2016年9月12日月曜日

雲田はるこ「昭和元禄落語心中(10)」  (火傷)

昭和元禄落語心中(10 (ITANコミックス) Kindle版


雲田はるこ (著)
 《作中セリフより》

あのヒトがいきてた事が なによりの幸いだよ
あんなふうに火傷をおっちゃあ
高座へ上がんのは
益々難しかろうが……

ここの大看板を長エ事一人で
背負ってくれたんだ
恩こそあれ 恨みなんざこれっぽっちも無エからな。

(八雲師匠臨終直前、寄席の火事が鎮火した直後の、席亭の台詞。)

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八雲はこのあと、意外なほどあっさりと、亡くなります。
死因は作中では明らかにされていませんが、火傷のせいではなく、老衰と、以前からの持病に命を奪われたように想像されます。

そこから八雲は、あの世へ行き、亡き助六夫妻と再会、そして三途の川のほとりで別れるまでは、どのシーンも圧巻で、胸がいっぱいになりっぱなしでした。(´;ω;`)


読了後、寄席の火事で、なぜ八雲が火傷を負わなくてはならなかったのかと、考えました。

寄席の火災は、八雲に魅了されて魂を取ろうとした死に神が引き起こした物だと、あの世の助六が説明しています。

その火事のなか、落語と心中する形で焼死しても悔いがなかったはずの八雲は、生きることを選び取り、残りわずかな寿命を全うすることになるのですが、火傷のために、もう二度と高座に上がる見込みはなくなります。

火傷は、落語を取らなかったことの代償なのか。
それとも、最期のひとときを、かけがえのない家族と共にあることを、ためらわないために、負わされたものなのか。

その両方であるようにも思われます。

もっとも火傷は、あの世に行ってしばらくすると、老衰や持病と一緒に、すっかり治ってしまうのですが。





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