=作者だと思って読んでいました。

そりゃ、途中でだいぶおかしいとは思いましたよ。

近所の旦那さんがいきなり交差点に特攻して自殺したり、他人の店を成り行きで任されたかと思ったら胡乱な客に占拠されるままに放置して、火事出されてなくなっちゃったり。でも、町田康氏の日常はきっと、脳内的にはそんな感じなのだろうかと。

(身体感覚の描写が少ないのは脳内のみで展開する日常だからだろうと勝手にこじつけて読んでいました)



でも、面白かったので、よいと思います。


いちばん笑ったのは、「オンドレのボンゴレ」でした。
悪漢小説だそうです。

あと、表紙のブライスも可愛いと思います。はい。



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