2016年12月31日土曜日

椎名軽穂 「君に届け 5」 (風邪)



椎名軽穂 
「君に届け 5」  リマスター版  (マーガレットコミックスDIGITAL) 
Kindle版

Amazonで見る



もう、ほんとうに大好きです、この作品。

五巻目は、くるみ(梅)と爽子の関係が大きく進展する、見どころの多いお話でした。

風早への思いを成就させたい一心で、他人を利用して爽子を陥れる行為をも厭わなかったくるみが、本来の一途でまっすぐな性格を取り戻していきます。

精神的な危機やつらさを乗り越えて、勢いよく成長していく十代の子どもたちの姿ほど、好ましいものはないと思います(年寄りの意見)。


リアルな十代は、もっとカオスですし、こんなふうにすっきりとは行かないことも多いわけですが、それても、こういう物語が存在することで、成長する勇気を持てる若い読者は、きっといるのじゃないかと思います。

成長して、変わっていくためには、自分自身が勇気を出して、明確な意志を持つ必要があります。周囲の期待に背中を押されて、世の中にあらかじめ敷かれているレールの上を走りながらがんばるだけでは、到底、見つからない勇気なんですけど、そういうことを教えてくれる親や学校は、なかなかいません。


その、なかなかいない役割を一身に背負っているのが、爽子や風早の担任である、荒井一市、通称「ピン」なのですが・・・・


序盤、ほんとにこの人、カッコ悪いですねえ。(´・ω・`)


この五巻目では、だらしない、ダメな大人の姿を、余すところなく見せてくれます。




■風邪


レンタルショップでエロビデオを借りていたピン先生は、ホラーDVDを借りに来た爽子と遭遇。

爽子はその場で、鼻声のピン先生が風邪気味であることを見抜き、早めの手当を勧めますが、ピン先生のほうは、エロビデオと霊障を見抜かれたと思い込み、パニックに。

翌日、ピン先生は案の定風邪をこじらせ、ひどい寒気と高熱に襲われますが、本人は霊に取り憑かれていると思い込んでいるため、霊能力があると言われている(本当はそんなものはない)爽子を自宅に呼び寄せようとします。


呼ばれてやってきた、爽子、風早、やのちん、ちづ、龍の5人は、汚部屋のなかで震えているピン先生を発見。爽子の指示で、みんなで手当をし、部屋まで片付けてあげて、寝かしつけてあげて・・・・けなげな生徒たちです。


ひと眠りしたピン先生は、あっという間に風邪症状を駆逐。

けれども、もともと霊感の高いピン先生に取り憑いた霊障(?)は、そのまま部屋に残っていて、ありもしないノックの音が聞こえたりしています。


俺様で無神経そうなピン先生ですが、実は人の気持ちをよく理解し、進む道を迷いなく勧めることもできる、とてもいい先生です。自分に直接関わらないことに関しては、人間関係への洞察力も、かなりのもの。カンも相当いい人のようです。

霊感が高いのも、それに関係しているのかもしれません。

いい先生なのに、なかなか「素敵」な先生に見えないのは、気の毒ではあります。髪型が悪いかも……なんであんなスーパーサイヤ人みたいに、毛を全部上に立ててるんでしょうね。


(´・ω・`)










いまごろ気づいたんですけど、「君に届け」のKindle版は、紙のコミックより、21円安いんですね。




2016年12月30日金曜日

ながさわ さとる , オリヴィア ・ゲイツ 「千一夜におぼれて」 (子宮内膜症)


ながさわ さとる , オリヴィア ・ゲイツ  
千一夜におぼれて ジュダールの王冠 (ハーレクインコミックス)
  Kindle版
 出版社: ハーレクイン       
               





仕事で知り合ったアラブのファルーク王子に期間限定の恋人になるよう求められヒロインのカルメンは、交際中に想定外の妊娠をしてしまい、王子に疎まれることを恐れ、別れてしまいます。


もともと重い子宮内膜症を患っていたカルメンにとって、子どもを授かったことは、奇跡のような喜ばしい出来事でした・。

けれども、アメリカ人女性であるカルメンにしてみれば、国籍も身分も違いすぎる王子に妊娠を打ち明けたところで、結婚はもちろん、子どもの扱いがどうなるかも分ったものではありません。

悩んだ挙げ句、カルメンは王子を捨てて、シングルマザーの道を選ぶことに。


ところがそこに、王子の政敵による陰謀が絡んできてしまいます。もともとカルメンにベタ惚れだったファルーク王子は、政敵の嘘にまんまと騙され、カルメンが金の亡者で敵のスパイだと信じ込んで、大激怒。


しかしこの王子、カルメンに心底惚れていたのなら、なんで期間限定の恋人になんかしたのか。そのあたりの事情は、原作小説を読めば明らかになるのかもしれませんが、漫画版ではよくわからないので、王子の大きな減点要素になっています。身勝手な上に単細胞とか、ろくでもありません,ね。(´・ω・`)




ファルーク王子を捨てたカルメンは、一人っきりで帝王切開を乗り越えて、娘のメナを出産しますが、産後に子宮内膜症が悪化してしまい、子宮を摘出しています。


つらい思いを克服して、働きながら育児をしていたカルメンのもとに、ややこしい王家の事情を背負い込んだファルーク王子が、カルメンの本心を誤解したまま激怒状態で乗り込んできて、自分の娘を一目みた途端、溺愛親バカオヤジに変貌し、カルメンとメナを脅して強引に自国に連れ去りそのまま結婚。


王家の事情というのは、次期国王として、男の世継ぎを作るべしという義務を課せられていることと、王位を狙う政敵が陰謀を用意して待っていたことですが、王子はそれらを一蹴し、皇太子の地位を捨て去り家庭を取ります。


王子は、一気に男前レベルをアップして、ハッピーエンド。



それにしても、このジャンルに出てくる、権力と財力と美を併せ持った「アラブの王子様」たちは、まるっきり夢の世界の存在かと思ったら、現実世界にモデルと思われる方々が存在していることを、最近知りました。


「アラブ 王子」などで画像検索してみると、恐ろしく顔立ちの整った王家の方々の写真がたくさんでてきて、驚きます。ドバイの王家とか、写真だけ見ていると、まるでハーレクインを映像化したかのようで、世界的にも大きな話題になっているとか。


異文化に所属する彼らとのロマンスを思い描くこと、架空の物語を次々と生み出して空想することが、アメリカの女性達の楽しみになっているのでしょうか。


次期アメリカ大統領のトランプさんは、イスラム教徒を嫌う発言をして、アラブ諸国の反発を受けたりしているのを見ると、なんだか日本の韓流・嫌韓みたいな構図があるように、見えないこともありません。





あ、でも、ハーレクイン社の本社って、アメリカじゃなくて、カナダにあるんだそうですね。ずっとアメリカのものだとばかり思っていました(いろいろ無知でした)。




■子宮内膜症



物語としては、爽やかな終わり方でしたけれども、カルメンの子宮内膜症の経過や予後がはっきり分からず、気になるところです。

まだ若いうちに、子宮、卵巣を全摘した場合、内膜症は完治となったとしても、その後のホルモンバランスの以上などで、つらい症状もあるのではないかと思うのです。

政争の多い異国の王家に嫁いで、夫は皇太子を降りたとはいえ、ストレスの多い生活であることは間違いないでしょう。夢物語のハーレクインで、そこまで心配する必要はないのでしょうけれども、病気を意識しながら作品を読んでいるので、どうしても気になりました。




      

2016年12月29日木曜日

小西 明日翔 「春の呪い 2」  (ガン…詳細不明)


小西 明日翔 「春の呪い  2 」 (ZERO-SUMコミックス)
Amazon Kindle版




















Amazonで見る






お話は、この二巻目で完結です。

未来の風通しが良くなり、希望の持てるラストでしたが、この先、夏美と冬吾に降りかかってくる苦労は、並大抵ではないだろうなと予想できるので、読後感は、すっきり爽やかではありません。



二人は、自分たちを縛り付けていた家を切り捨てる決意をしましたが、亡くなった春の思いは、そのまま受け止めて先に進むことにしたようです。


夏美がみつけた、生前の春のSNS(たぶんTwitter)の書き込みには、残された者達にとって、呪いそのものともとれる文言でした。



春は、かなり早い時期に、自分の婚約者の冬吾が、姉の夏美に心を寄せていることや、自分が姉ほどには冬吾に愛されていないことを、見抜いていました。


SNSには、姉への嫉妬と、冬吾に対する強烈な執着心や独占欲がありのままに綴られていて、とどめには、姉を地獄に道連れにしてでも、冬吾と引き離したいと書かれています。


それを読んだ夏美は、唯一無二の恋人のように愛していた妹に、すでにフラれてしまっていたことと、憎悪の的になっていることを知って、深く動揺します。


けれども、何も言わずに亡くなった春の本心と向き合ったことが、夏美が春への依存を断ち切り、一人で前に踏み出す切っ掛けにもなったのだと思います。


そう考えると、春の恋心という呪いは、解呪の呪文と表裏一体のものであったとも言えるかもしれません。


それにしても、夏美にしろ冬吾しろ、春よりも、それぞれの家庭の問題のほうが、よほど深刻な呪いのようになっていますが、そっちは大丈夫なのか。

冬吾の母親は、肉親というよりも、まるで家の体面とか名誉とか利益とかを守るために家庭に搭載されたAIみたいで、人間らしい愛情の気配が全く見えず、かなり気持ち悪い女性です。


息子の自由意志を認めない。
息子が自分と違う意見を持つことを一切許さない。
息子の気持ちを考えず、無視する。
息子に自分とは違う独自の人生があるということを認めない。



社会的にはまともなのかもしれませんが、家庭のなかでは、立派な毒親の一種だろうと思います。


こんな人に、幼少期から徹底的にコントロールされて育てられたら、自由意志とか人生の目的など、抱こうとも思わなくなるかもしれません。


冬吾には兄もいるようですが、作中には顔を出しません。
同じ母親に育てられてきて、どうなっているのか、かなり気になるところです。適当に母親から離反して、まっとうな人生を歩んでいるのだとしたら、今後、冬吾の支えになってくれることでしょう。






完結してしまいましたけれど、欲を言えば、夏美と父親、冬吾と母親の確執と、結末まで、描いてほしかったなという気もします。


ただ、そこまで描いてしまうと、「春の呪い」ではなく「家の呪い」になってしまうんですよね、きっと。 (´・ω・`)



なお、二巻目では、春の病状について、一巻目よりも踏み込んだ描写がありました。

デート中の重い貧血から、発病していることがわかったこと。
治らない病気ではないと、意志に言われていたこと。
貧血は、輸血すればよくなるとされていたこと。
その後、抗がん剤で白血球が減ってしまい、発熱しはじめたこと。
「移植」のための処置で、息が上がるようになってきたこと。



医療に詳しいわけではないので、確証は持てませんけれども、白血病、骨髄移植を思わせる描写ではあります。


春の人生は、悲しい終わり方をしましたけれども、どんな形であれ、その思いをまるごと受け止めて、生きていこうとする家族がいたことは事実です。


そのことを「幸せ」とは言えないとしても、深い意味で、意味をもった人生だったと言うことはできると思います。








2016年11月30日水曜日

清水茜 「はたらく細胞」(1) (肺炎球菌菌血症)


ヒロインが赤血球で、ヒーローが白血球という、お話です。




清水茜 「はたらく細胞」(1)


Amazonで見る






ミクロの世界である人体組織の中で、全力で生き抜く細胞たちが、働く若者達の姿で描かれています。

そこで起こる事件は、細胞視点では、すべてが大スペクタクルですが、ごく日常的で、些細な出来事でもあります。


たとえば、こんな凶悪な菌が、血管に入り込んできます。






彼らの名前は、肺炎球菌。


どこにでもいる菌ですが、免疫が弱っていると、命に関わる病気を引き起こすこともある、おそろしい存在です。


そんな肺炎球菌を、白血球が全力で迎撃。







怖いけど、ステキです。


そして、白血球に守られた赤血球に、ほのかな思慕が芽生えて・・・








状況的に、ものすごく、ロマンスを期待したいところですが、よく考えてみたら、同じ人体のなかのパーツなわけで、この先、この二人(いや、二粒か?)が、どうなっていくのか、全く予想がつきません。





■肺炎球菌菌血症


菌血症は、無菌でなくてはならない血液のなかに、最近が存在している状態のことを言います。


漫画に描かれているように、肺炎球菌が血液中に侵入し、免疫で撃退できない場合は、細菌性髄膜炎など、非常に危険な病気に進んでしまう場合があります。

肺炎球菌菌血症は、2歳未満の子どもと、65歳以上のお年寄り、そして免疫が弱っている人が、罹りやすい病気なのだそうです。


幼児やお年寄りが、高熱を出したようなときには、早く医療機関にかかるべきでしょう。










Amazonで見る



2016年11月27日日曜日

城山三郎 「そうか、もう君はいないのか」   (肝臓がん)(脂肪肝)



新聞だったかネットニュースだったか忘れましたが、この手記が紹介されていたのを見て、すぐにDLして読んでみました。



城山三郎 「そうか、もう君はいないのか」 


Amazonで見る

 




最愛の人を失った悲しみ、虚しさ、さみしさが、書名からにじみでていて、どうにも切なくなります。




学生のころ、たまたま道で出会ったその日に、たった一度だけのデートで相思相愛になったのに、彼女の親に反対されて、別れることに。

その後、紆余曲折を経て再会。

今度は双方の親の了解を得て、結婚。

ハネムーンでのういういしいカップルぶり。新婚生活のとんでもない苦労。新人賞獲得後は、地元のしがらみから離れて執筆に専念するために、茅ヶ崎に転居。そして・・・・・・

刺激の多い都会から離れ、家族とともに茅ヶ崎に深く根を張り、自分のペースで執筆を継続して、多くの作品を生み出しつづけた作者の生活は、もしかすると、修行僧のように苦しい面もあったのではないかと思います。

けれども、明るい気性の奥さんと一緒に、長い年月をじっくりと味わいながら、楽しみながら、乗り越えてきたのかのかもしれません。本書で、淡々と綴られていく、夫婦の歩みから、そんな感じを受けました。



それなのに・・・・・・。


最愛の妻、容子さんの亡くなり方は、かかりつけの医師との経緯を考えれば、とても納得して受け止められるものではなかっただろうと思います。







---------------------------------------------


 癌はいずれにせよ、早期発見が肝要にちがいない。

 偶々、茅ヶ崎の駅前ビルに、東京の有名病院の内科医が独立して開業したので、容子は血圧が高めでもあるし、早速、月二回の診察を受けることにした。


 ところが、この医師のいた大病院では趣味人というか、筆の立つことでも有名な医師が何人も輩出しており、この医師もまた風流人。それ故かどうか、名医という評判ながら、どこか患者を見下すようなところがあった。


 そして、ある日、処方箋にそれまでに比べて記載漏れかと思われる箇所があり、不要かどうか医師にたしかめてくれと、薬局で言われ、医院に引き返して、そのことを訊くと、とたんに医師は大声を張り上げ、


「医者に教える気か!」


 と、怒鳴りつけた。

 その後になって、この医師に検査を受けた折、

「あんたの肝臓はフォアグラだな、アハハ」


と笑われたが、ただそれだけで説明がなく、といって訊くなり、問い返すなりすることも、怒鳴られたことを思い出すと、こわくてできない。


 私がこのやり取りを知ったときは、もう後の祭りであった。

「フォアグラ」というのは、つまり、すでに肝硬変が進んでいたのではないか。
 その段階で、きちんと診察し、本人にも自覚させ、本格的な治療を受けていれば・・・・・・。

 何故もっとはっきり病状を伝えなかったか、何故悪い肝臓を放置したか、その医師にはいまも恨みが残る。容子は、定期的に検診を受けているので、まさか重い病気が進行しているなどとは思いもせず、同じ病院に通い続けた。


(引用終わり)

---------------------------------------------



とんでもないモラハラ医者がいたものです。


処方についての薬局からの問い合わせを、逆ギレで撃退するとか、あり得ない対応です。

まして、検査しておいて、患者の肝臓をフォアグラ呼ばわりして嘲笑した上、肝臓がんを見逃すとか・・・・・


心情的には、医師免許剥奪してほしいレベルです。


この医者さえ駅前に開業していなければ、亡くならずに済んだかもしれないのに。



読むうちに、私まで猛然と腹がたってしまい、思わず、googleマップで、茅ヶ崎駅前の内科を検索してしまいしまた。

もっとも、どこがその病院であるかは、分かりせんでしたけれども。


(´・ω・`)



■肝臓がん/脂肪肝



上の引用文中、茅ヶ崎の駅前ビルの藪医者が、

「あんたの肝臓は、フォアグラだな。アハハ」


と言っているのは、脂肪肝を指摘したものではないかと想像します。フォアグラって、ガチョウやアヒルにたくさんエサをやって、脂肪肝にしたものだそうですから。


エコーで肝臓を検査したときに、脂肪がたくさんついていると、白い影になって見えます。


私も何年か前に、エコー検査で脂肪肝を指摘されたことがあります。脂肪がたくさんついていると、エコーの機械の画面で、素人目にも分かるくらい、白い影になって見えます。



脂肪肝から、肝硬変や肝臓がんになることも少なくないのだそうですから、笑いごとではありません。


私の場合、血液検査でも、GOTやらGPTやらの数値がちょっと高かったため、生活習慣を整えるように、医師にきつく言われました。

それで恐れをなしてダイエットを決行し、GOTやらGPTやらは、安全な数値まで下がりました。


容子さんも、定期検査をしていたのだから、まともな医師が早めに意見していれば、末期がんになるまで気づかないなどということもなく、ご夫婦でもっと長生きされていたかもしれません。



威張る医者、まともに説明しない医者、わけもなく患者を嘲笑する医者は、ミスして逆ギレするような医者は、非常に危険ですので、取り返しのつかなくなる前に、病院を変えるべきです。










2016年11月23日水曜日

羽海野チカ (著) 「3月のライオン」第一巻  (急性アルコール中毒)(腎臓病)(ネフローゼ症候群)


何度読み返しても、心に沁み入るような満足感のある作品です。

現時点で12巻まで出ていますが、ひさびさに、1巻を再読しました。




羽海野チカ  (著) 「3月のライオン」 第一巻  




  Amazonで見る


主人公の桐山零と、川本家の人々を結びつけたのは、どうしようもない理由で家族を失ってしまった、深い心の傷と、痛みだったのかもしれません。


一巻目では、川本家の事情は明らかにさせれませんが、家族の中に迎え入れられた零には、家のなかに音もなく横たわる、深い不幸と悲しみの影が見えています。



この先、12巻までの間に、ろくでもない危機が次々と襲いかかってくるのですが、川本家の人々と霊は、唯一無二の新しい家族を守るために、力を合わせてフルパワーで乗り切っていくことになります。



■急性アルコール中毒




零が、川本家の長女、ゆかりと出会ったのは、歓楽街の夜道でした。



先輩プロ棋士たちの嫌がらせで、無理矢理泥酔させられたまま、路上に捨て置かれていた零を、銀座のホステスをしているゆかりが見つけて、介抱します。






 



まともに立って歩けず、強い吐き気に襲われ、言葉もうまくしゃべれない……


若い人が毎年のように亡くなっている、急性アルコール中毒の症状です。



お酒には、致死量があるということを、知っておくべきだと思います。

飲む人の体格や、飲むスピードなどにもよりますが、ウィスキーですと、水割り(ダブル)を十杯も飲むと、命の危険が出てくるそうです。



零は痩せていますし、普段から不摂生をしていて、満足に食事も取っていませんから、あかりに介抱してもらわなければ、命が危なかったかもしれません。




「3月のライオン」の物語の中では、将棋の勝負が命のやりとりのように苛烈であることが、繰り返し描かれています。才能では零に勝てない先輩達に、未必の殺意があったとしても、不自然ではないだろうと思います。




■腎臓病(ネフローゼ症候群)


以前の記事にも書きましたが、
零のライバルの二海堂晴信は、ネフローゼ症候群と思われる腎臓病を持っています。


羽海野チカ 「3月のライオン 」 (ネフローゼ症候群)

http://ikirutakarabako.blogspot.jp/2016/09/3.html





二海堂は、一巻目から登場していて、すぐに川本家の人々とも打ち解け、手料理をふるまってもらっています。

そこで、食事制限について触れている部分があります。







うす味で、たんぱく控えめ。
うちの長女がネフローゼで入院すると、まさにそういう病院食が出されていました。これがもう、悲しいくらい、美味しくなくて……(涙)。


けれども、あかりさんは、薄味でも美味しい手料理をふるまって、二階堂を感動させます。








このメニュー、何でしょうね。






魚の切り身に、クリームっぽいソースがかかっていて、付け合わせがいろいろ。しめじに、サヤエンドウ、あとは不明。


持ち手のついた器に、細長い具がたくさん入っているように見えるのは、スープでしょうか。

小鉢に入った四角い料理は、カボチャか芋などの煮物かなとも思いますが、コンニャクの可能性もありそうです。

左側の皿は、サラダなのか、炒め物なのか・・・・。


3月のライオンの再現レシピは、ネットにたくさん出ていて、クックパッドでもずらりと並ぶほどでけど、この腎臓病向けレシピを再現したものは、まだ見つけていません。



どなたかやってくださらないかなと、ちょっと期待しています。


(自分でやればいいんですけど、写真にとってUPできるような、きれいな調理は無理なので(^_^;)







千家ゆう ・マギー・コックス「彼だけを待っていた」 (マラリア)

彼だけを待っていた (ハーレクインコミックス) Kindle版
千家ゆう (漫画), マギー・コックス (原作)




Amazonで見る

 


人間不信の億万長者と、幼いころから彼を思いつづけてきたアラサーのヒロインが、ボロボロに傷つけあいながら、心を通じ合わせるまでの物語。


表紙で頭に変な木の実をつけている人は、ウォール街の成功者らしいですが、とんだ自己チュー男で、お話の最後まで、読者をイラつかせる言動を続けます。


自分に思いを寄せているヒロインの気を引いて、愛情を一方的に搾取するだけで、相手の気持ちを思いやることもしない最低男です。どこまでいっても、自分の傷ついた心、最優先。ラストで結婚してますけど、ちっともめでたい感じがしませんでした。(´・ω・`)


(__).。oO


ヒロインが、このろくでもない男性と出会ってしまったのは、ヒロインの兄と彼が親友だったからでした。


けれども冒頭、その兄がアフリカで死亡したとの連絡が入ります。


死因は、マラリア


主に、ハマダラカなどの蚊が、マラリア原虫を媒介し、感染すると、赤血球のなかに寄生されてしまいます。



日本国内では、まず耳にすることのない感染症ですが、海外では亜熱帯、熱帯を中心に流行していて、年間発症数は三億から五億人、死亡者は150万人から270万人にもなるのだそうです


治療可能な感染症ですが、手当が遅れると、多臓器不全などで死ぬ確率が高くなってしまうとのこと。



ヒロインの兄は、慈善事業でアフリカに行っていたということですから、医療をすぐに受けられないような地域にいたのかもしれません。


厚生労働省検疫所のホームページに、マラリア感染予防についての、詳しい情報が掲載されています。


FORTH 海外で健康に過ごすために
http://www.forth.go.jp/useful/malaria.html


アフリカだけでなく、最近日本からの観光が増えているという、東南アジア一帯も、感染の多い地域になっています。


知識をしっかり持ってでかけてほしいです。



ヒロインも、兄がマラリアで亡くならなければ、あんなろくでなしと結婚しなくてもよかったかもしれないのに・・・。


(´・ω・`)

Amazonで見る




2016年11月2日水曜日

真原ゆう ・ヘレン・ビアンチン 「情熱のとき」 (星状細胞腫)


「情熱のとき」

真原ゆう (漫画), ヘレン・ビアンチン (原作)  ハーレクイン



Amazonで見る





シングルマザーのカーリーは、愛娘のアン・マリーと堅実で幸せな生活を送っていましたが、そのアン・マリーが星状細胞腫という難病に罹ってしまいます。

星状細胞腫の手術には多額な費用がかかますが、カーリーにはそれを工面できる見込みがなかったため、別れた夫であり、いまだに実の娘の存在を聞かされていないステファノに、支援を求めることに。

二人の離婚原因は、お互いの生まれ育った家庭環境に隔たりがありすぎたことと、ステファノの不倫でしたが、ステファノは支援の見返りとして、なぜか復縁を要求。カーリーは娘を助けるためだけに、顔も見たくなかった元夫と再婚することになりますが…




星状細胞腫は、小児の脳腫瘍のなかで、最も発症率の高い病気だそうです。

小児の難病の多くは、ほんとうに患者数が少ないので、たいていの親御さんは、我が子の発病で、はじめてその病名を知るという場合が多いのではないかと思います。(私もそうでした)



作中のカーリーは、不幸な結婚と離婚、そしてシングルでの出産、我が子の発病と、大変な試練を受けることになりますが、なにしろハーレクイン作品ですので、病気は全快しますし、一度壊れてしまった夫婦の絆も、共に我が子を支え、乗り越えることで、再び強く結ばれることに。ちなみに離婚原因となった夫ステファノの不倫活動は、悪意のある女性の差し金によって構築されたものであり、事実無根だったと判明します。




そんなに何もかもうまくいくなら、苦労はしないよなあ、リアリティないよなあとは思うものの……


物語のなかくらい、全部ハッピーでもいいですよね。(´・ω・`)













白井 幸子・サンドラ・マートン「無慈悲な独身貴族」(脳腫瘍)


「無慈悲な独身貴族」
白井 幸子 (漫画), サンドラ・マートン (原作) Kindle版 Amazon




大学院生のジェニーは、これまで絶対に許されなかった経験をしてみようと思い立ちます。

飲酒、危険なスポーツ、情事…

かつてそれらを禁じて、ジェニーを安全な場所から出そうとしなかった両親はすでに亡く、ジェニーの寿命も、残りわずかと宣告されていたからです。

場末の酒場でジェニーに出会ったトラヴィスは、事情を知らないまま、ひどい頭痛持ちのジェニーの危なっかしさや純情さに振り回されて、気がつけば独身主義を返上し、結婚を決意。けれどもジェニーの病魔はカウントダウンを開始していて……


ハーレクインですから、もちろん最後はハッピーエンドです。
ほとんど助かる見込みのない脳腫瘍も、大富豪であるトラヴィスが全力で見つけてきた名医の執刀で、見事に完治。


ハーレクインは難病を題材にする場合も多いのですが、ヒロインやヒーローが罹患した場合は、ことごとく治癒します。まるで魔法のようです。


読んでいて、リアルもこうだったらなあと、よく思います。(´・ω・`)



小西 明日翔 「春の呪い」  (ガン…詳細不明)


小西 明日翔 「春の呪い」  Amazon Kindle版   一迅社


  Amazonで見る



(一度UPしたあと、操作ミスで削除してしまったので、書き直し・・・・)



表紙の絵で骨箱を抱いている夏美。

箱の中にいるのは、最愛の妹、春。

隣に座っているのは、春の婚約者だった、冬吾。


夏美は実の父に嫌悪され、自宅にも、世界のどこにも自分の居場所を見いだせずにいる。唯一の心のよりどころであり、自分の存在すべてを賭けて愛していた春に死なれた後に、もはや生きる目的は何も残っていなかった。


冬吾は、親の意向で決められたレールに従うことしか許されない人生に、生きる意味を見いだせず、自分の感情を殺して生きていた。親の指示で春と婚約したものの、愛情を持てるはずもなく、惰性で付き合うばかりだったけれども、春の死の前後に、姉の夏美のなかに、自分と似た孤独や苦しみをを読み取って、強く心を引かれるようになる。


春の葬式のあと、冬吾の強い求めに引きずられるようにして、夏美は冬吾と付き合うようになるけれど、亡き春の残した思いが呪いのように二人を覆い、未来に見通しを持つことを許さない。結局二人は別れるけれども、夏美は生前の春がネットに残した書き込みを発見し……そこで一巻目が終了。



早く続きが出てくれないと、大変落ち着きません(´;ω;`)。



そして、まだ若い春の命を奪った病気ですが、作中では、ガンであることと、抗がん剤投与と、輸血を受けていることしか描かれいないため、具体的な病名、病状については、いまのところはわからないままになっています。



物語の主題に関わるのは、春の死であり、残された思いなのでしょうから、病名については、ガン以上のことは語られずに進んでいくのかもれしません。










2016年10月5日水曜日

武田一義「さよならタマちゃん」 (精巣腫瘍)


さよならタマちゃん (イブニングコミックス) Kindle版

武田一義 (著)



漫画家になることを目指して、アシスタントをしていた主人公を襲った病気は、精巣のがんでした。


手術。

抗がん剤治療と、副作用。

夫婦の絆。

がんの闘病をする患者さんたちとの出会い。

仕事への思い。


がんとともにある個人の暮らしのことを、丁寧に、細やかに描かれた作品。



闘病ものの作品は、一度だけ読んで終わることが多いのですが、この作品は、なぜか時折、読み返したくなります。



入院治療のために、主人公が、アシスタントの職を辞すことを決意する場面があります。

すると雇い主の漫画家さんに伝えると、その漫画家さんが、職場の仲間をみんな引き連れて病室にやってきて、こう言うのです。


「迷惑かけたくない気持ちも分かりますけど、病気なんだから それはあきらめませんか」



これ、すごい言葉だと思います。

大切にしている仲間から、こういう言葉をおくられたら、どんな病状であれ、厳しい状況であれ、真剣に生きることに向き合うしかなくなりますし、そうする勇気もわくのではないかと思うのです。


なによりも、そういう仲間とつながってきていた、この主人公が、すごいなと思いました。


最近、世の中では、障害者や難病者を「迷惑な存在」として非難するような、声高な主張が増えてきているようです。


つい最近も、人工透析の患者さんたちをバッシングする発言をした元アナウンサーの人が、仕事を干されるに至り謝罪をする、といった騒ぎがあったばかりです。


(長谷川豊氏のブログの謝罪記事→ この度の騒動で嫌な思いをされた全ての方に心よりお詫び申し上げます。)


生身の人間なのだから、誰もがいつかは体を壊すことがありますし、それが大変な治療をしなくては命の助からないものである可能性も、常にあります。


予算が足りないといわれる、社会福祉のひずみを何とかするために、社会的負担の大きい病人や障害者を切り捨てようという発想ではなく、なんとかしてともに生きようとする発想で、物事を変えていくことはできないかなと、切実に思います。


切り捨てられることが約束されたような社会では、がんばることは難しいです。

けれども、そこがかけがえのない居場所であると思えるような社会であるなら、重い病気や障害のある人生にも、もっと違った風景が見えてくるのではないかと思います。















2016年10月1日土曜日

おおにし真・ミシェル ・リード 「忘れられた花嫁」 (記憶喪失)

忘れられた花嫁 (ハーレクインコミックス) Kindle版
おおにし 真 (著), ミシェル ・リード  (著)     Amazonで見る



《あらすじ》


キャシーは、双子を育てるシングルマザーです。

情熱的な恋人だったサンドロは、子どもができたと知らせた途端、キャシーを捨てて音信不通に。


最愛の子どもたちを育てるために、女性蔑視の社長の会社で頑張って働いていましたが、その会社が買収されることになり、新しいオーナーとして就任した人物は、サンドロでした。


パーティで再会したサンドロは、他人行儀のままでしたが、キャシーと会話するうちに、発作のような頭痛に襲われて、倒れます。



成り行きで介抱することになってしまったキャシーは、サンドロから、衝撃の事実を聞かされることになります。


交通事故で三週間昏睡し、目ざめた時にはキャシーとの交際についての記憶だけ、、完全に喪失していたこと。


その交通事故で、サンドロは婚約者に死なれ、自分だけ生き残ってしまったこと(婚約者のことは忘れなかった)。


キャシーから妊娠の電話連絡があった時点で、すでにサンドロは記憶を失っていましたが、ご丁寧に、その電話をもらった事実についても、再度きっちり記憶を消去していたこと。



とにかく、これてもかという勢いで、サンドロはキャシーのことだけを、忘却しまくっていたのでした。



妊娠中に捨てられたキャシーの心の傷を、もう一度えぐりなおして、塩を塗り込むような話で、ここからの復縁など、到底考えられそうにないのですが……そこはハーレクインですので、あれやこれやの事情をねじり倒して、元サヤにおさまります。



記憶喪失には、交通事故などによる外傷性のもの、脳の病気による内因性のもの、そして鬱病などの心因性のものがあるそうです。


サンドロは、交通事故にあっていますが、婚約者とキャシーの事で強いストレスも罹っていますから、記憶喪失の原因が、外傷性のものであるのか、心因性のものであるのか、作中でははっきりしません。


作中では、キャシーが愛想を尽かして去ろうとするたびに、記憶喪失と葛藤するサンドロがひどい頭痛に襲われます。放って帰れず、介護に奔走するキャシー。なんだかんだで、キャシーを引き留め、同意もなしに結婚を発表し、式の日取りまで勝手に決めてしまうサンドロ。


その結果、キャシーはサンドロから離れる機会を逃しつづけ、やがて、記憶もほとんど復活して、元の鞘に収まって結婚。







いいのかそれで、と思いますが、まあ、いいんでしょうね。
ハーレクインですから。

(´・ω・`)












2016年9月28日水曜日

羽海野チカ 「3月のライオン 」 (ネフローゼ症候群)


3月のライオン 6 (ジェッツコミックス) Kindle版

羽海野チカ  (著)            Amazonで見る


3月のライオン6
プロ棋士の世界を描いた物語ですが、テーマとなっているのは、さまざまな宿命を背負って生きる、孤独な魂の持ち主たちの姿ではないかと思います。


主人公の少年、桐山零は、なんとなく羽生善治を思わせる容貌と、天才的な将棋の気質を持つ、孤独な生い立ちの少年です。

零の両親はすでに亡く、プロ棋士の養子となって育ちますが、養父の実の子どもたちとは比べものにならないほど才能があったために、家庭崩壊の原因となってしまいます。

恩義ある養父の家庭を傷つけたことは、大きな負い目となって、零を苦しめつづけ、強い自己否定の要因となっていきます。


そんな孤独な零を見いだして、「心友」「ライバル」を自ら名乗って出たのが、六巻目の表紙になっている少年、二海堂晴信です。


二海堂は、身体がとても弱く、常に保護され、手厚く守られながら、将棋の世界に生きていましたが、この六巻では、とうとう対局の会場で倒れ、入院となってしまいます。



将棋の世界に詳しい方であれば、彼のまんまるな容貌から、すぐに連想される病名があるのではないかと思います。




■ネフローゼ症候群




かつて、この病気と戦い続けた、村山聖という天才棋士が、実在していました。

五歳でネフローゼ症候群を発症し、長い入院生活のなかで将棋を学び、17歳でプロに。
そして、1998年8月、29歳で、膀胱癌のために亡くなっています。



私は将棋にはまったく詳しくないのですが、村山聖九段が亡くなった1998年に、彼についての情報を、これでもかというほど、見ることになります。


なぜかというと、1998年の7月、つまり村山九段が亡くなる1ヶ月前に、私の長女が、ネフローゼ症候群を発症したからです。


当時、長女の病気についての情報を集めるために、インターネットをはじめたのですが、「ネフローゼ症候群」で検索すると、村山聖さんの名前が必ず出てきました。




ネットで伝え聞く、その壮絶な人生は、同じ病気の子どもを持つ親の心に、楔のように突き刺さり、焼きつき離れませんでした。



ネフローゼ症候群では、対症療法として、ステロイドの大量投与が行われます。

ステロイドは非常に副作用の強い薬で、投与期間が長引くと、容貌が激変します。

村山聖さんや、「3月のライオン」の二海堂の、あの特徴的な丸くずんぐりした、独特の顔立ちは、ステロイドの副作用によるものだと思われます。




村山九段にイメージの重なる、二海堂少年は、いつ発症するかわからない難病を背負いながら、プロ棋士としての過酷な人生を歩んでいます。

身体の限界と、棋士としての限界を常に意識しなくてはならない生活なのに、「心友」である零の孤独を思い、ともに育っていくことを願う様子に、人としての器量の計り知れない大きさを感じさせます。

架空のキャラクターではありますが、長生きしてほしいと、心から思います。



















「物語の中の病気」索引








2016年9月27日火曜日

松井優征「暗殺教室 21」 (脳腫瘍)


暗殺教室 21 (ジャンプコミックスDIGITAL) 

松井優征 (著)                     




Amazonで見る





完結巻です。殺せんせい、最愛の生徒たちに暗殺されて、みんなを幸せにして、消えていきました……。


その泣けてしかたがないラストのあとに、生前の殺せんせいの休日を描いた、短編作品が収録されています。

そのお話に出てくる梓(あずさ)という女性が、助かる見込みのない脳腫瘍をわずらっていました。


彼女は愛娘の未来を守るために、殺せんせいの暗殺による賞金獲得を狙って、自爆攻撃を試みますが、失敗。

その報復措置として、殺せんせいは、梓の脳腫瘍を麻酔なしで完全除去し、完治させてしまいます。殺せんせいは、教え子の命を守りきるために、外科手術を極めていたのでした。



■脳腫瘍



物語の世界ではよく出てくる病気ですが、実際の発生頻度は、10万人に12人くらいなのだと、ウィキペディアに書いてありました。


日本女性の16人に1人が罹患するという、乳がんと比べると、とても少ない病気なのだなと感じます。

いろいろな作品で、絶望の代名詞のような形で取り上げられるために、治りにくい病気であることは、よく知られています。


暗殺教室の梓は、医師に余命宣告されていて、経済的な問題もあり、治療は諦めた状態でした。






この人は、もしも殺せんせいに出会わなければ、爆死していたはずでした。



脳腫瘍治療の厳しい現実について書かれた書籍としては、かつて紙の本で、次の二冊を、読んだことがありました。


岩田隆信『医者が末期がん患者になってわかったこと』

岩田 隆信, 岩田 規子
『続・医者が末期がん患者になってわかったこと―家族の闘いと看護の記録 』



強い苦痛のなかで、生きようとする気持や、家族との絆のありかたを、極限まで試される病気…そういう印象でした。



助からない病気…というイメージが非常に強かったのですが、次のような事例もあるのだそうです。


漫画【脳神経外科医との会話】
http://usagi421.web.fc2.com/manga4.html


殺せんせいがいない世界でも、家族による渾身の戦いが、悪性の脳腫瘍の進行に打ち勝つこともあるのだと、教えられました。(患者である男性の奥様が、とてもかっこいい…)







池田 さとみ「辻占売」 (先天盲)(盲目)


辻占売: (1) (ぶんか社コミックス) Kindle版  マンガ


池田 さとみ (著)  Amazonで見る




占い師の閑と、生まれつき目の見えない未信。

時空を超えて真実を見通す、未来予知の能力を持つ二人が、普段通りの街の中で起きている、ごくありきたりな人の不幸や、心の歪みにふれて、そこにほんの少し、光を当てていきます。



(2016/9/26の時点で、この書籍はKindle unlimitedに登録されています)





読み放題のリストで見かけて、読んでみた作品です。

一つ一つが読み切りの物語になっています。
少し悲しい、暗いお話が多いですが、不幸な境遇にある登場人物たちは、閑や未信に出会うことで、ゆがんだ場所から逃れ、光のあたる人生を手に入れることができます。

あ、でも、例外もあります。

ごみ処理場の環境汚染で死に絶えてしまった、とある生き物たちは、一瞬の命の輝きのあと、あの世へ旅立ち、汚染を隠蔽しようと目論んでいた市長は、怪死を遂げました。(´・ω・`)




■先天盲


生まれつき、もしくはごく幼いうちに視力を失って、視覚記憶を持たない状態のことを、先天盲というのだと、今回、この作品を読んで調べたことで、はじめて知りました。


作中の未信は、盲目であること自体ではなく、生まれつき持っていた未来予知という能力のために、親に無理心中を仕掛けられ(親だけ死亡)、周囲に気味悪がられるなどして、窮地に追いやられていきます。



未信の能力は、盲目であることを代償として得られたものかどうかは、一巻を読んだ限りでは分かりませんが、作中では、そのような印象を与える描写がされています。

重い障害を持つがゆえに、特別な力を得るということは、先天的な障害にまつわる伝承のなかで、繰り返し語られていて、その伝承の積みかさねによって、そうした考え方に説得力が生まれているように思えます。

このことはまた、古今東西の、障害を持つ子どもの親が、無意識に願うことであるかもしれません。


私も重度の障害児の親ですので、そのような思いは理解できるように思います。


そしてときどき、そうした子供たちは、奇跡かもしれないと思えるような「何か」を見せてくれることが、実際にあります。必ずしも超能力ではなくても、その子がそこにいることで、かけがえのない出来事に出会うということは、現実に、確かにあります。
















2016年9月24日土曜日

沖田 ×華・君 影草 「はざまのコドモ」 (広汎性発達障害・睡眠相遅延症候群)

はざまのコドモ 息子は知的ボーダーで発達障害児 Kindle版 マンガ
沖田 ×華  (著), 君 影草 (その他)

Amazonで見る



乳児のころから睡眠に問題を抱え、親がヨレヨレになっても全く寝てくれないコドモ。


育ち方にも、行動にも、問題が山ほどあるのに、明確な診断が出なくて、「様子を見ましょう」「育て方のせいでは?」といわれてしまうコドモ。

普通学級への適応が難しいのに、知能が高くて療育手帳をもらえないため、支援学校を選択できず、行き場を失ってしまうコドモ。




一気に読む途中、何度となく怒髪天状態になりました。



「何このバカ教頭!? 自分の業績に傷がつくから発達障害の子を学校から追い出すとか、氏ねばいいんじゃない?!」


「担任クソすぎ! 気に入らない児童をあからさまに脅迫するとか、この世にいらんわこんな人材!」


「ヤブ医者ゴルアぁぁぁ! 自分の無能タナに上げて、こんなに頑張ってる母親に責任負わすなあああああっ!!」





他人事ではない話ばかりでした。(´;ω;`)



ええと、我が家にも、発達障害児が複数おります。



横綱級の重度広汎性発達障害の息子。

診断名は広汎性発達障害だけど、ADHDに近い問題を抱えていて、投薬を受けている娘。


最も障害が重くて生活が大変なのは、息子です。

自立できる部分が少ないので、24時間、ほとんど目を離すことができません。つねに介助・付き添いが必要です。一人で出歩くことも、留守番をすることもありません。

家族の負担は、客観的に考えると、かなり大変ではあります。

けれども、支援学級、支援学校で大切に育てていただき、卒業後も、手厚い福祉サービスを受けることができて、本人は毎日幸せそうに暮らしています。私自身、息子のことを、「苦労」と思うことは、もうほとんどありません。

もちろん息子の将来のことは、胃がちぎれるほど心配ですけども、いろいろな手立てを考えて努力しようと思える程度には、生活にも精神的にも、余裕を持つことが出来ています。

なにしろ、横綱級の障害児、しかも自閉傾向バリバリですから、周囲が障害の有無を疑う、などということが、あり得ません。

無理解による差別に遭遇することがあっても、福祉行政や障害児教育の世界では、主役ド真ん中な存在ですから、居場所がちゃんとあるのです。



それに対して、娘のほうは、かなり微妙な難しさ、困難さがつきまといました。


集団適応の難しい子だということは、幼稚園に入る前から、薄々分かってはいました。

けれども、知能の発達に目立った問題がなく(…問題どころか、2歳になるまえに、ひらがなを覚えはじめて、周囲を驚愕させました)、自閉傾向も全くありませんでしたから、療育の必要も感じないまま幼稚園を終え、小学校に入学させてしまいました。


その結果、小学校入学1週間で、クラスへの適応が困難となり、保健室登校開始。
担任の先生の尽力もあって、なとんか教室に戻れるようになったものの、宿題は全くできず、提出物、持ち物の管理もかなり難しく、親がすっかり頭を抱える状態になりました。

できなかった宿題、出せなかった提出物に、びっしりと付箋を貼られて、返されてくる日々…。

担任の先生には、何度となく相談しましたが、

「でも、もっと大変な子も、いますから」
「そんなに問題ではないと思うんですよ」


といった答えが返ってくるばかり。

現実に子どもが苦しんで、困っているのに、「たいしたことはない」と言われてしまう苦痛。

手探りではあれ、できる限りの手を尽くした上で、相談していて、そう言われてしまうと、どうしようもありません。


問題ないなら、なぜ宿題ができないのか。

なぜ教室で全く声が出せず、クラスメートにいじめられつづけるのは、「たいしたことはない」問題なのか。

どうして、「たいしたことはない」はずなのに、学校に行くのを猛烈に怖がり、宿題をさせようとすると、死にそうなほど号泣して、断固拒否しつづけるのか。


結局、息子が幼児のころから御世話になっている療育教室の先生に相談して、娘も療育を開始。その後、病院で広汎性発達障害の診断をいただいて、ADHDの治療薬を処方してもらい、学校での適応の問題は、劇的に改善しました。


もしも、息子の療育の先生との出会いがなかったら……私も、「はざまのコドモ」のお母さんのように、孤立状態のなかで、いまも苦しみつづけていたかもしれません。


あ、作中の教頭のような人は、残念ですが実在します。
うちも、似たようなことがありました。校長先生に呼ばれて、いきなり息子を転校させろと言われたのです。

そのときに校長室で言われたセリフを忘れられません。


「こういう子っていうのはね、学年があがってくると、物覚えにくくなって、固まっちゃうんだよね。早く移ったほうがいいんですよ」



それでも、なんとか話し合って、在籍を続けさせてもらい、息子は仲間たちと一緒に立派に卒業することができましたけれども、心のなかには、強い痛みが残りました。


当時描いた、校長先生の似顔絵(?)に、そのころの気持がよく現れている気がします。










本の紹介から思いっきり脱線しましたが……


「はざまのコドモ」は、学校や、障害児教育に関係する、多くの方々に、読んでもらいたい漫画作品です。


これ以上、「はざま」の暗黒のなかで、苦しみ続ける親子が生まれてしまわないためにも。



本書は、2016/09/24 現在、Kindle unlimitedに登録されています。定額読み放題です。